脳外科の入院受け入れ、分娩休止…県立釜石病院のいま 公開講座で説明 市民、動きに理解も不安残す
県立釜石病院の市民公開講座で現状を伝える坂下伸夫院長
医師の不足や確保も困難なことから脳神経外科の入院受け入れや、分娩(ぶんべん)の業務などを休止した県立釜石病院。地域に戸惑いや不安をもたらしたが、医療を取り巻く状況は今も変化する。「新型コロナウイルス感染症の影響などで行った病棟再編で業務が効率化し、常勤医、奨学金養成医師の増員により診療体制が充実している」。9月26日、釜石市大町の釜石PITで開かれた市民公開講座で同病院の坂下伸夫院長が説明した。
同病院が市民向けに講座を開くのは4年ぶり。「釜石病院の役割と今の動きを知ろう」をテーマに、坂下院長は外来患者数や入院患者数、病床利用率などの変化を示しながら2020年以降の動きを振り返った。
診療体制の変化などの説明に耳を傾けた釜石市民ら
釜石大槌医療圏の基幹病院としての役割を担うが、圏域の人口は減少傾向にあって患者数の増加は見込めない状況もあり、病棟再編で1つがコロナ専用に。21年4月に脳外科の入院受け入れを停止し、緊急処置などが必要な患者は地域外の病院に搬送している。同10月には分娩の取り扱いが休止。産婦人科の外来は続け、産前・産後健診を行う。「医療資源の少ない地域なので、医師会や行政などとの連携が必須。医師の大幅な増加は困難である以上、近隣の病院との連携、機能分化も不可欠だ」と強調した。
22年から今年にかけ、常勤医の増加で脳神経内科や形成外科が新設され、泌尿器科や消化器内科などは複数体制となった。専門医がいない診療科の疾患や診療科を特定できないケースに対応するため新たに設けた総合診療科は入院件数が増加。こうした変化の要因の一つが、奨学金養成医師の配置だ。坂下院長は「若い医師が増えて活性化している。貴重な戦力だが、医師としてはまだまだ。自己研さんに努める必要があり、地域で育てるという気持ち、あたたかい視点で見守ってほしい」と求めた。
「救急受診」をキーワードに講話する角地浩明医師
変化の背景には慢性的な医師不足に加え、医師の働き方改革がある。来年4月からは病院などの勤務医の時間外労働に上限を設ける制度が開始。坂下院長が概要に触れ、それにつながる市民の協力について同病院救急医療科長の角地浩明医師が紹介した。近年、救急車での搬送が増えているというが、その半数は高齢者で、中には緊急性が高くないケースもあり、「救急受診するか悩む時は、スマートフォンのアプリ(教えて!ドクターなど)を参考にしてほしい」と提案。もしもの時に望む医療やケアを事前に家族、医師らと話し合う取り組み「人生会議」も知らせた。
懇談では市民の疑問に答えたり意見を聞いた
講話の後は、聴講した市民ら約60人と懇談。釜石地域は脳血管疾患(脳卒中)による死亡率が極めて高く、市外への緊急搬送が必要な場合の不安や、分娩再開を求める声が聞かれた。「かかりつけ医」の考え方について質問も。コロナ禍で病院と地域の関係性が希薄化したと感じている人も多く、投書を通したやりとりを求めていた。
「患者が減ったから、病院の規模を縮小するというのは安易。地域医療を支えるためには人員が必要。医師派遣や働き方改革の問題はあるが、県医療局など関係機関に働きかける」と坂下院長。それには地域の後押しが重要となることから、状況を市民に広く伝えて協力を得ていきたいとした。
釜石新聞NewS
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