自宅と同じ環境で小規模デイサービス〜高齢者の孤立化防止、釜石市甲子町大畑イーハトーブの家


2015/12/01
復興釜石新聞アーカイブ #医療・健康

空き家を改装して開所したデイサービス「イーハトーブの家かっし」

空き家を改装して開所したデイサービス「イーハトーブの家かっし」

 

 自宅と同じ環境でデイサービスを――。そんな思いが込められた小規模デイサービス「イーハトーブの家かっし」が、釜石市甲子町大畑にオープンした。家庭的な雰囲気の中でゆったりと過ごしてもらいたいとのコンセプトで、民家を改修して活用。運営する「クドゥ」(小佐野町)の工藤誠社長(48)は「大きい建物がある施設のような生活空間ではなく、自宅に近い暮らしの環境を提供したい。利用する人がやりたいことをやり、安らげる場になれば」と意気込む。

 

「民家型」は市内初 宿泊も視野に

 

 築40年超の木造家屋。玄関の引き戸を開けるといくつもの和室が連なる。それに、台所と一体になった食堂、小さめのお風呂。小濱啓介施設長(50)は「昔ながらの民家は高齢者に使い勝手がよく、なじみやすい」という。

 

 延べ床面積は約120平方メートル。畳の張り替え、勝手口の段差の解消、利用者の安全のため玄関や廊下、風呂場などに手すりを付けたほかは大規模なリフォームはしていない。自宅に帰っても安全に移動できるよう、 部屋の敷居などわざと段差を残し、 利用者が自宅で自立して生活できるよう工夫した。

 

 デイサービスの対象は要介護1~5の人で、定員は最大10人。入浴、体操、外出、釣り、おやつ作り、土いじり…。利用者はスタッフの介助を受けながら、思い思いの時間を過ごす。

 

 麻雀(マージャン)、将棋などゲームルームも配置。隣の部屋から寝息が聞こえてきた。ベッドで気持ちよさそうに寝ていたのは利用者第1号で、上中島町の仮設住宅で暮らす萬信さん(97)。すっきり顔で、「歌っこ、お風呂、買い物、好きなことできて最高だね。快く迎えてくれて、こんないいところあっか」とパワー全開だ。

 

利用者を囲んで談笑するデイサービスの職員ら

利用者を囲んで談笑するデイサービスの職員ら

 

 震災で生活環境が大きく変化した被災地では仮設住宅から復興住宅への転居が始まったところで、落ち着かない状態はまだ続く。独り暮らしの高齢者も多くなっており、転居後、孤立してしまうケースも少なくない。

 

 震災後、人とのつながりの希薄化を感じていたという工藤社長。長年、定内町で食品加工(仕出し弁当)の工藤食品を家族で経営してきたが、被災地の生活環境の変化を受け、「違った形で地域のためにできる仕事はないか」と考えるようになり、たどり着いたのが「必要とされている仕事は介護事業」だった。

 

 在宅介護を支える地域拠点の一つがデイサービスの施設。なかでも、民家を改修して活用する小規模施設は、自宅に近い環境で過ごせるメリットがある。こうした考えで、デイサービス「茶話本舗」を全国展開する日本介護福祉グループ(東京)とフランチャイズ契約を結び、昨年暮れから、空き家を探し始めた。

 

 介護事業のための会社は今年2月に立ち上げた。7月に理想の空き家が見つかり、改修。10月から利用者へのサービスを始めた。

 

 スタッフは介護士ら5人。サービス提供時間は平日の午前9時~午後5時。4人が利用登録している。

 

 小濱施設長は「大人数が苦手な人が気軽に利用できるようにと開設。民家型は釜石では初めてで、地域の資源、選択肢が増えたと考えてほしい」と話す。生活相談員兼介護員の佐々木英之さん(42)は「もう一つの家、別荘のような感覚でゆったりと過ごしてもらえるサービスを提供したい」と意欲を語った。

 

 イーハトーブという名称について、「宮沢賢治の理想郷を釜石につくりたい」と工藤社長。将来は24時間、365日のサービス提供、宿泊を受け入れる体制の構築も視野に入れる。「沿岸地域でも珍しく、復興が思うように進んでいない地域へ貢献できる取り組み。仲間と一緒に釜石から理想郷を広めていきたい」と語った。

 

 希望者の見学は随時受け付けている。問い合わせはイーハトーブの家かっし(電話0193・27・8373)へ。

 

(復興釜石新聞 2015年11月21日発行 第438号より)

 

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