SL銀河 最後の勇姿 沿線各所で万感の見送り ライトアップの宮守「めがね橋」では感動の別れ


2023/06/17
釜石新聞NewS #地域

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11日夜、大勢の人たちに見送られ、10年にわたる運行を終えた「SL銀河」=宮守・めがね橋

 
 震災復興を後押しし、被災地に夢と希望を届け続けた「SL銀河」。10年にわたり人々を魅了してきた釜石線のシンボルは、ラストランでも「いかに愛された列車であるか」を強く印象付けた。3、4日の最終定期運行、10、11日の団体ツアー列車による引退運行では、沿線各地で地元住民や全国から駆け付けた鉄道ファンが別れを惜しんだ。11日夜、遠野市の宮守川橋りょう、通称「めがね橋」では大勢の人たちが最後の勇姿を目に焼き付け、感謝の言葉、拍手で列車を見送った。
 
 晴天に恵まれた最終定期運行の3、4日。残り少ない機会を映像や写真に収めようと、各駅や沿線の人気撮影スポットには多くの鉄道ファンが集った。新緑に包まれたカーブ路線の走行が見られる釜石市甲子町大松、釜石鉱山メガソーラー発電所付近では、県外から訪れた人や地元住民らがカメラを構えた。
 
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最終定期運行では最後尾の客車に「ありがとう」と記されたヘッドマークが取り付けられた=3日下り、釜石鉱山メガソーラー発電所付近

 
 つい最近までJRの線路工事の請負業務に従事していた大松在住の男性(80)は、震災後の釜石を復興まで支え続けてくれたSL銀河に感謝。これまで各地で撮りためた写真を見せながら、「震災復興の大きな力になった。できれば、まだ続けてもらえればいいんだが。諸事情を考えるとJRとしては限界なのかな…」。51年にわたった自身の仕事人生の終止符にSLの運行終了を重ね、特別な思いで列車を見つめた。
 
 茨城県日立市の布施勝一さん(67)、由美子さん(63)夫妻は、2016年ごろから月1回ペースで撮影に足を運び続けた。「煙の多さが魅力的。次はこう撮りたいと回を重ねてきた」と勝一さん。宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」をモチーフにした客車に引かれる由美子さんは「初めて見た時は感動した。デザイン、ブルーのグラデーション…。他にはないもの」。胸に刻まれた思い出は数知れず。「このSLがなければ釜石に来ることはなかったかもしれない」と口をそろえ、見納めとなる姿を記憶と記録に残した。
 
 団体ツアー客を乗せた10、11日の運行。10日は花巻発釜石行きの下り運転。釜石市の玄関口、陸中大橋駅には到着時刻の午後2時35分を前に、列車を出迎えようとする人たちが次々に車で乗り入れた。手作りのメッセージボード、うちわ、JR特製手旗を携え到着を待ちわびる人たち。列車が到着すると、これまで撮りためたSL写真を乗務員にプレゼントするファンも。ホームは大勢の人たちでごった返した。
 
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10日、陸中大橋駅でSL銀河の到着を待つ親子連れや子ども

 
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手旗を振って最後の下り運転の列車を出迎えた

 
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宮城県から駆け付けた家族は列車を追い、洞泉駅でも通過車両に手を振った

 
 文字通りの“ラストラン”となった上り運転の11日―。この日は夜にかけての運行となり、釜石駅出発は午後2時40分。別れの涙を象徴するかのような雨模様の市内には午後、SL銀河の見送りを呼び掛ける防災無線が響いた。沿線には通過時刻に合わせ市民らが駆け付け、10年の感謝を込め列車に手を振った。沿線各地区の生活応援センターでは見送り用の手旗を希望者に事前配布。当日、小佐野駅には約80人が集まり、釜石に元気をくれたSLとの別れを惜しんだ。高齢女性は「寂しいね…。涙が出るね」と目を潤ませた。
 
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11日、小佐野駅を通過する列車に手を振る地域住民ら(写真提供:小佐野地区生活応援センター)

 
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降りしきる雨の中、力強く進むSL銀河(写真上:枯松沢橋りょう、同下:同橋りょう手前)

 
 ラストランを一層盛り上げたのは遠野-花巻間の夜間運行。最大の見せ場、宮守の「めがね橋」は、辺りが暗くなるとライトアップされ、到着を待つ人たちの期待感を高めた。午後7時8分に遠野駅を出発した列車は午後8時すぎ、同橋に姿を現し、蒸気や煙を吐きながらゆっくりと走行。列車を見上げる人たちはサイリウムライトやスマホをかざし、盛んに手を振った。
 
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ライトアップされためがね橋で最後の勇姿を見せるSL銀河

 
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横断幕やサイリウムライトで感謝の気持ちを表す遠野市民ら

 
 花火も上がる中、列車は橋の上で約3分間停車。どこからともなく「今までありがとうー」「おつかれさまでしたー」などと声が上がった。機関車は何度も長い汽笛を鳴らし見物客に応えた。機関車に乗り込んだJR社員も車内から明かりを照らし、「ありがとうございました」とお礼の言葉が発せられると一帯は大きな感動に包まれた。走り去る際には「また、走ってくれよー」「待ってるよ。またねー」などの声が響き、自然と大きな拍手が湧き起こった。
 
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機関車からも明かりが…。互いに感謝の気持ちを伝え合った(写真上)。乗客も心温まる光景を脳裏に刻んだ(同下)。写真提供=多田國雄さん

 
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宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をほうふつとさせる光景が広がった(写真提供=多田國雄さん)

 
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「また、いつか…」。復活への希望も込め、列車に別れを告げる

 
 紫波町から家族5人で訪れた佐々木琉君(7)は「小さいころからずっと見てきた。今日はすごく感動した」。自宅そばに釜石線の踏切があり、運行シーズン中は毎週土日が楽しみで仕方なかったという。「こんなに緊張して動画を撮ったのは初めて。涙があふれそうだったが、ぐっとこらえた」と母絵美さん(39)。SL銀河の運行開始後、琉君ら2人の子どもに恵まれた。「子どもたちの成長はSL銀河と共にあった。乗務員さんが一生懸命手を振って、汽笛を鳴らしてくれたことは忘れられない」と声を詰まらせた。
 
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大人も子どもも盛んにライトを振ってお見送り

 
 釜石市小川町の八幡三郎さん(78)、良子さん(75)夫妻は写真が趣味。「私たち世代は修学旅行も集団就職も東京までSLだった。どうしても引かれるものがある」と、追っかけてきた。ラストランはめがね橋でカメラを構え、「多くの人が見送る光景に胸がいっぱいになった。本当に終わりなんだなぁ」。寂しさをにじませつつ、「今までで一番のSLだった」と三郎さん。この10年を振り返り、「釜石にみんなが来てくれるきっかけになり、人と人との出会いも生んだ。子どもたちにも夢を与えてくれた」と実感。運行終了が同市の今後に及ぼす影響も懸念し、「釜石は次、何があるのか?人口減少も進む。定期でなくてもいい。単発でも走ってくれれば」と復活ランを願った。
 
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八幡三郎さん撮影の一枚。川面に反射する青い光が美しい(写真提供:八幡さん)

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