チーム一丸「被災地に元気を」〜釜石 20年ぶり夢舞台、21世紀枠でセンバツ滑り込み
「ヨッシャー、甲子園だ」。20年ぶり2度目のセンバツ出場を決め、喜びを爆発させる釜石高の選手ら=1月29日午後3時20分
兵庫県西宮市の甲子園球場で3月20日から行われる第88回選抜高校野球大会に出場する32校が1月29日に決まり、21世紀枠(3校)で釜石が選ばれた。釜石南時代の96年に初出場して以来、20年ぶり2度目の「春」。夢に見た甲子園出場がホンモノとなり、佐々木偉彦監督(31)を胴上げする釜石ナインは喜びを爆発させた。東日本大震災から間もなく5年。今回は震災で大きな痛手を負った地域の期待を背負い、晴れの舞台に臨む。
この日、校舎1階の校長室には約50人の報道陣と10台ほどのテレビカメラが詰めかけ満杯となった。張りつめた空気の中、午後3時過ぎ、選考委員会本部から電話が入り、互野恭治校長が受話器を取った。「被災地釜石にとって願ってもない朗報。ありがたくお受けします」。緊張の面持ちが笑顔に変わった。
吉報が届き、笑顔で電話に応える釜石高の互野恭治校長
正面玄関前で待機していた野球部員のもとへ互野校長が駆け付け、吉報を報告。「津波から避難し、『釜石の奇跡』と言われた。そこから成長した姿を全国のみなさんに見せてほしい」と激励した。ユニホームを着たナインがとび上がり、喜びを爆発させた。校内にも放送が流れ、授業中の生徒たちから歓声が湧いた。
歓喜の胴上げが始まる。互野校長に続き、佐々木監督が2度、3度と宙を舞った。ベンチから大きな声を出し続け、センバツ出場の原動力となった菊池智哉主将(2年)の重い体も持ち上げられた。校舎の屋上からはセンバツ出場を祝う垂れ幕がスルスルと下りた。
震災に負けず練習に工夫を重ね、昨秋の県大会で準優勝。東北大会では初戦で敗れたが、甲子園常連校の東北(宮城県)と延長戦にもつれ込み、互角に戦った。そのひたむきな姿勢が高く評価され、20年ぶりにめぐってきた夢舞台。就任1年目で甲子園に導いた佐々木監督は「被災地の復興はまだ道半ば。全国の人たちに被災地を、目標に向かって力を発揮する子どもたちの姿を見てほしい」と力を込める。
就任1年目で悲願を達成した佐々木偉彦監督を歓喜の胴上げ
大槌町赤浜で被災し母親を亡くしながらも、県大会、東北大会を一人で投げ抜いた岩間大投手(2年)は「甲子園に出るだけでは意味がない。全力プレーで被災地の人たちに元気を与えたい」と誓う。松原町で被災し、甲子町の仮設住宅で暮らす菊池主将も「お世話になった方々に恩返しをしたい」と口をそろえる。
夢に見た甲子園出場が現実となり、とび上がって喜ぶ岩間投手(右から6人目)ら
昨秋の沿岸南地区予選1回戦でコールド負け。危機的状況からチームが生まれ変わり、奇跡的な快進撃が始まった。佐々木監督は「当初は岩間が中心だったが、他の選手も力をつけ、粘って勝てるチームになった」と成長に目を見張る。
目標は「トータルベースボール」。打撃の基本を見直すだけでなく、走攻守全体の底上げを図る。野球についてさまざまな視点から考える意識改革も徹底。選手には日々の課題をチェックする「野球ノート」の提出を義務付け、そこには必ず両親や仲間、震災後に支えてくれた周囲の人々への感謝の言葉を記すことにしている。
昨秋の公式戦終了後からウエートトレーニングなど基礎体力の強化にも取り組んできた。11月には、選手1人が1泊2日で10合の米を食べ尽くす「釜めし合宿」を敢行。57キロと、投手としては華奢(きゃしゃ)な体つきだった岩間投手は「体重が6キロも増え、課題の球速アップにつながる」と喜ぶ。
初出場の20年前は初戦で米子東に敗れ、勝利の校歌を響かせることはできなかった。当時はまだ小学生で、テレビでその姿を見ていたという佐々木監督は「まず1勝し校歌を歌いたい」としながらも、「21世紀枠の最高はベスト4。その歴史を塗り替えたい」と目標を高く掲げる。菊池主将も「釜石の歴史をつくりたい」。岩間投手は「どこと当たっても絶対に負けない」と強豪校との対戦を待ち望む。
釜石高野球部は2月下旬から愛知県東海市で合宿に入る。3月上旬には関西で2次合宿を行い、3月11日に大阪で行われる組み合わせ抽選会に臨む。
■釜石高野球部の歩み
1914年に釜石女子職業補修学校として創立。釜石高等女学校などを経て49年に釜石高となったが、63年に釜石南、釜石北に分離。2008年に両校が統合し釜石高となった。硬式野球部は46年に創部。62年に秋の県大会で優勝し東北大会に進んだが、準決勝で敗れ選抜出場を逃した。釜石南時代の95年秋にも東北大会に進み準優勝。96年の第68回選抜大会に初出場したが、初戦で米子東(鳥取県)に7-9と惜しくも逆転負けした。現部員は女子マネジャー1人を含む24人。
(復興釜石新聞 2016年2月3日発行 第458号より)
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