川喜 生そば開発で農水大臣賞、独自の殺菌技術で長期保存可能に〜いわて南部地粉そば
優良ふるさと食品中央コンクールの新技術開発部門で最優秀に輝いた「いわて南部地粉そば」
釜石市定内町の食品加工業、川喜(川端實会長)が製造する「いわて南部地粉(じごな)そば」が、2015年度優良ふるさと食品中央コンクールの新技術開発部門で最優秀に当たる農林水産大臣賞に輝いた。受賞した製品は、独自の殺菌技術で長期保存を可能にした無添加の生そばで、ソバ栽培、乾燥、製粉、商品化までを一貫して自社で手掛けている。「手打ちそば屋のようなそばをつくりたい。そば本来の味と香りを家庭でも。おいしく安心な生そばを望んでいるお客さんの声に応えたい」と10年かけてたどり着いた麺。川端会長(68)は「商品に自信はあったが、まさか最高賞とは。たいへん光栄で、これからの弾みがつく」と喜びを語った。
さらなる商品力向上目指す
同社は1949年に製麺店として創業、麺づくりにこだわってきた。30年ほど前に首都圏市場への販路開拓に着手。全国各地から進出する製麺メーカーや大手メーカーと戦うために考えたのが、県産ソバの利用と添加物を極力使わず体にやさしい麺で、消費者の健康志向の高まりを受け、順調に売り上げを伸ばした。
当時は国産食材へのこだわりに対応するだけの県産ソバを確保することが難しく、外国産ソバも使用していた。川端会長は「100%県内産のそばを商品化したい。足りない分は自分たちで調達しよう」と模索。そんな時、県沿岸広域振興局農林部から遊休農地を活用した自家栽培の提案があり、10年前から橋野町の和山高原の農地で栗橋地区の農家と一緒にソバ栽培を始めた。
1年目は思ったほど収穫できなかった。「耕作放棄地だったため土の栄養が足りなかったのでは」との反省から、2年目は土づくりから再挑戦。期待通りの収穫ができるようになり、2009年には釜石・大槌地域の農家と生産組合を設立し、自社農園でのソバ栽培も手掛け、100%県産そばの商品化に近づいた。
そばの生麺は素材の風味を楽しめるとして人気が高いが、賞味期限は短い。加熱殺菌や添加物を加えれば保存が利くが、風味を損なうという課題があり、克服する生麺の開発は難航。震災後に産学官連携の勉強会に参加したことが転機となり2012年、岩手大農学部の三浦靖(まこと)教授らと共同で技術開発に乗り出した。翌年には、そば粉を瞬間的に高温殺菌する機器を開発し、風味を保ちながら賞味期限を4日程度から10日間に延ばすことに成功。また、東北経済連合会ビジネスセンターの支援でブランド化を図り、14年に県産素材にこだわった同商品を完成、販売にこぎつけた。
震災では直接的な被害は少なかったものの、物流が途絶えたことから販路を奪われ、売り上げが急激に低下した。しかし、岩大との共同開発で独自の生産技術を開発するなど商品力に磨きをかけたことで首都圏など遠隔地市場への進出が可能になり、取引先を百貨店や高級スーパーに限定することでブランド力を向上させ、販路を再構築。売り上げは震災前のピーク時の水準に戻りつつあるという。
「開発はたくさんの人や機関の指導、協力のおかげ。これで終わりでなく、まだやることはある。少し高くても、安全でおいしいものを求めるニーズがある限り、オール岩手産で食べて健康、喜んでもらえる商品をつくり続けたい」と川端会長。そば粉の割合の高い生麺、長期保存が利く半生麺の開発など、さらなる商品力の向上を目指している。
今回の受賞で社員の麺づくりへの情熱も高まっている。新商品開発、工場改善を担当する原田秀範常務(53)は「ハードルは高いが、会長がイメージするものに応えていきたい」、製造部の菊池敬太部長(30)は「一つのブランドとして、もっといろんな人に食べてもらいたい。今後も安心安全な食品づくりを続けていく」と力を込める。
いわて南部地粉そばは2食入りで、つゆなし500円(税別)、つゆあり700円(同)。首都圏を中心に販売している。
「いわて南部地粉そば」を開発した川喜の川端實会長、菊池敬太部長、原田秀範常務(右から)。「お客さまのニーズがある限り、喜んでもらえる商品をつくり続けたい」と意欲を新たにしている
同コンクールは、一般財団法人食品産業センターが主催し、地域で生産される農林水産物の加工利用や、食品の品質向上に取り組んでいる優良事例を毎年表彰している。同社の受賞製品は、昨年度開催された県ふるさと食品コンクールで最優秀賞を受賞しており、県が推薦していた。本県からは花巻市の佐々長醸造の「ヨーグルトにかけるお醤油(しょうゆ)」も推薦され、新製品開発部門で食品産業センター会長賞を受賞している。表彰式は3月14日、東京都千代田区の東海大学校友会館で行われる。
(復興釜石新聞 2016年2月24日発行 第464号より)
カラダにやさしい麺作り 株式会社川喜
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