方言の力で復興後押し「南部弁サミット」10周年 “おらほ弁”で語る昔話 末永く後世に
方言満載の民話劇「釜石版・笠地蔵」で楽しませる漁火の会のメンバーら
「おらほ弁で昔話を語っぺし」南部弁サミットin釜石(岩手大主催)が開催10周年を迎えた。方言の力を活用した被災地の復興、地域コミュニティー再生を文化庁が支援。2015年から回を重ねてきた同イベントには、釜石市のほか青森県や本県遠野市の民話語り部団体が出演し、東日本大震災で傷ついた市民らの心にひとときの潤いをもたらしてきた。釜石に眠る民話の発掘も進み、今後の文化振興への寄与も期待される。
同イベントは大町の市民ホールTETTOで行われた。方言による民話の伝承活動に取り組む釜石市の「漁火の会」(会員7人)が釜石小唄を踊ってオープニング。小学生の語りとして瓦田莉桜さん(小佐野小5年)、はなさん(同1年)姉妹が「座敷わらし」を語り聞かせた。
「座敷わらし」を仲良く語る(右から)瓦田莉桜さん、はなさん姉妹
漁火の会は6人が出演。遠野物語(418話)に収録される「橋野の笛吹峠」、箱崎半島に伝わる「鬼岩」、昔の酒蔵に由来するとみられる「釜石の造り酒屋」といった地元の民話のほか、全国的に知られる昔話などを“おらほ弁”で披露した。「極楽見てきた婆(ばあ)様」を語った藤原マチ子さんは自身が描いた絵で情景を再現。「遠野三山」を語った磯崎彬子さんは話に込められた教えをわかりやすく解説し、観客を物語の世界に引き込んだ。
左:「笠地蔵」を語る和田京子さん。右:「橋野の笛吹峠」を語る菊池有美子さん
左:「鬼岩」を語る千葉まき子さん。右:「遠野三山」を語る磯崎彬子さん
自ら描いた絵をバックに「極楽見てきた婆(ばあ)様」を語る藤原マチ子さん
交流が続く民話の宝庫・遠野市からは「遠野昔話語り部の会」の細越澤史子さん、堀切初さんが出演。堀切さんは遠野物語には浜の話が25話あることを紹介し、その中から「山田の蜃気楼」を聞かせた。青森県からは「十和田こまくさの会」、「八戸童話会」の2人がビデオ出演した。
“民話のふるさと”遠野市からは細越澤史子さん(右)と堀切初さんが出演。熟練の語りで観客を魅了
最後は漁火の会のおはこ“動く民話劇”。「釜石版・笠地蔵」と題し、全国的に有名な昔話を劇仕立てで見せた。方言のセリフや小道具で随所に地元色を出し、観客の笑いを誘った。相撲甚句の節で震災を伝える活動も行う藤原さんの歌声で舞台を締めくくると、約130人の観客から温かい拍手が起こった。
雪の中、すげがさが足りず、自分の頭の手拭いを地蔵にかぶせてあげるじい様(左)。「笠地蔵」の1シーン
貧しくも心優しい老夫婦のために正月用の米や酒を夜中にこっそり届ける地蔵たち
親子で初めて足を運んだ野田町の山崎鮎子さん(46)は「各地にいろいろな昔話があるんだなと。劇も笑いありで面白かった。方言も何とかわかるかな」。今は核家族化が進み、「祖父母から方言や昔話を聞く機会も少なくなった。娘(小学5年)は聞き取れたかな?」と感想を楽しみにした。
天神町の女性(77)は「世の中の変化で標準語が主流になってきたが、方言や昔話など古いものを見直すことは大事。親が使っていた言葉もあり、懐かしさを感じた」。震災で身内を亡くし、しばらく外出できなかった時期もあるが、「気持ちや生活が落ち着いてきた今は、自分で楽しむ時間はかけがえのないものと感じる。このイベントも毎回ウキウキします」と声を弾ませた。
この文化庁支援事業は昨年度から、東北大が受託する「消滅の危機にある方言の記録及び啓発事業」という新たな枠組みで行われる。本県のほか青森、宮城、福島、茨城の各県の大学が中心となり事業が進められる。初回から携わる岩手大教育学部の大野眞男名誉教授は「釜石の皆さんに元気になってもらえることをと始めたが、少しでも笑ったり喜んでいただけたことは意味があったと思う。こういう活動で人と人が心を通わせられるのは幸せなこと。方言、昔話、語り手がそろう釜石を次世代につないでいきたい」と話した。
漁火の会の北村弘子事務局長(71)は「釜石は津波のたびに、書き留められた民話も語り手も失われてきた。実際には遠野に負けないぐらいの話があるとみられる。会では発足時からその発掘作業に取り組んできた」と明かす。震災後は岩手大との新たな活動も始まった。サミット10周年を機に「また一から出直して頑張りたい。今後は若手の育成にも努めていきたい」と夢を描く。
漁火の会事務局長の北村弘子さん(中央)。劇では露天商を好演
締めは同サミット恒例となった藤原マチ子さん(中央)の相撲甚句で…
釜石新聞NewS
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