“釜石を住みたいまちに”地域おこし協力隊 初の合同活動発表 住民と協働で課題解決の一歩に


2024/04/02
釜石新聞NewS #地域

「地域おこし協力隊」活動発表会=3月27日、釜石PIT

「地域おこし協力隊」活動発表会=3月27日、釜石PIT

 
 釜石市で活動する地域おこし協力隊(8人)の活動発表会が3月27日、同市大町の釜石PITで開かれた。各分野で活動する隊員が一堂に集まり、市民向けに発表会を開くのは今回が初めて。同協力隊という名前は知りつつも、隊員の思いや具体的活動に触れる機会はこれまで少なかっただけに、来場者も興味津々。隊員らは移住のきっかけや現在の取り組み、今後の展望などを熱く語り、住民とのさらなる協働で、地域課題解決や魅力発信につなげていくことを誓った。
 
 同市では現在、20~50代の隊員8人(担い手型5、行政型3)が活動。農水産、スポーツ、コミュニティー、教育、観光など各分野で、同市に新たな風を吹き込む取り組みを展開する。会では隊員それぞれにブースを設け、1回7分の発表を3ローテーション行い、来場者約40人が興味のあるブースで話を聞いた。
 
 教育魅力化コーディネーターとして活動する岡田稜平さん(26)=2023年2月着任、栃木県出身=は、市内2高校でキャリア支援、課題研究のサポートなどを行う。岩手県立大在学時、地元学生の「岩手は何もない」という言葉に違和感を覚えた岡田さん。「不完全だからこそ、いろいろ考えてアプローチできるフィールドがある。高校生に問題解決の成功体験をさせたい」と願う。今後は自身の強みであるプログラミングの技術を生かし、「生徒たちとまちの課題を解決するシステムを作りたい」と目標を掲げる。25年の大学入学共通テストから「情報Ⅰ」の出題が加わることもあり、生徒の学びも後押ししたい考え。
 
高校と地域をつなぐ活動に取り組む岡田稜平さん。情報系の知識、技術を発揮

高校と地域をつなぐ活動に取り組む岡田稜平さん。情報系の知識、技術を発揮

 
 橋野町青ノ木に居住し、「トマト系ユーチューバ―」として同地の暮らしを発信しているのは三科宏輔さん(28)=22年4月着任、神奈川県出身=。同市の地域振興作物「すずこま」という品種のトマトを無農薬で栽培し、ジュースにして販売。農閑期には自宅の古民家の改修を進めていて、民泊や企業研修の受け入れを目指す。志高くいきいきと暮らす釜石人に魅せられ、「自分もここで人生を全うしたい」と会社員から転身。大切にする「暇(いとま)」という概念を「自己の充実に充てることができる最もぜいたくな時間」と捉え、心豊かな暮らしを提案する。自身の活動や日常を定期配信。今後は栽培トマトの新商品開発や体験プログラムの構築にも力を入れたいとしている。
 
大好きなトマトの栽培から商品化までを手掛ける三科宏輔さん。活動はユーチューブで配信

大好きなトマトの栽培から商品化までを手掛ける三科宏輔さん。活動はユーチューブで配信

 
 農園芸クリエーターとして活動する小松園さん(54)=22年8月着任、宮城県出身=は甲子町を拠点に、地域資源を活用した草木染めの研究、商品開発を進める。編み物が趣味で、繊維の知識もあったことを生かし、地元素材を使った糸の染色を行う。色を出す染料は柿の皮、色を定着させる媒染液には鉄鉱石を用いる。“すずこま”や植物のアカネによる染色も。現在、商品販売に向け準備を進めているところで、市民向けの体験会も開催している。
 
釜石の風土が生んだ素材で草木染めの商品開発を行う小松園さん

釜石の風土が生んだ素材で草木染めの商品開発を行う小松園さん

 
 観光地域づくりコーディネーターの横木寛裕さん(23)=23年4月着任、新潟県出身=は首都圏の大学卒業と同時に釜石へ。移住フェアで同市職員と出会ったのがきっかけだった。市商工観光課職員として活動する行政型隊員。市の観光パンフレット作成などを手掛ける。発表会について「予想以上の来場者。新たなつながりを生み、認知にも効果的だった」と喜ぶ。観光客にみこしの担ぎ手になってもらう、漁業体験者=作業の貴重な人材など(人手不足解消)、観光による各種課題解決を目指す。
 
観光で地域課題の解決を目指す横木寛裕さん

観光で地域課題の解決を目指す横木寛裕さん

 
 発表会に来場した甲子町の内舘靖さん(55)は「隊員が志や問題意識を持って取り組んでいるのが分かった。一堂に集まってコミュニケーションを図れる場もいい」と歓迎。自身も昨年、千葉県からUターンし、地元特産の「甲子柿」や夏野菜の生産を始めたばかり。「思いを同じくする隊員とつながることで、互いのやりたいことの実現、一緒に釜石を盛り上げる手立ても生まれそう」と活動の広がりに期待した。
 
 同市では2017年から「地域おこし協力隊」制度を運用。当初は「起業型(ローカルベンチャー)」でスタートし、20年までに計13人が活動。慶應義塾大との連携で、大学院生による「地域おこし研究員」1人の受け入れも行った。その後、「担い手型(個人事業主)」、「行政型(任期付き職員)」の2種で隊員が活動を続ける。
 
地域おこし協力隊員(前列)と発表会の来場者ら。意見交換しながら交流を深めた

地域おこし協力隊員(前列)と発表会の来場者ら。意見交換しながら交流を深めた

 
 東日本大震災後、釜援隊(復興支援員29人)、地域おこし協力隊(21人)と外部人材のサポートを続ける釜石リージョナルコーディネーター協議会によると、協力隊の任期(最大3年)を終えた後、同市に定住しているのは86%(全国平均80%)。全国平均を上回るものの、経済的自立はやはり課題。発表会の意見交換でも、地域との協働の継続、定住支援の必要性が話題に上った。
 
 現隊員の多くは来年度が任期の最終年度。ラグビーによるまちづくりに取り組む竹中伸明さん(35)=22年11月着任、大阪府出身=は任期後を見据え、「将来的には釜石での活動を望む外部の人の受け皿や、進学などで一旦地元を離れた人もまた帰ってこられる仕組みづくりをしていきたい」と、同市に残ってまちづくりの一翼を担うことを希望する。
 
 今回の発表会は、自分たちのこれまでの活動を総括し世話になった人たちに報告するとともに、釜石のこれからを来場者と共に考え、アクションを起こすきっかけにと隊員らが自ら企画した。

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