俳人 照井翠さん、「釜石の風」出版〜震災の現実を浮き彫りに、エッセーに思い凝縮
照井翠さん(前列中央左)の初エッセー集出版を祝おうとサイン会に集まった釜石市民ら
東日本大震災当時、釜石高教諭で、被災の過酷な現状を俳句に詠んだ照井翠(本名・葉子)さん(56)=北上市在住、現北上翔南高教諭=が、2013年から俳誌や新聞に発表してきたエッセーを1冊の本にまとめ、出版した。タイトルは「釜石の風」(コールサック社、税込み1620円)。被災地をつぶさに見つめ、湧き立つ思いをつづった文章が、震災の現実を浮き彫りにする。
国語教諭で俳人の照井さんは勤務先の釜石高で被災。避難所となった同校で生徒や住民と1カ月余り避難生活を共にした。発災直後から突き動かされるように詠み続けた俳句は、12年に句集「龍宮」として出版され、第12回俳句四季大賞、第68回現代俳句協会賞特別賞を受賞した。
13年に俳誌「藍生(あおい)」を主宰する黒田杏子さんから、エッセー連載の打診を受け、同年11月号から毎月寄稿。連載5年を機に昨年11月、エッセー集出版の話が持ち上がった。同誌に寄せた60回分のエッセーに、共同通信社加盟の全国約40社の新聞紙上や各種俳句総合誌に掲載された文章、国際シンポジウムで講演した要旨などを加え、全255ページのエッセー集が完成した。各編には、照井さん自らが撮影した59枚の写真も添えられる。「藍生」の連載タイトル「釜石の風」が同書にも使われた。
震災後、市内外の被災地を訪ね、見聞きしたこと、感じたことを俳人、教育者の視点で記したエッセー。「震災とは何か」という思索の中で、「この悲しみ、苦しみは決して癒えることはない」と気付かされた。
震災から3年目の「藍生」14年3月号の記述。「被災地では、私達は三月を愛さないし、三月もまた私達を愛さない」。鵜住居地区防災センターの惨劇を書いたこの回は、3年目にして深まる苦悩や絶望を色濃く映し出した。
一方で、釜石高野球部のセンバツ甲子園出場など同校の出来事、復興に向かうまちの様子、自然の営み―といった被災地の希望に焦点を当てた回も。震災にからみながらも「読んでいてどこかほっとする部分」にこだわった。
教え子、鈴木大和さん(左)との再会を喜ぶ照井さん
随想という観点から、短い文章の中に思いを凝縮。俳句的手法を用いた文章で、一つの言葉からさまざまな発想、想像を呼び起こすよう構成された。
当初、文章で書くことは考えていなかった。場を与えられ、5年間書き継いできたことで「震災の本質を見つめ、揺れ動く心を書き残すことができた」と話す。復興は進むが、いまだに心の整理がつかない人もいる。
「震災後の日々は永遠に終わらない」
震災から8年―。風化だけでなく、今後、震災自体を知らない世代が増えていく。照井さんは「日付や写真も盛り込み、記録的要素もある。長いスパンで読み継がれてほしい」と願う。
(復興釜石新聞 2019年3月16日発行 第774号より)
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