唐丹町本郷 津波記念碑が震災遺構に〜国立民俗学博物館主導で補修


2021/04/12
復興釜石新聞アーカイブ #防災・安全

津波記念碑を大震災遺構とする修復作業

津波記念碑を大震災遺構とする修復作業

 

 東日本大震災で損傷した釜石市唐丹町本郷地区の明治三陸大津波記念碑「海嘯遭難記念之碑」の保存事業は、16日に完了した。大津波の波力や漂流物の衝突で欠損、失われた碑文の一部をそのままに、残った板面を補強、接着し直す作業により、市内では珍しい石碑の「東日本大震災遺構」となり、後世に大災害を伝承する。

 

 この津波記念碑は1896(明治29)年6月15日に発生した三陸大津波の被災から三十三回忌に当たる1928(昭和3)年、地元住民の発案で建立された。一部はコンクリート基礎に埋め込まれた石碑の地上高は270センチ、幅160センチ、厚さ155センチのくさび形の自然石。上部に標板(横70センチ、縦35センチ)、碑文は縦1メートル、横75センチ。

 

 全文263文字の碑文は、大津波の発生(旧暦5月5日の端午の節句)、流失家屋300戸、犠牲者800人で、生存者20人の壊滅的な被害のほか、未来に伝え続けるよう強い思いを刻んだ。

 

 本来の建立地は南に約110メートルの地点だが、2008年に道路改良工事に伴い現在地に移転。1933(昭和8)年の三陸大津波、10年前の震災を伝える「伝えつなぐ大津波」と並ぶ。浮き彫りの銘板、刻字した碑文の基盤はアスファルト状の素材という珍しい形式だ。

 

 震災の津波で、碑文が欠損。残存部分は接着面の劣化で浮き上がり、多数の亀裂もあった。保存事業は、それらを修復し、半永久的に残す目的で行われた。全面的な「復元」ではなく、損傷したまま残す「震災遺構」とした。

 

 事業主体は「伝承碑修復事業実行委員会」で、本郷町内会の小池直太郎会長を会長に、市、唐丹地域会議(佐々木啓二議長)、釜石観光物産協会などで構成。公益財団法人東日本鉄道文化財団も参加し、事業費約100万円の半額を助成した。

 

 修復は国立民族学博物館(大阪府吹田市)の日高真吾教授(文化財保存科学専攻)が主導し、京都府の専門業者文化創造巧芸(和高智美代表)が参加。剥離、回収した断片を持ち帰り塩抜き。パーツを炭素繊維で固定し、本郷に持ち込んだ。16日まで3日間かけて元の位置に接着、前面の亀裂にパテを埋めて完了した。

 

 日高教授(49)は「記念碑には建立当時の人々の『伝え、残したい』という強い思いが込められており、感動した。三十三回忌まで建立の時間がかかったことに復興の苦難を感じる」と語った。小池会長(74)は「記念碑が震災の遺構となることは大事だ」と意義を強調した。

 

 同博物館では「復興を支える地域文化~3・11から10年」展を今月4日から5月18日まで開催中で、同記念碑の原寸大レプリカと、同博物館が復興を支援した釜石市の南部藩寿松院年行司支配太神楽、大槌町の大槌虎舞など6団体の衣装が展示されている。

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