鉄鉱石産出日本一「釜石鉱山」の価値を後世に デジタル技術活用で保存・理解促進へ
旧釜石鉱山事務所「国登録有形文化財」登録10周年記念事業の公開=甲子町大橋、同事務所
日本最大の鉄鉱山として栄えた釜石市甲子町大橋の「釜石鉱山」。豊富な資源を基に国内で初めて洋式高炉による連続出銑に成功したこの地は、「近代製鉄発祥の地」として知られる。現存する旧釜石鉱山事務所の建物は2008年に日鉄鉱業から同市に寄贈され、市は寄託資料の展示公開を行っている。建物は13年に国の有形文化財(建造物)に登録され、昨年6月で10周年を迎えた。これを記念し、市は同鉱山への関心を高めてもらう各種事業を実施している。
建物が国の有形文化財になっている「旧釜石鉱山事務所」。鉱山の歴史を物語る貴重な資料を展示
NTT東日本岩手支店(後藤高宏支店長)、NTT Art Technology(アートテクノロジー、国枝学代表取締役社長)の協力で取り組んだのは、デジタル技術を活用した鉱山の歴史の保存と発信。同事務所に残る、ドイツ人地質学者ハインリッヒ・エドムント・ナウマンが手がけた東北部の予察地質図(1886年刊行)を高精細のデジタル化技術で複製。レプリカの展示で実物の劣化を防ぎ、現在の状態を画像データで保存する目的で行われた。実物は明治初期に石版印刷で刷られたものだが、今回のデジタル化で細部の拡大が可能となり、当時の技術の高さが浮き彫りになった。
ナウマンの地質図などのデジタル化について説明するNTTアートテクノロジーの国枝学社長
同鉱山の坑道を360度カメラで撮影した映像をパソコンやスマートフォンなどで見られるVR(仮想現実)コンテンツも制作した。普段は一般公開されていない坑道を2キロにわたり撮影。花こう岩の音響実験室(グラニットホール)や鉄鉱石採掘場跡、ミネラルウオーター「仙人秘水」の採水地も現地にいる感覚で見ることができる。旧鉱山事務所のVR映像も制作した。
地質図、坑道、旧事務所の各コンテンツは「釜石鉱山デジタルアーカイブ」(http://kamaishi.org)で公開。同アーカイブには、鉱山労働者らが暮らした大橋社宅街の写真を投稿してもらうフォーマットもある。同事務所(釜石鉱山展示室)では5月13日まで、ナウマンの地質図の実物とレプリカを並べて展示公開。坑道と事務所のVR体験もできる。
釜石鉱山坑道を360度カメラで撮影した映像でバーチャルツアーを楽しめる
小野共市長(手前右から2人目)もVR体験。「見ると現地にいる感覚に。実際に行って空気感などを体感してみたくなる」
「ナウマンの地質図」実物はどっち?? ぜひ、足を運んで見比べを!
NTTアートテクノロジーの国枝社長は「高精細であればあるほど、本物を見たいという人は多い。デジタルアーカイブを見た人が興味を持って現地を訪れるというような循環につながれば。あらかじめ見どころをつかんで足を運べば、より一層理解も深まると思う」と期待する。同社はこれまで数多くの文化・芸術作品のデジタル保存を手掛けているが、産業関連では今回の釜石での取り組みが初めてだという。
同市とNTT東日本は2022年8月、地域活性化に向けた連携協定を締結。水産業の課題解決や自治体業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)化などで一体的な取り組みを進めてきた。今回の事業公開にあたり、6日、同事務所で行われた開会式では小野共市長から後藤支店長に感謝状が贈呈された。後藤支店長は「大変意義ある事業にNTT東日本グループとして参画させていただきうれしい」と話した。
式では、市が昨年募集した旧釜石鉱山事務所の愛称も発表された。全国から6点の応募があり、市職員と釜石鉱山社員14人で選考した結果、釜石市の小林潤(さかえ)さん(52)が考案した「Teson(てっさん)」に決まった。小林さんによると、「鉄山」とスペイン語で“粘り強い”を意味する「teson(テーソン)」を組み合わせ、発音を変えた造語だという。「釜石の歴史を築いてきたのは鉄山だけでなく、その事業を支えた先人たちの粘り強い精神。多くの人たちが釜石を訪れ、その歴史や精神に触れることを願う」と小林さん。
考案した愛称「Teson(てっさん)」が採用され、感謝状を贈られる小林潤さん
釜石鉱山フォトコンテストの全応募作品も公開
記念事業の公開では、昨年実施した釜石鉱山フォトコンテストの応募作品30点も全てプリントして展示。最優秀賞を受賞した釜石市の藤原信孝さん(75)の作品など、応募者の視点で捉えた鉱山の魅力を感じることができる。
記念事業の展示は5月13日まで開催。旧釜石鉱山事務所の開館時間は午前9時から午後5時まで(最終入館は午後4時)。毎週火、水曜日は休館。大型連休中の5月1日(水)は特別開館。入館料は一般300円、小中学生100円。
開会式に出席した関係者。旧事務所訪問やVR体験で釜石鉱山の歴史、価値に触れてほしいと願う
釜石新聞NewS
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