「鉄づくりの森」復元へ、世界遺産 橋野鉄鉱山で枝打ち作業〜広葉樹の侵入を促す
スギの枝打ち作業に汗を流す参加者。将来、この地に広葉樹の森が広がることを夢見て…
釜石市橋野町の世界遺産「橋野鉄鉱山」と周辺の森林を、鉄生産が行われていた160年前の林相に近づける取り組みの一環で、13日、スギの人工林の枝打ち作業が行われた。市と林野庁東北森林管理局三陸中部森林管理署(大船渡市)が共催。地元住民や同署管内の林業関係者、自治体職員ら約60人が参加し、当時、燃料となる木炭供給を支えた広葉樹の森再生へ力を貸した。
同事業は「橋野鉄鉱山稼働時代の森づくり育樹祭」と題し、昨年からスタート。一番高炉跡の南東約2ヘクタールの区域内で、樹齢12年のスギの枝打ち作業に約1時間励んだ。のこぎりなどで横に伸びた余分な枝を切り落とすと、目線上にすっきりとした空間が広がった。
世界遺産の価値を高める森林の役割も学んだ育樹祭
市と同管理局は、高炉跡の世界遺産登録を目指していた2012年、周辺の国有林を一体的に保存する「橋野鉄鉱山郷土の森」協定を締結。後に制度変更による再締結を経て、資産範囲と周囲の緩衝地帯に広がる約500ヘクタールの国有林が保護対象となった。
同エリアの森林は戦後、高度経済成長に伴う木材供給に対応するため、スギやマツなどの人工造林拡大が図られてきた。世界遺産登録を機に、すでに植えられている針葉樹は間伐を繰り返しながら最終的な伐採段階まで資源を有効活用。間伐で空いたスペースに広葉樹が侵入することで、徐々に鉄鉱山稼働時代の森を復元させていくという。
作業に協力した橋野町の小笠原孝一さん(69)は「多くの人の参加を得て手をかけていけば、森の再生も進んでいくのでは。やはり続けていくことが大事」と実感を込めた。
同管理署の菅野敏裕署長は「鉄鉱山時代の植生を取り戻すには100~200年かかると思うが、少しずつ昔の姿に戻していければ。地域の皆さんと一歩一歩前に進めていきたい」と協力を願った。
同鉄鉱山繁栄の背景には、木炭供給源となったナラやブナなど広葉樹の豊かな森林の存在があった。市世界遺産課の佐々木育男課長は「世界遺産の範囲(高炉場、運搬路、採掘場跡)40ヘクタールのほとんどが森林。橋野鉄鉱山というと高炉に目が向きがちだが、森林も鉄づくりには重要な要素。育樹祭を通じ、その意義を改めて知り、保存への理解をいただければ」と話した。
市は今月27日、二番高炉付近で実施する発掘調査の現地説明会を行う予定。時間は午前10時からと午後2時からで、申し込みは不要。問い合わせは市世界遺産課(電話0193・22・8846)へ。
(復興釜石新聞 2018年10月17日発行 第732号より)
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