鉄のまち釜石〜トロッコで巡る釜石鉱山坑道見学と国登録有形文化財の旧釜石鉱山事務所


2016/07/28
地域情報 #観光

トロッコで巡る 釜石鉱山坑道見学

 

 釜石鉱山は、岩手県釜石市の西部に位置する鉄鉱石鉱山で、仙人峠で磁鉄鉱が発見された江戸時代末期からその歴史が始まり、日本の近代化の歩みと共に『鉄のまち釜石』の根幹を支えてきました。現在、大規模な鉄鉱石の採石は行われていませんが、実際に利用されていた電気トロッコによる坑道見学ツアーが年に数回開催されています。今回、2016年7月25日に開催された釜石鉱山坑道見学会に参加してきました。

 

釜石鉱山のご紹介 – 釜石鉱山株式会社
平成28年度 釜石鉱山坑道見学会を開催します | 縁とらんす

 

釜石鉱山坑道見学

 釜石鉱山への坑道入り口で私たちを出迎えたのは、「バッテリーロコ」といわれる電気駆動の名物トロッコでした。トロッコは高さ1.5mほどで、可愛らしい外観が特徴です。

 

 このトロッコは鉱山内にある地下水力発電所の電気を使って充電しており、環境に配慮された乗り物です。地下水力発電所では湧水を利用した発電が24時間行われており、電力会社にも売電可能なほどの電気を生み出しています。

 

トロッコ

レトロな外観とカラフルなカラーリングのトロッコ

 

仙人秘水原水採水地(旧製造工場)

 

 トロッコで約10分ほど、ひんやりと薄暗い坑道を走っていきます。坑道内の気温はおよそ10度。車内の熱気との温度差でたちまち曇っていく車両の窓、ぼんやりと広がっていく白熱電球の灯り、そして身体全体に響くようなトロッコの車輪の音に非日常感がぐっと高まっていきます。

 

 坑道を抜けると素掘りの空間が広がります。ここでは釜石鉱山の成り立ちが語られます。安政4年(1857年)に大島高任が、この大橋に日本で最初の洋式高炉を1期建設します。実は世界遺産となった橋野の高炉より1年早く、近代製鉄の歴史は大橋から始まっているのです。この事実に驚かれる方も多いかもしれません。

 

製造工場跡地

仙人秘水や仙人秘水を原料とする商品の前で釜石鉱山の歴史を説明

 

 このフロアの奥には、国際的な味覚審査機構からも最高位の評価を受けている「仙人秘水」の旧製造工場があります。現在、仙人秘水はパイプを通して外の工場まで送水していますが、昔はこの場所まで空のペットボトルを運び、充てんをして再び運び返すという作業が繰り返し行われていたそうです。

 

仙人秘水説明ボード

釜石鉱山の鉱脈と「仙人秘水」源泉地の案内パネル

 

仙人秘水について

 仙人秘水は、日本で最初に認可された非加熱処理の「ナチュラルミネラルウォーター」です。”ナチュラル”とは、ミネラル分調整やブレンド等を行っていない天然のままの水を意味します。

 

 水の特性として、pH値は生体水に近い約8.8の弱アルカリ性で、ミネラル分の含有量は適度であるとのこと。酸化しにくい軟水はまろやかな口当たりで、ほのかな甘みが感じられます。この水が何十年という長い年月をかけ、花崗岩や磁鉄鉱といった厚い岩盤で濾過されたものだと思うと、自然が作り出すバランスに驚かされます。

 

原水採水場

坑道内では豊富な水が湧き出ており試飲することもできます

 

 仙人秘水の特徴として、抗酸化力が強い(酸化還元電位が低い)水であることが挙げられます。お酒好きな鉱夫たちによく飲まれていたというエピソードがあるほど、抗酸化力が強い仙人秘水は”二日酔いに効く”といわれているそうです。不純物の少なさを表す電気伝導率の低さにもその俗説を裏付ける数値が現れており、75[μS/cm]という数値は市販されている国内外のミネラルウォーターに比べても低い水準になるそうです。

 

 割り水として、チェイサーとして、または翌日の二日酔い対策として、お酒との相性が良いところも仙人秘水が愛される一つの理由なのでしょう。もちろん不純物が少ない水は、コーヒーやお茶、または料理でも大きな効果を発揮します。

 

仙人秘水と無印良品

 無駄をものをそぎ落としたようなシンプルさと使いやすさが世界中で人気の無印良品では、日用品から食品、衣類や家具、更には住宅まで様々な製品が展開されています。なかでも化粧水や乳液などのスキンケア用品は、保湿力の高さと買い求めやすい価格帯から根強いファンが多い商品ですが、その原料として採用されているのが、煮沸や殺菌の必要のないナチュラルミネラルウォーター「仙人秘水」です。

 

参考記事:MUJIキャラバン – 天然水 | 無印良品

 

化粧水

無印良品で商品化されているラインナップの数々

 

