おいしさ提供、フェアトレード普及、復興応援…釜石・ハピスコーヒーが固定店舗開設へ

固定店舗を間もなくオープンさせる岩鼻伸介さん=2月
釜石市を中心にキッチンカーで営業するコミュニティーカフェ「HAPPIECE COFFEE(ハピスコーヒー)」。東日本大震災後に帰郷した店主の岩鼻伸介さん(48)が淹(い)れる“おいしい”一杯と、何気ない会話の“うまみ”を味わえるのが魅力だ。豆は「フェアトレード」で仕入れ、公正な取引を通じ原産国の生産者を支援するという概念の普及にも一役買う。移動販売の傍ら、災害の被災地に“ホッと”ひと息つける時間を届ける活動も続ける中、この3月の「あの日」に拠点となる固定店舗を開設する。提供するのは、これまで大切にしてきた要素を色濃くした「最高にすてきなコーヒータイム」。プレオープン中に体験してきた。

おいしいコーヒーを味わえるカフェが通りに明かりをともす
2月某日夕方、空き店舗が目立つ同市大平町の釜石大観音仲見世通りの一角に明かりがともる。数年前までは喫茶店、古くは食堂として利用された空き店舗を改装。当時の雰囲気を生かした内装、照度を落とした店内はもの懐かしさがあふれる。
そこで提供されるメニューは、コーヒーのフルコース。岩鼻さんが厳選した数種類のコーヒーのテイスティング(試飲)から始まる。その日、「ウェルカムコーヒー」として用意された豆は6種。浅煎(い)りしたエチオピア・イルガチェフェと東ティモール・レテフォホ、中煎りで東ティモール・コカマウとペルー・アルトマヨ、そして深煎りのインドネシア・マンデリンとメキシコ・マヤビニック。店主が「お好きな味は?コーヒーの旅をどうぞ」といざなう。

コーヒーのフルコースを体験。ウェルカムコーヒーを説明する岩鼻さん
「浅煎りは酸味が豊かでフルーティー。中煎りは酸味と苦みのバランスがとれている感じ。深煎りはコクと苦みがガツンとくる」。岩鼻さんの“豆”知識を参考にしながら味見。酸味、苦み、コク、香り…微妙な違いに、自分の好みがみえてくる。
そして選んだ一杯が「メインコーヒー」となる。豆を挽き、お湯を注いで丁寧に抽出する間が、さらなる情報収集タイム。コーヒーの淹れ方、フェアトレードコーヒーの歴史など岩鼻さんの“熱い”コーヒー談義を楽しめる。

お好みの一杯を目の前で丁寧に抽出。豆知識を添えて

メインコーヒーは能登の知人が作ったカップで「どうぞ」
お気に入りを味わい、2杯目へ。「もっと深く知りたい」という人は試飲で気になった別のコーヒーに挑戦でき、「多様な味に触れたい」のならキッチンカー営業で好評というメニューの「アフォガード」(アイスクリームに熱いエスプレッソなどをかけたデザート)を選べる。希望があれば「アラカルト」として追加でもう一杯(別料金)いただける。
コースの締めとして手渡されるのが、持ち帰り用のコーヒー。「その人にピッタリ」の「また飲みたい」味を自宅でも楽しんでもらおうという趣向だ。豆のままか、粉にするか選択可能。豆に適した抽出方法や器具のアドバイスも受けられる。

2杯目はアフォガードを味わい、自宅用のコーヒーもゲット

和洋が混在した店内で味わい深いカフェタイムはいかが…
90分という時間をかけて複数の味に触れ、感覚や知性を刺激され、新しい発見もある、何ともぜいたくなフルコースは完全予約制。料金は税込み5000円。自家焙煎(ばいせん)した豆を十数種用意しており、ブレンドも可能。岩鼻さんは「いろんなコーヒーの中から好みのものを楽しんでもらえたら」とワクワクした様子で来店を待つ。
夢の実現場所「ハピスコーヒーラボラトリー」

