「てんでんこ」紙芝居で継承〜釜石高生 鵜住居小で講座、「逃げる力」の大切さ説く


2018/03/08
復興釜石新聞アーカイブ #防災・安全

紙芝居をスクリーンに映し、震災時の津波避難の経験を伝える佐野里奈さん(右)と永田杏里さん

 

 津波から自分の命を守れる人に――。東日本大震災を経験した釜石高の2年生5人が、当時の自分たちと同じ小学4年生にその教訓を伝えたいと、2月27日、鵜住居小(中軽米利夫校長、児童142人)で防災講座を開いた。手作りの紙芝居とクイズを通じ、4年生34人に自分の身は自分で守る“津波てんでんこ”の教えと防災知識を学んでもらった。

 

 釜高のクラスメートという佐野里奈さん(鵜住居小出身)、永田杏里さん(小佐野小同)、鈴木紅花さん(双葉小同)、岡本さくらさん(大槌北小同)、松田悠河君(甲子小同)が企画。紙芝居は、震災当時、釜石東中の生徒らといち早く高台に避難し津波の難を逃れた佐野さんの経験を基に製作した。

 

 主人公の小学生「ナナちゃん」は学校で大地震に見舞われ、校舎上階に向かうも、中学生が高台の避難場所を目指し走る姿を目撃。中学生の兄に手を引かれ、迫りくる津波から懸命に逃れる。トラックの荷台に乗り移動した避難所で、不安な一夜を過ごし、2日後、家族4人が無事、再会を果たす。佐野さんがナレーションを担当、永田さんが主人公の声を演じた。

 

「てんでんこ」紙芝居で継承

 

 鈴木さんら3人が考えた防災クイズは、○×で回答する10問。地震発生時の行動や日ごろの備え、津波の速さなどを、具体例を交えた問いで児童らに投げかけ、楽しみながら必要な知識を学べる機会とした。

 

 震災時は2、3歳で、詳細な記憶のない児童ら。親しみやすい紙芝居やクイズで、自分の命をつなぐすべを身に付けた。黒澤強優君(10)は当時、鵜住居保育園に在籍。「園で寝ている時、地震が発生した。その後のことはよく覚えていない」と話し、「高校生の話は分かりやすかった。次に津波がきても、このおかげで逃げられる気がする。学んだことを他の人にも伝えたい」と防災意識を持ち続けることを誓った。

 

 同講座の構想は、釜石で復興支援ボランティア活動を継続する聖学院大(埼玉県)が、地元高校生と釜石の今後を考える中で生まれた。昨夏、学生と高校生が企画合宿を行い、小学生への防災活動を発案。佐野さんの母校である鵜小に企画を持ち込み、中軽米校長のアドバイスを受け、出前授業に向けた準備を重ねてきた。

 

 「当時、東中2年だった兄に手を引かれ、無我夢中で逃げたことだけは鮮明に覚えている」と佐野さん(17)。震災の経験を大人より近い目線で伝える意義を感じ、「小学生が私たちの思いをしっかり受け止めてくれた。〝津波てんでんこ〟と防災知識を心に刻み、自分1人でも逃げられる力をつけてほしい」と願った。

 

 紙芝居の絵を描いた永田さん(17)は「ダイレクトすぎる表現にならないよう気を使った。思ったよりも、いい反応をもらえてうれしい」と笑顔。震災から間もなく7年を迎えるにあたり「思い出すのはつらいことだが、後の世代に教訓をつないでいく自覚を新たにしたい」と意を強くした。

 

 この日は釜高生をサポートしてきた聖学院大生3人も顔をそろえた。4年の由木加奈子さん(23)は「高校生が『自分たちだからこそできることがある』と当事者意識を高め、率先して取り組んだことが形になった。今回の経験は古里への愛着を生み、進学で一度まちを離れても、また戻ってくることにつながるのでは」と話した。

 

(復興釜石新聞 2018年3月3日発行 第669号より)

 

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