おいしい“ハート”届けます!釜石・唐丹町の漁師3人が養殖 海と人を結ぶムール貝

釜石市唐丹町から“おいしいもの”を届けようと奮闘する3人の漁師
豊かな海を生かした漁業をなりわいとしてきた三陸沿岸は、近年の気候変動や海洋環境の変化に伴って、秋サケなど主要魚種が歴史的な不漁に見舞われている。先行きは見通せないが、釜石市唐丹町では海洋変化に対応すべく新たな養殖がスタート。「副産物」を主役としてブランド化し、販路を拡大させている。「信用第一」に安定供給に向けて技術を高めている地元の漁師3人を地域も後押し。ひらくとハート型に見える二枚貝に添えて届ける“あたたかい気持ち”が海と人をつなぎ、浜を活気づけている。
唐丹町漁業協同組合に所属する佐々木和則さん(59)、佐々木武さん(44)、小野寺計さん(41)の3人が唐丹の海で育てるのは、ホタテの養殖いかだや綱などにくっついている「シュウリ貝」。「ムラサキイガイ」とも呼ばれるヨーロッパ原産の外来種で、都市部では「ムール貝」として高級レストランなどで使われる人気の食材だ。

「はーとふるムール」として売り出す唐丹産ムール貝

ムール貝の養殖に取り組む(左から)小野寺計さん、佐々木和則さん、佐々木武さん
現在、水揚げは週1回。「新鮮なうちに」と、水揚げ後すぐに出荷までを行う。7月末、今シーズン一番の注文が入ったため、2日間かけて作業。29日、漁師たちは日の出とともに唐丹湾内の養殖場に出航。30分ほどの作業で、かごはムール貝でいっぱいになった。家族らが待つ港の岸壁に戻ると皆で力を合わせ、貝にこびりついた海藻や小さな貝を丁寧に除去。翌30日朝、唐丹町漁協の職員らの力も借りて箱詰めし、計約300キロを出荷した。

唐丹・小白浜漁港から船で5分ほどの養殖場でムール貝を育てる。以前はホタテを養殖していた場所を活用。春に養殖用ロープを垂らし、翌年に収穫する形で継続する
シュウリ貝は地元では副産物として水揚げされるが、売っても「二束三文」、養殖施設に付着したものは作業の妨げとなる「やっかいもの」だった。一方、主力とするホタテやワカメの養殖は海水温の上昇などの影響で大量へい死や品質低下が見られ、なりわいの継続に危機感を持った3人。この副産物は岸壁などでも見かけ、力強く自生していることもあり、「高水温環境への対応力」に目を付けた。
「養殖で品質や収量を安定させることができれば」。新たな水産資源として可能性を見いだした3人は2023年、和則さんを組合長に「唐丹ムール貝養殖組合」を設立。釜石市内にある岩手県水産技術センターなどの協力を得ながら養殖試験に取り組んだ。
“言い出しっぺ”の武さんいわく、「もっと簡単だと思った。こんなに苦戦するとは…甘くなかった」。もともと自生しているため種となる幼生は容易に手に入り「お金をかけず」にスタートできた。数年育てて付着密度と成長の関係性を確かめ、養殖施設となる綱を設置する時期や方法も確立させた。

水揚げ後、陸に戻って貝の洗浄作業。船の帰港を見計らって集まった家族らと力を合わせる
そうした中で課題となったのが、貝の洗浄作業。貝にこびりついたものを取り除くのは大変な手間と時間を要した。先進地視察として北海道余市町の漁業者と交流した際に見せてもらった洗浄機をヒントに、独自の洗浄機を試作。和則さんが、以前からつながりがあった宮城県気仙沼市の業者に依頼したもので、導入により作業時間が半分以下と省力化できた。

独自の洗浄機を導入して作業の省力化を図る

洗浄機から出した後、さらに磨きをかける
次の課題は売り先。高単価な直接取引を目指し、首都圏の水産卸などへ持ち込んだものの、知名度がなく、高くは売れなかった。ただ、クリスマスシーズンの需要をつかみ、約500キロを出荷。3人にとって「大きなモチベーションになった」という。
「(シュウリ貝は)よく食べていて、好きだったから」と話すのは、武さん。味には自信があった。特においしい夏の味わいを知ってもらうべく、人づてに県内外の飲食店への売り込みを開始。釜石市内の飲食店との定期取引も実現した。
昨年からは「はーとふるムール」と名付けてブランド化。「貝を開いた形がハートに見えるから」と、和則さんは笑う。東日本大震災後にもらった多くの「優しさ」「愛情」「真心」を力に復興したこともあり、「復興の証し」「感謝」を届けようと思いを込め、ロゴマークもデザイン。生産者の顔が見える取り組みとして、料理研究家と一緒に試食会や商談会を開いたり消費者との接点を増やしながら、少しずつ販路を切り開いた。

貝を開くとハート型に!ブランド性を高めて販路を拡大中

水揚げしたムール貝を箱詰め。唐丹町漁協の職員も協力
生産から出荷、売り込みまで手がける体制を継続し、昨年は1.6トンを出荷。今季は12月までの収穫期に2トンを目標にしている。価格も、地元では1キロ当たり200~300円ほどだったが、今は1000円ほどで売れるようになった。
こうした取り組みは、3月に東京であった「第31回全国青年・女性漁業者交流大会」(全国漁業協同組合連合会主催)の流通・消費拡大部門で最高賞に次ぐ水産庁長官賞を受賞した。和則さんは「ゼロから始め、手探りでやってきたことが評価されてうれしい。唐丹から新しい産物を届けられたらいい」と率直に喜ぶ。
武さんは「誰もやっていないことだからこそ、やってみようと思った。生産、開発、流通のすべてに関わり、いろいろな経験ができた。売れた時の喜びは最高。やってよかった」と熱い思いを吐露。小野寺さんは「楽しい。いっぱい売れるように考え、模索し、やりがいもある」と言って、笑顔を見せた。
3人で始めた取り組みを地域も後押し。唐丹町漁協加工課長の佐々木憲佑さん(42)は「高水温の環境に対応できる新事業として期待。流通面やできることで軌道に乗るよう協力したい」と見守る。

「新たな名産品に」。これからも唐丹の海でムール貝を育てていく
和則さんと武さんは主にワカメやコンブの養殖、イカ釣り漁業に携わる。小野寺さんはメインとしていたホヤ漁が危機的状況となり、ワカメ養殖に転向すべく試行中とのこと。それぞれの本業と組み合わせつつ、「無理のない、できる形で収入源を増やしていければ」というのが、3人共通の意識だ。
そして、地域や人とのつながり、販売先や消費者の顔が見える関係性から「信頼の大切さ」を改めて実感。注文に応えるべく、海の状況や天候の変化を読みながら漁に出る。「唐丹の海と人を結び、水産業の未来を照らす存在として『はーとふるムール』を育てていきたい」。3人はこれからも“こころ”を届けていく。

釜石新聞NewS
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