教訓つなぎ 駆け上がる〜仙寿院で6回目 新春韋駄天競争、過去最多154人 高台へ
親子の部のスタート。子どもの手を引き、仙寿院目指してダッシュ!
津波発生時は一目散に高台へ―。東日本大震災の教訓をつなぎ、津波から命を守る避難行動を意識づける「新春韋駄天(いだてん)競走」が3日、釜石市大只越町の日蓮宗仙寿院(芝﨑恵応住職)をゴール地点に行われた。兵庫県西宮市、西宮神社の開門神事「福男選び」をヒントに、2014年から始まった同寺の節分行事。6回目を迎える今年は6部門に過去最多の154人が参加し、津波浸水区域から境内に続く急坂を懸命に駆け上がった。
只越町の消防屯所付近を出発点に、津波避難場所となっている同寺(標高約30メートル)までの286メートルのコースで実施。スターターを務める野田武則市長、釜石シーウェイブス(SW)RFCゼネラルマネジャー兼監督の桜庭吉彦さんらの銅鑼(どら)の音を合図に各部門がスタート。道幅が狭く、急カーブもある参道を必死に走り切り、迅速な津波避難の重要性を心に刻んだ。
野田町の高橋千佳子さん(39)は1歳になったばかりの愛娘、美羽ちゃんと親子の部に初参加。所々で抱っこしながら歩みを進め、無事、境内にたどり着いた。「よちよちですけど歩くようになったので、出てみようと。成長したらこの経験を聞かせ、行事の意味を伝えたい」と千佳子さん。3回目の参加となる夫直樹さん(39)、息子友輝君(6)と一緒に防災意識を高め、家族4人の絆を結んだ。
力を合わせ坂を上る高橋さん親子(左)
各部門の1位には「福男」「福女」などの認定書と共に、同神社から福の神「えびす様」の木像、SWからタンブラーの記念品が贈られた。芝﨑住職は「悪天候の中での津波避難もあり得る。いつ、どこで、どんな災害に遭うか分からない。自分の身を守って逃げることだけは多くの人に伝えてほしい」と全員に呼び掛けた。
各部門の1位「福親子、福男、福女、福少年」が勢ぞろい
男性29歳以下の「福男」となった高橋隆史さん(19)は、宅地造成などの復興事業を手がける熊谷組釜石中央ブロック作業所に勤務。毎年、参加している職場の先輩らと7人でレースに挑んだ。「練習では転んだりもしたが、完走でき、1位も取れてほっとしている。高台避難のイメージを観客にも伝えられたらと思い走った」と元陸上部の本領発揮。一関市出身。震災復興での地元貢献を志して入社し、昨年5月、釜石に赴任した。「あと1年ほどで終了予定の工事が無事故、無災害で終えられるよう自分自身も頑張りたい。早期復興が一番の願い」と社会人2年目を迎える本年に希望を膨らませた。
ゴールまでもう少し。最後の力を振り絞り、走る男性参加者=仙寿院境内
同行事は、関東在住の釜石出身者有志が中心となって11年に発足した「釜石応援団ARAMAGI Heart(あらまぎはーと)」が発案。津波の教訓を地域に根付いた形で未来に伝えたいと仙寿院に相談し、実現させた。釜石在住メンバーで運営責任者の下村達志さん(43)は「趣旨をちゃんと理解し、参加してくれている人が多いのがうれしい。特に親子の参加が増えている。震災後に生まれた子どもたちに、親が津波の事実を伝え、どう行動しなければならないかを教えている証しで、非常に意義深い」と、6年目の手応えを実感した。
レース後は海に向かって震災犠牲者に黙とう
高橋さん以外の各部門の1位は次の通り。
【親子】後藤竜也(47)、尚希(11)=花巻市【女性】新田彩乃(31)=花巻市【小学生】菅原優作(12)=釜石市【中高生】照井海翔(15)=花巻市【男性30歳以上】佐藤芳行(30)=釜石市
(復興釜石新聞 2019年2月6日発行 第763号より)
復興釜石新聞(合同会社 釜石新聞社)
復興釜石新聞と連携し、各号紙面より数日の期間を設け記者のピックアップ記事を2〜3点掲載しています。問い合わせ:0193-55-4713 〒026-0044 岩手県釜石市住吉町3-3