自然災害の語り継ぎは挑戦!? 大震災かまいしの伝承者、研修で考える「教訓としてのメッセージ」


2026/04/02
釜石新聞NewS #防災・安全

講義に聞き入り、震災を語り継ぐための工夫を考える参加者

講義に聞き入り、震災を語り継ぐための工夫を考える参加者

 
 災害の伝承とは―。東日本大震災から15年が経過した。被災の経験や教訓は世代(年齢)、場所によって内容はさまざま。そして月日が流れ、直接の経験、記憶を持たない人たちも増えている。だが、そうした若い世代でも伝承活動に関わることはできる。一人ひとりの体験、考えは異なっても、「後世に伝える」意義、重要性は変わらない。何を伝承し、発信していくのか。震災とは異なる時代や他地域の事例から、伝える意義を考える研修会が3月29日に釜石市であった。
 
 「人は忘れる。だから考えなければいけない、何を伝え継承するのか、教訓として残していくべきか。語り継ぎはある意味、挑戦でもある」。震災の教訓を伝える市公認の語り部「大震災かまいしの伝承者」ら約30人を前に、講師の東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター長、関谷直也教授(50)=災害社会学・社会心理学=は、そう訴えた。
 
「震災の教訓と伝承」をテーマに講義した関谷直也教授

「震災の教訓と伝承」をテーマに講義した関谷直也教授

 
 かまいしの伝承者の養成は2019年にスタート。震災の記憶の風化防止や市民の防災意識向上などを目指している。震災を語り継ぐ意欲があり、地震のメカニズムや市防災市民憲章などへの理解を深める基礎研修を修了すると、伝承者に認定。これまでに5期の研修が行われており、10~80代の計117人が修了した。認定期間はおおむね2年間で、現在62人が継続。伝え方の工夫など実践的な知識、技能を身につけてもらおうと、任意のステップアップ研修も行っている。この日開催されたのはステップアップ研修で、会場は小佐野町のコミュニティ会館を使った。
 
「大震災かまいしの伝承者」のステップアップ研修

「大震災かまいしの伝承者」のステップアップ研修

 
 関谷教授の講義は約100年前に発生した関東大震災や、東日本大震災被災地の福島県や宮城県の事例を挙げながら、受講者と一緒に「伝える意義」を考えるような内容だった。
 
 災害時の人間の心理について、1991年発生の雲仙普賢岳(長崎県)噴火による火砕流災害や、自身も親族らを亡くした東日本大震災などを例えに、「災害直後は関心を持つが、人は鈍感。いつの間にか忘れる。10数年たったら状況も少し変わっていく。普段は災害を忘れて過ごしている」と解説。人は普段「明日地震が発生する」とか「自分の生命を奪うような災害が起きる」とは考えない「正常化の偏見」が働くという。
 
 しかしひとたび災害が発生すると、過度に不安を抱く「過大視の偏見」に捉われる。関谷教授は「人は災害やトラブルを意識し、忘れる、という繰り返しで生きている」としたうえで「忘れるというのはつらいものを乗り越える知恵でもある。だからこそ人間の心理で言うと、災害の経験や教訓を伝えるのは難しい」と指摘した。
 
メモを取ったりしながら講義に熱心に耳を傾けた

メモを取ったりしながら講義に熱心に耳を傾けた

 
 伝承とは―。広島や長崎で展開される原爆体験の伝承活動に触れ、「反原爆から反戦へ、そして平和というように、忘れないために伝えるべきメッセージをきちんと整えていくことができた。それにより戦後80年となっても語り継ぎはできている」と関谷教授。関東大震災の話に戻り、「それ以前にあった災害のことを伝え、引き継ぐのに失敗した。自然災害の場合、いろんなところで起こるので風化していく傾向がある」と持論を展開するも、次に起こりうる災害に備えた語り継ぎは重要だとした。
 
 人は忘れる。個人だと忘れる。だから社会として、地域としてどうしていくか。「答えはありません。誰に、何を、どう残すか、考え続けていくことが大事なのだろう」と締めくくった。
 
釜石市防災市民憲章を唱和して語り継ぎへ思いを共有

釜石市防災市民憲章を唱和して語り継ぎへ思いを共有

 
 大学生の菊池音乃さん(19)は2年前に伝承者に認定された。今年2月、小学生時代の恩師の協力で平泉町の小学校で語り部として活動。震災の出来事に加え、命を守る大切さを伝えた。その際、「話にリアルさがなければ想像できないのではないか」と考え、震災の津波で祖父母を亡くした自身の心情も打ち明けた。
 
 講義を受け、「自分事ではないから忘れる」「地域によって伝え方が分かれる」と実感した。看護師を目指し、群馬大医学部(看護学専攻)で学ぶ菊池さん。同世代の学生に震災の記憶はほとんどなく、防災への意識にも格差を感じることがあるという。「どんな災害でも命を守ることは同じだから、伝承者として伝えたい。災害で悲しむ人を少しでも減らしたい」。こうした研修に参加したり、独自に理解を深めながら、「できることを続けていく」と思いを強めた。
 
研修を終えた伝承者に修了証明書が手渡された

研修を終えた伝承者に修了証明書が手渡された

 
修了証明書を手に今後の活動に意欲を見せる伝承者ら

修了証明書を手に今後の活動に意欲を見せる伝承者ら

 
 かまいしの伝承者の事務局は今年度から市防災危機管理課が担う。同課の土橋照好課長は、震災経験者の高齢化と減少、知らない世代の増加といった現状を踏まえ「語りつないでいく重要性は増しており、伝承者は貴重な存在」と強調。研修後の実践の場は限られるとするが、家族や学校、職場、地域など身近な語り継ぎ活動に期待する。
 
 次年度、6期目の基礎研修を予定。伝承者たちの語り手としての「質を高めたい」とも考え、ステップアップ研修も続けていく方向だ。

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