「大切な命、どう使う?」腰塚勇人さん講演 釜石東中の生徒ら熟考 熱い思いに感化


2026/06/01
釜石新聞NewS #文化・教育

釜石東中学校で開かれた「いのちの教育」講演会

釜石東中学校で開かれた「いのちの教育」講演会

 
 釜石市鵜住居町の釜石東中(高橋晃一校長、生徒84人)は5月22日、全校生徒を対象に「いのちの教育」講演会を開いた。「助けられる人から助ける人へ」との目標を掲げて生徒たちが取り組む防災学習や地域貢献活動、命に向き合う気持ちを深めてもらおうと継続。今回は、「命の授業」と題して全国で講演活動を続ける腰塚勇人さん(60)=神奈川県=を講師として招いた。事故による全身まひから社会復帰した、“熱血”がつく元中学教師が届ける「言葉のプレゼント」をじかに受け取った生徒たち。「大切な命をどう使うか」をじっくりと考える機会にした。
 
 腰塚さんは中学校の体育教師だった36歳の時、スキー事故で首を骨折して全身まひとなった。一生寝たきりの宣告を受けたが、家族や看護師、同僚、生徒たちの支えを力にリハビリに励み、障害を残しながらも教壇に復帰した。
 
 ただ、体育教師として「行動で見せる」ことが十分にできず、苦悩。そんな時、ニュース報道でいじめや自殺、不登校といった子どもの世界の問題、大人も関わる虐待などで命、心と体が傷つく状況に触れた。「命と向き合った自分の経験を子どもたちの命を助け、守ることに生かしたい」。2010年に退職した後は全国の学校などで講演。その数は2600回を超える。釜石東中では3年前にも講演しており、今回は2回目となった。
 
「命の授業」で自身の経験を語る腰塚勇人さん

「命の授業」で自身の経験を語る腰塚勇人さん

 
 体育館に集まった生徒らを前に腰塚さんは、首から下の自由を失った身体で病院のベッドに寝ていた時期に抱えていた生きることへの苦悩や葛藤、奇跡的な回復の原動力となった夢や希望を持つことの意味などを熱く語った。
 
 身体が動かなくなった腰塚さんには、さまざまな声がかけられた。両親は「生きていてくれてよかった」、妻からは「何があっても離れない。一緒に頑張ろう」。私の命は私だけのものではなかった。そう感じた腰塚さんは「今ある命の使い方」を考えた。それでも時折襲ってくる絶望。つらいリハビリをやる気にさせてくれた人、身近で見守ってくれる人たちは「一人で頑張るのはやめましょう」「今は助けてって言っていいんです」と応援してくれたという。
 
 事故に遭ったのは3月。その時は2年生の担任だった。4月、3年生の担任名簿に自分の名前があって驚いたという腰塚さん。学年主任から「諦めるな。慌てなくていい、待っているから。卒業式の1日だけでもいいから戻ってきて」と励まされた。当時を振り返り、「子どもたち、仲間の先生たちに会いたかった。その夢が生きる力になった。めちゃくちゃつらかったけど、リハビリを頑張れた」と目頭を熱くした。
 
経験を臨場感あふれる言葉で伝えた腰塚さん

経験を臨場感あふれる言葉で伝えた腰塚さん

 
「君たちにとっては?」。生徒たちに問いかける場面も

「君たちにとっては?」。生徒たちに問いかける場面も

 
 そうした経験を交えながら、絶望を希望に変える支えや応援をしてくれる存在を「ドリー夢(ム)メーカー」、気持ちをくじくものを「ドリー夢キラー」と表現。「どちらも自分の中にもある」と指摘したうえで、「一人で頑張らなくていい。耐えるより、本当の勇気は頼ること。助けてくれる人は必ずいるし、助けてもらうことは悪いことではない。決めつけず、打ち明けて。自分の枠を広げるための成長につながるから」と生徒たちに語りかけた。
 
 枠を広げるという意味で、腰塚さんはけがの後もさまざまな挑戦を続ける。仲間に助けてもらって富士山に登ったり、周囲に後押しされ本を出版したり。未来をわくわくさせる夢について「しゃべることはとっても大事。言葉を変えると行動が変わり、人生も変わるから」と言語化する大切さも語った。
 
生徒は拍手をしたりメモをとったりしながら話に耳を傾けた

生徒は拍手をしたりメモをとったりしながら話に耳を傾けた

 
 動ける身体をどう使うか―。「自分や誰かを喜ばせ、助け、笑顔にするために使う」と腰塚さん。「命の喜ぶ幸動(こうどう)」と呼ぶ5つの誓い(▽口は人を励ます言葉や感謝の言葉を言うために使おう▽手足は人を助けるために使おう―など)を示して、生徒たちに読み上げてもらった。
 
 この誓いは、「いのちの教育」に取り組む同校ですでに取り入れられているもので、「助けられる人から助ける人へ」の実践にもつながっている。「これこそドリー夢メーカーだよね」。そう強調した腰塚さんは「人生はたった一度きり。貴重な時間を大切に生きよう。個性を磨き生かして、仲間と幸動して縁joyしよう。命を喜ばせ、楽しい学校生活を」とエールを送った。
 
釜石東中生に根づく「命が喜ぶ5つの誓い」と「新・たんぽぽ宣言」

釜石東中生に根づく「命が喜ぶ5つの誓い」と「新・たんぽぽ宣言」

 
「命の喜ぶ行動を考えて」と願いを込めメッセージを贈った

「命の喜ぶ行動を考えて」と願いを込めメッセージを贈った

 
 質問の時間。「思いで人は変われますか?」と投げかけた新屋碧さん(2年)に、腰塚さんは「思いには温度がある。温度差、調整が必要なことを知ってほしい。相手が受け取りやすい温度で伝えることが大事」とヒントを出した。そうしたやりとりから新屋さんは「(腰塚さんは)本気で命と向き合っているのが伝わってきた。部活とか生活で悩む部分があったり、ドリー夢キラーが顔を出すときもあるけど、ドリー夢メーカーになれるようにしたい」と自分に言い聞かせていた。
 
「みんな誰かの大切な命」。生徒の質問に答えながら思いを伝える

「みんな誰かの大切な命」。生徒の質問に答えながら思いを伝える

 
 小笠原実紅さん(3年)も「支えてくれるドリー夢メーカーの存在を傷つけないよう、困った時は周りを頼り、助けてもらうようにする。そして逆に自分がドリー夢メーカーになれるように生活していこう」と思った。ほかにも、命の大切さや生きること、助け合い、諦めない、夢を持つことの大切さといった言葉の数々が生きる知恵として「すごく心に響いた」と感銘を受けた様子。「自分の人生の主人公は自分。そう思いながら、自分のこと、周りの人を大切にして、これからを生きていく」と思いを熱くした。
 
「今ある命の使い方」を一緒に考えた腰塚さんと釜石東中生ら

「今ある命の使い方」を一緒に考えた腰塚さんと釜石東中生ら

 
 同校では教師らでつくる部がいくつかあり、この講演会は「いのちの教育部」が企画した。腰塚さんの信条とする5つの誓いと、同校がこれまで大切にしてきた「新・たんぽぽ宣言」(支え合い・正し合い・高め合い・話し合い・認め合い)を振り返り、「生徒会、自主防災組織の活動、日々の生活に役立ててほしい」と見守る。

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