小正月の伝統行事、荒川熊野権現御神楽「悪魔払い」〜無病息災 平穏祈る


2020/01/21
復興釜石新聞アーカイブ #文化・教育

獅子頭に頭をかんでもらい、幼子の健やかな成長を願う

獅子頭に頭をかんでもらい、幼子の健やかな成長を願う

 

 釜石市唐丹町の荒川町内会(雲南幹夫会長、90世帯)は12日、小正月の伝統行事「荒川熊野権現御神楽」による“悪魔払い”を行った。神楽衆約40人が地域の家々や神社を回り、大漁や五穀豊穣、住民の健康などを祈願。災いのない1年となるよう願いを込め、各所で舞を奉納した。

 

 紀州熊野から分霊を勧請した荒川鎮座熊野神社を有する同地区。1187(文治3)年に海上安全、火防などの守護神として熊野大権現をまつり、御神楽(権現舞)を伝承してきた住民が年頭に必ず行うのが、“悪魔払い”と称する厄払いの門打ち。別当の鈴木高司さん(67)宅で天照御祖神社の河東直江宮司によるおはらいを受けた一行は、獅子頭3体を携え、熊野神社を皮切りに地区内16カ所を巡った。

 

 荒川海岸では「御水(塩)取り」と呼ばれる神事を実施。海水を付着させた笹竹で頭を清め、お神酒、塩を供えて拝礼。海と高台にある湊神社に向かって舞を奉納し、航海の安全、大漁を祈願した。この後、順に地区内に点在する五葉神社など各社、集会所、班長宅を回り、住民らの無病息災、家内安全、地域の平穏などを祈った。

 

「御水取り」の神事の後、舞を奉納する神楽衆=荒川海岸

「御水取り」の神事の後、舞を奉納する神楽衆=荒川海岸

 

 荒川地区は2011年の東日本大震災津波で、国道45号東側から現在の三陸沿岸道路橋脚付近まで浸水。約50戸が被災し、住民数人が犠牲になった。震災から間もなく9年―。海岸には水門を備えた堤防、高台には戸建て復興住宅が整備され、自主再建もほぼ完了した。

 

 海に近い下荒川に暮らす1班班長の鈴木賢一さん(74)は、津波で平屋家屋を流失。家業の農業を続けるためにいち早く再建に着手し、翌12年12月、2階建て新居を構えた。町内会役員を歴任し、同神楽の伝承活動にも取り組んできた鈴木さんは「地区の子どもたちが減って大変だが、何とか伝統を受け継いでいってほしい」と期待。今春には4人目の内孫が誕生予定で、新年のスタートに家族の無事と幸せを願った。

 

 雲南会長(67)によると、同行事は「これまで一度も休んだことがなく、昔は全戸回ったことも」。久保正勝副会長(63)は「深い信仰の表れ。娯楽がなかった時代は高齢者の何よりの楽しみだった」と伝え聞く。小学1年時から参加する高橋愛里さん(唐丹小6年)は「ずっとつなげていきたい大切な行事。将来、荒川を離れたとしても帰省して参加したい」と意気込んだ。

 

(復興釜石新聞 2020年1月15日発行 第858号より)

 

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