市民が愛した「歓喜の歌」聞き納め 釜石の第九演奏会 45年の歴史を胸に17日最終公演へ
「かまいしの第九」最終公演に向け合唱練習に励む参加者=7日、中妻公民館
釜石市で1978(昭和53)年から続けられてきた師走の演奏会「かまいしの第九」(実行委主催)が17日、最後の公演を迎える。同市の音楽文化をけん引し、1年を締めくくる恒例の行事だったが、主力メンバーの高齢化、資金確保の難しさなどを理由に45年の歴史に幕を下ろすことになった。市内外から集まる出演者はそれぞれの思いを胸にステージに立つ。
同演奏会は、旧市民文化会館の落成(1978年)を記念して、同館のこけら落とし公演として行われたのが始まり。同市出身で、東京荒川少年少女合唱隊(東京都荒川区)の創設者・故渡邊顕麿さん(1931-96)が帰郷後、市内に複数の合唱団を立ち上げ活動する中で、第九演奏を提案した。以来、毎年12月に開催。2011年の東日本大震災の津波で同館が被災後は釜石高体育館で続けられ、17年から新たに落成した市民ホールTETTOで開かれてきた。
新型コロナウイルス禍で20、21年は中止を余儀なくされ、昨年、復活開催したが、実行委は「事業を支えるだけの“体力”を維持できなくなった」として、一旦区切りをつけることを決断。背景に運営の中心を担ってきたメンバーの高齢化、コロナ禍による経済低迷で協賛金などを募ることも難しくなったことがある。
ノイホフ・クワィアー代表小澤一郎さん(右)の指導で合唱練習
心を一つに歌声を響かせるソプラノメンバー
最終公演の成功へ熱のこもった練習が続く
7月から練習を続けてきた合唱メンバーは本番まで10日と迫った7日夜、中妻公民館でリハーサル前最後の通常練習に臨んだ。仕事や学校を終え集まったメンバーは、ベートーベン交響曲第9番のコーラス部と第九演奏前に歌う合唱曲「群青」「明日を」の2曲を練習。パートごと細部のチェックを入れながら歌声を重ねた。
石田啓将君(12)、晃悠君(9)兄弟は父昌玄さん(49)と舞台に立つ。初参加の晃悠君は「高い音のところが難しいけど最初より慣れてきた。終わっちゃうのは寂しいけど、お兄ちゃん、お父さんと3人で出られるのでうれしい」と本番を心待ちに。5回目の参加となる啓将君は「みんなで歌えることに感謝したい。コロナで中止になった2年間の分も合わせて心を込めて歌う」と幼児から培った歌声に自信をのぞかせる。
参加者最年少の石田晃悠君(前列右)と兄の啓将君(同左)
浅沼和子さん(82)は夫英雄さん(09年逝去)と、母体の合唱団「釜石フィルハーモニック・ソサィェティ」に所属し初回から参加。「(初代指導者の)渡邊先生には生活に根差した音楽というものをご指導いただいた。自分の人生の半分は第九とともにある」と振り返る。同じく初回から参加している女性と「2人で最後まで続けてこられたのは何よりの喜び。大切な出会い、得難い時間をいただいた」と感謝する。当日は「胸がいっぱいになりそう…ちゃんと歌えるかな―」。亡き夫と心を重ね、渡邊さんの教えを歌声に込める。
最終公演は同市出身、都立高教諭で、アマチュアオーケストラ「ムジカ・プロムナード」を主宰する瓦田尚さん(40)が指揮。同オケ、釜石市民吹奏楽団員など59人が演奏する。合唱には「かまいし第九の会」をはじめ市内外の115人が参加予定で、県内出身の声楽家4人がソリストを務める。
合唱隊は9歳~80代の男女で結成。約三分の一が県外から集まる
「明日を」の合唱では手拍子の演出も
本番へ気持ちを高めながら練習する参加者
実行委の川向修一会長(71)はプログラムを作る中で、一人一人の思いの積み重ねが釜石の第九を創り上げてきたことを痛感。「渡邊先生の『学び続け、耕し続ける』という言葉を忠実に守り、ここまで続けてこられた。みんなの思いが詰まった歌声で最後のステージをしっかり締めくくりたい。これが逆に力となって、新しい形の釜石の第九につながれていくことも期待しながら…」と本番へ気持ちを高める。
ファイナル公演「第44回かまいしの第九」は17日午後1時半、TETTOで開演。チケットは前売り1500円(当日1800円)、高校生以下は前売り、当日ともに500円。TETTOで販売している。
釜石新聞NewS
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