釜石艦砲射撃76年 記録と記憶をつなぐ郷土資料館企画展~市民団体は戦災資料館の再建要望


2021/08/09
釜石新聞NewS #地域

 76年前の8月9日、釜石市は米英連合軍による2度目の艦砲射撃を受け、市街地は壊滅した。本州で初めて艦砲射撃に襲われた7月14日と合わせて、少なくとも781人もの命が奪われた。時は流れ、当時のことを知る人は少なくなる中、「戦禍の記録と記憶を後世に」つなぐため、鈴子町の市郷土資料館で毎年恒例の戦災資料を集めた企画展が開かれている。反戦平和などを訴える16の市民団体は、今年も震災資料館の再建などを市に要望。「続けることで、過去の事実を知り受け止め、考えてくれる人がいれば。未来に伝えていくために」。そんな思いをくみ取り、地域の歴史を振り返る日に―。

 

捕虜収容所長の手記など集め企画展 郷土資料館「戦争捕虜の記憶、後世に」

 

釜石市郷土資料館で開催中の企画展「釜石の捕虜収容所」

釜石市郷土資料館で開催中の企画展「釜石の捕虜収容所」

 

企画展は「釜石の捕虜収容所」がテーマ。当時、市内2カ所に収容所があり、写真やパネルなど約60点の資料で解説する。初展示となったのは、終戦時に収容所長を務めた故稲木誠さん(1988年死去)が書き残した手記「降伏の時」(複製)。敗戦の日から捕虜を連合軍に引き渡すまでの1カ月をつづっている。戦後、稲木さんが元捕虜のオランダ人と手紙をやり取りして交流し、戦時中の立場を超えて築いた新しい関係を紹介する資料も並んでいる。

 

稲木誠さんの手記「降伏の時」の複製などが並ぶ

稲木誠さんの手記「降伏の時」の複製などが並ぶ

 

 手記に見入っていた盛岡市の藤村幸雄さん(72)は「記憶は消えるが、記録はいつまでも残り説得力がある。当時を知る人が少なくなる今、長い歴史の中にある出来事を、これからを生きる人たちは知るべき。この先のヒントになるものがあるはず」とうなずいた。

 

 釜石は太平洋戦争末期の1945年に2度、連合国艦船による集中砲撃を受け、焦土と化した。戦争捕虜や戦犯裁判の調査を行うPOW研究会などによると、終戦時、市内にいた捕虜は746人。収容中に死亡した65人のうち、32人が艦砲射撃で犠牲になった。

 

戦時中、釜石市内2カ所にあった捕虜収容所を解説する

戦時中、釜石市内2カ所にあった捕虜収容所を解説する

 

 企画展は8月30日まで。午前9時半~午後4時半(最終入館同4時)。入館料は大人200円、小中高校生と障害者手帳を持つ人は無料。同館では「手記により詳細を知る機会が少なかった地域の歴史を掘り下げることができた。戦争という日常とはかけ離れた現実を出発点としながらも、新しい道を作る行動を起こすことの大切さを学ぶ機会に」と来場を呼び掛けている。

 

戦災資料館の再建要請 釜石市平和委員会「平和をつなぐ行動を」

 

戦災資料館の再建などを市に要請する市民団体代表ら=8月4日、釜石市役所

戦災資料館の再建などを市に要請する市民団体代表ら=8月4日、釜石市役所

 

 8月4日には釜石市平和委員会(岩鼻美奈子会長)など15団体が、東日本大震災の津波で全壊した戦災資料館の再建や戦災遺構の保存、戦災教育の充実などを市に要請した。岩手・戦争を記録する会(斉藤三郎代表)も同席し、同様の要請を行った。

 

 市役所を訪れたのは団体関係者ら7人。戦中、釜石艦砲で捕虜など外国人も犠牲になっていることを踏まえた慰霊の場となる追悼碑の建立も要望した。戦災遺構の保存に向け積極的な取り組みの必要性を訴える人も。「あるものすべてが生かされているとは思えない。残されたものを生かしつつ、郷土資料館の展示を充実させてほしい」と求めた。

 

野田市長に要請書を手渡す岩鼻会長(中)、斉藤代表(右)=8月4日、釜石市役所

野田市長に要請書を手渡す岩鼻会長(中)、斉藤代表(右)=8月4日、釜石市役所

 

 要請書を受け取った野田武則市長は戦災資料館の再建について、「単独の施設は計画していない。郷土資料館の中で充実させたい」と回答するにとどめた。犠牲者の慰霊と歴史をつなぐ思いは変わらないことを強調し、「釜石艦砲戦災誌を全面的に見直し、改訂版を出したいと考えている」とした。

 

 戦争を知る人が減り続ける中、「戦争の惨禍を二度と残したくない」と思いを強める団体関係者ら。岩鼻会長は「資料館が果たす役割は大きい。再建して歴史をしっかり伝える必要がある」と指摘する。釜石艦砲の体験者らの証言をまとめた記録映画製作の動きがあるといい、「今やらないと、不可能になる時がくる。子どもたちには平和な世界を手渡したい。平和を望む思いをつなぐため、行動し続けなければいけない」と力を込めた。

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