「釜石八十八ケ所」再興へ〜震災復興の象徴に、小川の山林 荒れた霊場 復活へ整備
霊場整備や巡礼に参加した人たち。左上の建物は「金剛山遍照院」
東日本大震災から間もなく6年―。犠牲者の七回忌を前に、釜石市小川町2丁目北側の山林内にある「新四国八十八ヶ所霊場」で4、5の両日、ボランティアによる整備活動が行われた。1956、57(昭和31、32)年ごろ、市内で金物店を営んでいた弘法大師信者の故・前田豪治郎(ひでじろう)さんが、大病から命を救われた恩返しにと私財を投じて開山した釜石霊場。檀家(だんか)の前田家親族から相談を受け、霊場再興に取り組んできた駒木山不動寺(駒木町)の住職補佐、森脇妙紀さんは「慰霊、巡礼とともに健康増進、交流の場になれば」と名所復活に期待を込める。
霊場整備には「北海道八十八ヶ所霊場会」(阿部眞猛会長=高野山真言宗眞弘寺住職)が協力。釜石のボランティアとともに、損壊していた石仏の修繕や山道などの整備にあたった。震災後の支援で不動寺との縁をつないだ眞弘寺の阿部真秀副住職(40)は「思いに共感した仲間とご奉仕させてもらえてうれしい。地元の皆さんがこの場所に親しみを持ち、心の支えになれば」と作業に精を出した。箱崎町で被災し、今月復興住宅に入居予定の小林茂太郎さん(70)は「子どものころ遠足で来た思い出がある。周辺の環境も良いので、ぜひ多くの人に足を運んでほしい」と願った。
釜石霊場入り口の石像を修繕する北海道霊場会の僧侶ら
作業の後は地元信者らも集まり、眞弘寺檀家の安友キクさんから贈られた手編みのよだれかけを石仏一体一体に奉納しながら巡礼した。安友さんは4年前に大病を患ったが、被災地の役に立てることに喜びを感じ、2回(各90枚)にわたり気持ちを寄せてくれたという。
北海道の安友キクさんから贈られた「よだれかけ」を奉納
全国各地に見られる写し霊場は、四国の巡礼(お遍路)に行けない人のために同じ功徳にあずかることができるよう考え出されたもの。前田さんは真言宗総本山の高野山金剛峯寺の許可を得て、四国八十八ヶ所の各札所の御砂を持ち帰り、建立した各本尊の石仏の下に埋めたという。八十八ヶ所の隣には観音様の「新西国三十三ヶ所霊場」も整備されている。「規模的にも価値の大きい場所。しっかりとした組織を作り保存に力を入れていくべき」と北海道霊場会の阿部会長(69)。
山林内にある八十八ヶ所の石仏を巡礼するボランティアら
釜石霊場は近年、訪れる人が減っていた。一昨年から始まった再興への取り組みは、この場所の存在を若い世代にも広めている。宗派や信仰の枠を超え、文化財探訪や自然散策などさまざまな魅力を感じてもらえる場所。市の観光審議会委員も務める森脇さんは「釜石の交流人口増加にもつながれば」と話した。
(復興釜石新聞 2017年3月8日発行 第569号より)
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