洋上風力支える国産CTV 釜石・小鯖船舶工業、技術注ぎ建造 日本郵船発注の1番船、進水

国産化した初の大型CTVの完成を喜ぶ関係者
釜石市の小鯖船舶工業(本社・同市甲子町、小鯖千年社長)の新浜町造船工場で12日、船の完成を祝う進水式があった。洋上風力発電設備の建設や保守を担う作業員輸送船(CTV)の1番船で、船名は「ALFONSINO ARROW」(アルフォンシーノ アロー)。海運大手の日本郵船(東京都)が発注する初の国産、大型のCTVだ。「アルミ製船舶の高い造船技術を持つ」小鯖船舶が、国内造船所として初めて受注し、建造を進めていた。そして現在、「2番船も造船中」と小鯖社長。さらなる継続受注に意欲を示し、CTV建造の拠点化、地場産業の活性化に前進を続ける構えだ。
釜石港に面した同市新浜町の造船工場で進水式を待つ1番船は全長28メートル、幅9メートル、総トン数145トンで、アルミ軽合金の双胴船。日本郵船グループの欧州子会社ノーザン・オフショア・サービス(スウェーデン)の図面を基に日本仕様に改良し、アルミ鋼材や主要機器を国内メーカーから調達した。

日本郵船から受注し、小鯖船舶工業が建造したCTV1番船
小鯖船舶は2024年1月に受注し、造船。日本郵船への引き渡しは25年度末を予定する。その後、1番船は「秋田県男鹿市、潟上市および秋田市沖」の洋上風力発電事業の基礎工事に投入されるもようだ。
1番船を前に行われた進水式には日本郵船の曽我貴也社長、小鯖社長、岩手県の達増拓也知事、釜石市の小野共市長らが出席。神事で玉串をささげ、安全を祈願した。船名の発表後、船をつないでいた支綱(しこう)を切断。くす玉が割られ、出席者が拍手で祝った。この日は強風のため、実際の進水作業は13日に実施した。

進水式で神事を行い、運航の安全を祈願した

船を支える綱を絶ち切る儀式。達増陽子さん(岩手県知事夫人)が担った

国産CTV1番船の完成を喜ぶ(手前から)達増拓也知事、小鯖千年社長
あいさつに立った曽我社長は、国産CTV建造への思いや発注の背景などに触れながら「(小鯖船舶の)アルミ製の造船に関する卓越した技術にほれ込んだ。日本の洋上風力は長い目で見れば必要になり、CTVの需要はどんどん高まる。日本が誇る技術、オールジャパンのチームで造るCTVが、ここ釜石からでき上がっていくことを期待する」と展望した。

CTV1番船の進水式であいさつする日本郵船の曽我貴也社長
小鯖社長は「初の国産化ということで、日本の規則をクリアするのに苦労した。今、2番船を造っているところ。さらに良い船を造れるように努力していきたい」と応えた。
苦難乗り越え、熱意重ね進む
CTVは建設や保守、点検などの業務に当たる作業員を運ぶため、軽量で耐久性に優れ、スピードが出ることや、洋上での業務に長時間従事することから安定性といった性能も求められる。適しているとされるアルミ軽合金船舶を建造できるのは全国で十数社しかなく、東北でも限られるという。

軽量で高速航行ができ、双胴船で安定性もあるCTV1番船
小鯖船舶は、1964(昭和39)年の創業時は鉄鋼製の船を造っていたが、3代目となる小鯖社長が攻守を備えた先見の明で、アルミ製の造船へ転換。漁船や貨客船、港湾業務艇などを手がけ、30年以上の経験と実績を積み上げる。
2011年の東日本大震災では、津波で大槌町吉里吉里にあった造船工場が被災。12年に釜石・新浜町に新設し、現在は市内2拠点に工場を構える。従業員は約30人。被災地域は人口減、労働力不足が課題となるが、特定技能、実習生といった外国人労働者と地元雇用の従業員が力を合わせ、ものづくりを続ける。
「無からの復帰」。日本郵船の歴史を振り返る中で、曽我社長がそんな言葉を発した。「1945年の太平洋戦争終結時は船、人もいない状態だったが、絶対に復興してやろうと熱い気持ちで成し遂げ、今年で創業140周年を迎えるに至った」。震災復興に尽くす小鯖船舶の不屈の姿に、戦後復興の自社の姿を重ね合わせ、「無からの復帰の中で技術力を維持し、さらに高め、1番船の建造に熱い思いを注いでもらった」と、信頼や感謝の気持ちを寄せた。

「オールジャパン」で実現したCTV1番船と記念にパチリ
洋上風力分野は再生可能エネルギーの中核として注目されており、日本郵船は継続的なCTV建造と、国産化を進める方針。1番船の建造にあたり、小鯖船舶に社員を出向させている。技術部長として着任した山口真さんで、品質や納期などの管理を担当する。継続的な建造に向けた体制づくり、人材育成もともに取り組んでいて、「小鯖船舶は、日本郵船にとっても大事なパートナー。ウィンウィンの関係になるよう協力して前に進んでいければ。良い人材をどんどん入れ、良い会社にしていくのも使命」と話した。

国産CTV建造で協力する小鯖社長(右)と山口真さん(日本郵船から出向)
小鯖船舶側もそうした動きに対応する方向で、「50隻でも100隻でも建造を目指したい。釜石をCTV建造の拠点とし、洋上風力関連事業を根付かせたい」と小鯖社長。“エネルギー事業の大転換期”と捉え、今また、攻めて守る態勢をとる。さらに「地場企業が元気なまちでなければ。地元に若者が残る、外から人が戻ってくるための働き先となれればいい。地元の働き手を増やすことは、まちの活性化にもつながる」と熱く語る。

釜石新聞NewS
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