タイミングは今。花開く釜石のように〜三浦幸恵さん 初の個展、自然の草花 丹念に写実
植物をモチーフにした精緻な描写の作品が並んだ
釜石市甲子町の画家、三浦幸恵さん(34)の初の個展「身近な自然を見つめて」は8月25日から28日まで大町の市民ホールTETTOで開かれた。自宅の庭や畑、外出先で目にする花や山野草をモチーフにした水彩、油彩画23点を展示。思わず見入ってしまうほど、本物のように描かれた写実作品が並び、来場者から感嘆の声が上がった。
幼い頃から「絵を描くことを仕事に」と思い描いていた三浦さん。釜石南高(現釜石高)から多摩美術大に進んで油彩画を学び、2010年にUターンした。翌年の東日本大震災を機に、市内の小学校で非常勤講師として活動を開始。依頼を受け肖像画を描くなど制作活動を続けていたが、「作品づくりに集中したい」と15年に退職した。
13年には大学時代の友人との二人展を東京で開催。今回、画家としての歩みをしっかり踏み出そうと決め、古里での初個展が実現した。
初の個展を開いた三浦幸恵さん
三浦さんは大学時代から「日常に潜む微細な感覚」をテーマに制作に取り組んできた。見過ごしがちな感覚を拾い上げようと、今回の展示で選んだモチーフは植物。特に花に心を寄せ、6月から描きためたバラやサクラソウなどを展示した。
メイン作品となった「蒲公英(たんぽぽ)」は甲子川の河川敷で目に留め、力強さに引かれた。自宅で育てるオクラを描いた作品には「光りをもとめて」、毎年春に変わらず花を開かせて始まりを意識させてくれる名前の分からない植物には「新たに咲く」と画題を付けた。
「持てるものを最大限生かして咲いている花と、最大限努力して生きる人の美しさは共通する」と三浦さん。震災から立ち上がりつつある古里、人の動きも活発になるまちの機運に、自身の気持ちも同調し、「タイミングは今。花開く釜石のように、画家として花を開かせたい」と思いを込めた。
対象に向き合い細密に描いた写実作品に、来場者は「写真? え、絵なの!」と驚きの声。「丁寧に向き合っている」と感心する人もいた。
自身の描く世界を見た人たちの声をじかに聞いた三浦さんは「迷い、もやもやが晴れ、頑張ろうという気持ちになった。人生の転機。現実と向き合おう」と表情を引き締める。「絵は現実を映す鏡みたいなもの。絵を描くというレンズを通して現実を見ている感じ」。独自の感覚を生かした作品を生み出し続ける思いを強めていた。
(復興釜石新聞 2019年8月31日発行 第820号より)
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