鉄鉱石採掘跡

 

鉄鉱石採掘跡

鉄鉱石採掘跡で発破作業や運搬についての説明を受ける

 

 次にトロッコは、鉄鉱石採掘跡へ向かいます。坑内で華麗なスイッチバックを披露するのですが、突如方向が変わるので乗客の皆さんは少し驚くかもしれません。走り出したその先には採掘の歴史を感じさせる趣深い空間が広がっています。

 

 釜石鉱山では鉄鉱石だけでなく、貴重な鉱物も多く採掘されています。石灰石やトルマリン、大理石など自然が創りだした多くの資源がこの釜石鉱山には埋蔵されています。

 

釜石鉱山で採掘される石

釜石鉱山で採掘された鉄鉱石や石灰石など

 

 これらを採掘するためには大変危険な作業が待っています。現場では熟練者の腕やカンを頼りとする作業が多くあることが伺えました。やはり自然を相手にする現場である以上、五感で異変や危険を察知する能力が必要とされるようです。

 

採掘現場

採掘現場での発破作業は常に危険を伴う

 

 映画のセットに登場しそうな運搬車も登場します。不思議な構造をしていますが、それもこの狭い坑道内をいかに安全に進むかということを考え作られています。ちなみに釜石鉱山で採掘された鉱石の総量は、東京ドーム約25杯分だそうです。

 

運搬車

運転席が横向きに設置された運搬車

 

グラニットホール

 

 かつて構内の休息場として利用されていた空間は、現在音楽ホールとして活用されています。花崗岩をドーム状に掘削して作られたホールで、音の響きが特徴的です。この場所で音楽を聴くと天井からしたたる水の音は次第に消えて、音楽に包まれているような感覚を覚えます。唯一無二の音楽ホールとして広く活用されることが楽しみです。

 

グラニットホール

これまで様々な録音やロケが行われてきたグラニットホール

 

グラニットホールからは、トロッコで5分ほどで坑道の入り口に戻ります。今回の釜石鉱山坑道見学会は以上で終了となりましたが、釜石鉱山と同じ大橋地区にある旧釜石鉱山事務所にも訪問しました。

 
 

旧釜石鉱山事務所

 釜石鉱山付近には、2013年に国の登録有形文化財(建造物)に指定された「旧釜石鉱山事務所」があります。1951年に竣工したこの建物は、釜石鉱山株式会社の総合事務所として2007年まで利用され、翌年、日鉄鉱業株式会社所蔵の釜石鉱山関連資料群とともに釜石市に寄贈されました。

 

旧釜石鉱山事務所

旧釜石鉱山事務所の玄関

 

 2011年に発生した東日本大震災の地震により建物の一部が壊れ、改修工事のため休館となっていましたが、耐震補強工事に合わせてレイアウトや展示内容を大幅に見直し、2016年6月より一般公開が再開されました。釜石鉱山の歴史はもちろん、当時の学校や病院など、この地域で営まれていた生活の様子も知ることができます。

 

【1階】
昭和の事務所:昭和30年代の事務所を再現。当時実際に使用されていた”手回し計算機”や”和文タイプライター”など事務用品を展示

 

旧鉱山事務所

机や事務用品もそのままに昭和の事務所をそのまま再現している

 

【2階】
鉱山のギャラリー:釜石鉱山に寄贈された絵画や彫刻を展示
鉱山の学校:釜石鉱山の学校だった釜石鉱山学園に関する資料や釜石ゆかりの作家の書籍を展示
鉱物室:釜石鉱山で採集された鉱石を中心に展示
鉱山の病院:釜石鉱山の付属病院で使用されていた器具などを展示
鉱山の展示室:釜石鉱山に関する様々な歴史資料などを展示
鉱山の電話交換室:釜石鉱山で使用されてい電話や交換機を展示

 

釜石鉱山概観図

階段の傍に置かれた大きな釜石鉱山概観図

 

鉱山のギャラリー

鉱山に関する美術品が並べられたギャラリー

 

鉱山の資料室

展示室では鉱山の歴史資料や採掘、分析道具などが展示されている

 
 

今回の、釜石鉱山坑道見学会と旧釜石鉱山事務所見学のダイジェストをムービーでご覧いただけます。

 

岩手県釜石市では、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産としユネスコ世界文化遺産に登録された「橋野鉄鉱山」のほか、今回ご紹介した釜石鉱山や旧釜石鉱山事務所を訪れることができます。ぜひ”鉄のまち釜石”で、江戸時代末期から始まる日本の近代化への歩みの一端を体験してください。

 
※釜石鉱山坑道見学会は年に数回開催されており、常時公開はされていません。
※旧釜石鉱山事務所は、休館日があるほか冬場は休館となります。
旧釜石鉱山事務所-釜石市

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縁とらんす編集部による記事です。

問い合わせ:0193-22-3607 〒026-0024 岩手県釜石市大町1-1-10 釜石情報交流センター内


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