古里釜石に民謡で恩返し、震災で両親犠牲の佐野よりこさん〜民謡と踊りの祭典、新ホールで華やかに


2018/12/12
復興釜石新聞アーカイブ #文化・教育

古里釜石に民謡で恩返し、震災で両親犠牲の佐野よりこさん〜民謡と踊りの祭典、新ホールで華やかに

 

 自分を育ててくれた古里釜石に恩返しがしたい―。釜石市鵜住居町出身の民謡歌手、佐野よりこさん(盛岡市在住)が企画した東日本大震災復興支援チャリティーショー「笑福!民謡(うた)と踊りの祭典」(一般社団法人清流会主催)が2日、大町の市民ホールTETTOで開かれた。震災の津波で両親を亡くした佐野さん。計り知れない深い悲しみを乗り越え、念願の舞台で大輪の花を咲かせる姿に、会場を埋めた観客から割れんばかりの拍手が送られた。

 

 佐野さんを支える県内の先輩歌手、若手の民謡、舞踊、三味線、尺八の仲間が協力し、2部構成のショーを披露。地元の柳家細川流舞踊(細川艶柳華家元)、桜舞太鼓、おおつち一心会が踊りや演奏で舞台を盛り上げた。漫談やお笑いパフォーマンスもあり、観客は多彩なステージを楽しんだ。

 

 佐野さんは「南部牛追唄」「釜石浜唄」など郷土を代表する民謡を聞かせたほか、師匠の山崎隆男さん(釜石市)と「南部木挽唄」で共演。山崎さんは、3歳から民謡を習い始めた佐野さんの幼いころの様子も明かし、“天才型”と称賛した。

 

 民謡歴45年の佐野さんは、数々の全国大会で日本一を獲得。一昨年には第56回郷土民謡民舞全国大会で最高賞の内閣総理大臣賞を受賞している。歌手のほかラジオDJ、イベント司会者としても活躍する。

 

 最愛の両親を奪った震災はあまりにもつらい出来事だった。ショックで歌えない日々が続いたが、被災した地元住民から「よりこちゃんの歌が聞きたい」と背中を押され、歌唱活動を再開。先輩の漆原栄美子さんが行っていた仮設住宅などを回る活動にも3年前から参加し、昨年は自身で復興支援のための民謡プロジェクトを立ち上げた。

 

 ショーでは、歌が好きだった父祐三さん(震災当時73)の“おはこ”「無法松の一生」も歌い、両親や世話になった人らに感謝の気持ちをささげた。最後は出演者全員で歌声を重ね、感動冷めやらぬ中で閉会した。

 

 花巻市から足を運んだ藤井智子さん(57)は「素晴らしいの一言。よくここまでたどり着いたなと泣けてきちゃって。自分も前向きに頑張らなきゃ」と涙をぬぐった。民謡仲間8人で駆け付けた遠野市の菊池一男さん(80)は「よりちゃんの歌のうまさ、さらには周りで支えている人たちの協力がすごい。お客さんの入りもたいしたもの」とたたえた。

 鵜住居町の尺八奏者古川芳吉さん(71)は、佐野さんが出た民謡大会など各種舞台で伴奏を担当。亡くなった両親とも親しく、互いの家を行き来する間柄だった。佐野さんがステージに立つ姿に「大人になったなぁと思ってね。歌も格段にうまくなった」と成長を実感。両親を失った悲しみを共有し、「これまで本当に大変だったろう…。2人を亡くしたのは非常に悔しい」と言葉を詰まらせた。

 

 古川さんは佐野さんらの復興支援活動に同行することも。「いろいろな所に出向いて顔と名前を知ってもらえた。体だけは気を付け、みんなのために歌ってほしい。釜石、そして鵜住居を忘れずに…」と願った。

 

両親からもらった声を宝物に

 

 「当日を迎えるまでは心配で心配で…」。地元釜石で初めて開く自身企画のショー。佐野さんは市内外から集まった大勢の観客に「感謝の気持ちでいっぱい」と目を潤ませた。

 

 生まれ育った釜石、震災後の支援活動で訪れた沿岸各地で「自分も元気をもらい、皆さんに心を育ててもらった。いつか釜石で恩返しを」と願い、この日を迎えた。支えてくれた人たち、応援してくれた両親への思いを込め、1曲1曲心を込めて歌い上げた。

 

万感の思いを込め歌う佐野さん

万感の思いを込め歌う佐野さん

 

 佐野さんを民謡の世界に導いたのは母マサエさん(震災当時74)。後に民謡を始めた母と二人三脚で精進を重ねた。父祐三さんは献身的に支えた。愛娘の舞台には必ず駆け付けていた両親。「今日も会場のどこかで見守ってくれている感覚がありました」と佐野さん。

 
 「両親からもらった声を一生の宝物とし、思いが伝わるような歌を届けていきたい。それが供養にもなるはず…」。

 

 今公演の収益の一部は釜石市の復興支援に役立ててもらう。釜石観光物産親善大使も務める佐野さんは「まずは住んでいる人たちが元気にならないと。芸能で後押しし、釜石の現状を発信する役目を果たしたい」と未来を見据えた。

 

(復興釜石新聞 2018年12月8日発行 第747号より)

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