「ハピスコーヒーラボラトリーですてきな時間を」と岩鼻さん
店名は「ハピスコーヒーラボラトリー」。ハピスは「Happy」と「Piece」を組み合わせた「幸せのひとかけら」という意味の造語で、「研究所」や「実験室」という意味合いの言葉を加えた。フレンチのようにコーヒーをコースで提供するのは週に2、3日と想定。コーヒー講座(90分)も定期的に開催する。入門、初級、中級などのコースを設定し、料金は税込み5000円。より多角的な視点を求める探究者向けのメニュー(コーヒー・コンサルティング、90分で税込み3万円)もある。

コーヒーにまつわる器具を眺めるのも味わい。フェアトレードの品も並んでいる
固定店舗の開設はおいしいコーヒーの提供、フェアトレードの普及に加え、能登半島地震(2024年発生)の被災地支援を継続させるためでもある。岩鼻さんは発災後からほぼ毎月、キッチンカーを約15時間走らせて現地に通い、コーヒーを振る舞っている。石川県七尾市を中心に活動し、これまでに21回訪問。現在1杯700円のコーヒーを計約2万杯(約1400万円)無償提供してきた。
温かさ上乗せ!釜石の思い、能登へ 1杯のコーヒーに添えるメッセージ キッチンカーでお届け
この取り組みは、震災の津波で実家が全壊した岩鼻さんが「恩返し」のつもりで始めた。能登には「あの時」と同じ、ほっと息をつける時を待つ人がいたから。「息の長い応援を」と支援者からカンパを募りながら被災地に向ってきたが、体力的にも経済的にも毎月通うのは厳しくなった。
「自分がいかなくなることで忘れられているように感じる人もいるのではないか」と岩鼻さん。「分かっているよ、忘れていないよ」と伝え、交流を続ける方法として考え出したのが、釜石と能登の被災地をオンラインでつなぐ拠点の開設。それが釜石の“ラボ”だ。合わせて能登の拠点として、七尾市中島町の小牧集会所に拠点を準備した。

釜石と能登をオンラインでつないで交流を継続する
地元でのキッチンカー営業は続け、移動販売をしない日にラボで「至福のひととき」を提供する。そしてたまに店内に設置したパソコンとモニターで能登の拠点とつなぎ、現地の人と画面越しに交流。現地では週に2回サロン活動が行われているようで、来た人と話をする形を思い描いている。
能登行きは回数が減るかもしれないが、現地に行けない時もつながれるよう考えた仕組みが、まもなくスタートする。「つながりは失ってはいけないもの。より密に人や地域の縁を結んでいけるのでは」と岩鼻さん。固定店舗という居場所ができることで、震災を経験した人、能登の被災地を思う人、コーヒー好きな人たちが言葉を交わすコミュニケーションの場になることを願う。
グランドオープンの「3・11」は“あの日のコーヒー”で

釜石大観音仲見世通りの「ハピスコーヒーラボラトリー」=3月
固定店舗の本オープンは3月11日。地震発生時刻の午後2時46分、黙とうの後に店を開放し、「あの日のコーヒー」を振る舞う。
あの日のコーヒーは、岩鼻さんが15年前に古里に届けたかった一杯。「避難所で凍え、不安でいっぱいだった人に淹れてあげたかった」。当時、東京都内で経営コンサルタントをしていたため、かなわなかった。仕事の傍ら、イベントでコーヒーの提供もしていて、フェアトレードに出合ったのもその頃。できなかった悔しさを出発点に「古里の復興に貢献しよう」とUターン。キッチンカーで巡り、人が集える場をつくってきた。

「あの日のコーヒー」を振る舞う本オープンは間もなく
「原点」と話す一杯を、岩鼻さんは震災から15年となる「あの日」に手渡す。「この日をどう過ごそうかと迷っている人もいる。日が沈んだ後も店を開けているので、気軽に立ち寄って、あの日に思いをはせながら、あたたかいコーヒーを味わってもらえたら」。そう望みながら、迎える準備をする。

釜石新聞NewS
復興釜石新聞を前身とするWeb版釜石新聞です。専属記者2名が地域の出来事や暮らしに関する様々なNEWSをお届けします。取材に関する情報提供など: 担当直通電話 090-5233-1373/FAX 0193-27-8331/問い合わせフォーム











