震災祈念碑に「あなたも逃げて」〜釜石鵜住居復興スタジアム、ワールドカップ観戦客に教訓伝える


2019/06/25
復興釜石新聞アーカイブ #防災・安全

震災祈念碑を除幕し、海に向かって黙とうする関係者

震災祈念碑を除幕し、海に向かって黙とうする関係者

 

 今秋のラグビーワールドカップ(W杯)の試合会場となる釜石市鵜住居町の釜石鵜住居復興スタジアムに、東日本大震災の教訓、避難の重要性を訴える祈念碑が建立され、16日、現地で除幕式が行われた。碑に記された言葉は「あなたも逃げて」。悲劇を繰り返さないようにとの遺族らの願いを刻む言葉は、国内外から訪れる観戦客らに「あの日」の教訓を発信し続けるメッセージとなり、未来の命を守る。

 

 祈念碑は黒御影石製で、高さ約1・5メートル、幅約2メートル、奥行き約70センチ。盛岡市出身で東京在住の書家武田夏実さん(59)が揮ごうした「あなたも逃げて」と文字が刻まれている。

 

 上部には窓のような四角い箱型の造形物が載っている。のぞいてみると、見えるのは鵜住居の街並み。あの日の真実を見つめることで教訓をしっかり受け止め、同時に未来も見つめてもらえるよう思いを込めた。

 

 傍らには避難を訴える日本語と英語の説明板も設置。「命は、あなただけのものではありません」「自らの命が助からなければ、人を助けることができないから。だから必ず逃げて」などと呼び掛ける。

 

 祈念碑は同スタジアム西側にある掲揚ポールそばに整備された。そこは旧鵜住居小の跡地。震災時、校舎は津波にのまれ事務職員が行方不明のままとなっている。

 

 今も戻らぬ大切な人を思う遺族が、「逃げる」という避難の教訓を伝え続けるため形に残すべきだ―と、鵜住居地区復興まちづくり協議会(藤原博会長)に要望。思いをくみ取り、地域住民らからの寄付金(約200万円)を活用し同協議会が祈念碑を整備した。用地は市有地を無償で借りた。

 

 降りしきる雨の中で行われた除幕式で、同協議会の佐々木憲一郎会長代行(51)が刻まれた言葉に込めた思いを打ち明けた。「私は逃げる。だからあなたも逃げて。相手を思いやる、やわらかい言葉。被災した私たちだからこそのメッセージ。それだけでなく、逃げたくても逃げることができなかった人の声かもしれない…」。世界中から訪れる観光客でW杯が盛り上がることを望む一方、この地での開催意義を考えてほしいとも願う。雨風に耐える祈念碑。「未来の命を守ってくれる」と信じる。

 

 式に駆け付けた武田さんは「刻まれたのは呼び掛け、祈りのような願いの言葉。優しいけど凛(りん)とした叫びをイメージし、子どもたちも読めるように分かりやすく、動きのある印象強い字体にした」と紹介。「逃げる」ことが記憶に残り、伝えられていくことが「生きる」ことにつながる―と思いを寄せた。

 

 野田武則市長は「悲劇を繰り返さないまちづくりへ祈念碑が大きな役割を果たす」と、震災の教訓を次世代につなぐ思いを強めた。

 

(復興釜石新聞 2019年6月19日発行 第800号より)

 

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