「釜石よいさ」現行の形に一区切り 実行委解散へ 踊り継ぐ方法、開催意義考える機会に


2025/10/03
釜石新聞NewS #地域

社員の子どもたちも参加し、踊りを楽しむ日本製鉄グループ=第34回釜石よいさ

社員の子どもたちも参加し、踊りを楽しむ日本製鉄グループ=第34回釜石よいさ

 
 第34回釜石よいさ(同実行委主催)は9月23日、釜石市の釜石鵜住居復興スタジアムで開催された。経費や交通規制、運営人員不足などの課題解決のため、市中心市街地から同スタジアムに会場を移して3年目。実行委は以前のような“街なか開催”を望む声も根強い状況を鑑み、現組織としての開催を今年で終了。今後、街なか開催を担う新たな運営母体への移行も視野に、踊り継ぐ方法を模索していきたい考えだ。
 
 16団体約650人が参加。4こども園・幼稚園の「こどもよいさ」に続き、企業や学校、福祉施設など12団体が群舞を繰り広げた。そろいの浴衣、はんてん、ポロシャツなどを身にまとい、郷土芸能の虎舞をモチーフに創作された踊りを楽しむ参加者。お囃子(はやし)隊が先導する「ヨイサッ、サアーサ ヨイヤッサー」の掛け声に合わせて躍動し、弾ける笑顔を見せた。
 
かわいらしい虎の衣装は正福寺幼稚園こどもよいさの伝統

かわいらしい虎の衣装は正福寺幼稚園こどもよいさの伝統

 
かまいしこども園は大漁旗はんてん姿(右)、上中島こども園は鳴子を手に「よいさっ!」

かまいしこども園は大漁旗はんてん姿(右)、上中島こども園は鳴子を手に「よいさっ!」

 
各園オリジナルの振り付けも楽しい。甲東こども園は元気いっぱいにジャンプ!

各園オリジナルの振り付けも楽しい。甲東こども園は元気いっぱいにジャンプ!

 
 東日本大震災前、同スタジアムの場所に校舎があった釜石東中。生徒、教職員ら有志27人が参加した。岩鼻樹里さん(3年)は「みんなで踊れて楽しかった。思っていたよりも明るい雰囲気。各団体が負けじと踊っていたのが印象的」と話した。同校の参加は震災後初。釜石出身の教諭らが提案し参加を募ったところ、1~3年生まで21人が手を挙げた。提案者の一人、佐々木伊織教諭(29)は「小さなことでも地域を盛り上げられるという実感を持ってもらえたら」と期待を込めた。
 
“うのスタよいさ”は初めての参加。地元開催を盛り上げる釜石東中の生徒有志

“うのスタよいさ”は初めての参加。地元開催を盛り上げる釜石東中の生徒有志

 
 昨春開校した釜石市国際外語大学校からはネパール、ミャンマー出身の学生を中心に約50人が初参加した。ネウパネ パビトラさん(21)は「楽しいです。ネパールの祭りを思い出す」とにっこり。教職員が浴衣を着せてくれたが、「着るのが難しそう」と和装文化にも驚いた様子。タマン プラヂプさん(22)も「日本人と一緒に踊れて気分が上がった」と大喜び。ネパールにもみんなで踊る祭りはあるが、「向こうはごちゃまぜ。日本は順番に並んで踊る」と違いを示した。
 
釜石市国際外語大学校は3カ国の学生が参加。そろいの浴衣で初よいさを楽しんだ

釜石市国際外語大学校は3カ国の学生が参加。そろいの浴衣で初よいさを楽しんだ

 
 市外からの飛び入り参加も。サッカーJFL、いわてグルージャ盛岡の選手らは踊りの輪に加わり、試合への来場も呼び掛けた。昨夏加入のDF山内舟征選手(24、愛知県出身)は釜石初訪問。同スタジアム建設の経緯や祭りの活気に触れ、岩手県民の底力も感じた様子。「会場で直接応援の声もいただき、来て良かった」と笑顔を見せた。チームは今一度、自分たちの原点に立ち返ろうと、ホームタウンなどに出向いて地域を元気にする活動を展開中。広報の田村凌空さんは「地元の皆さんが応援してくれているからこそ、自分たちも活動ができる。選手にはそのありがたみも感じてもらえれば」と話した。
 
「一緒に岩手のスポーツを盛り上げよう!」 いわてグルージャ盛岡の山内舟征選手(左)、嶋津柚杏選手も踊りの輪に…

「一緒に岩手のスポーツを盛り上げよう!」 いわてグルージャ盛岡の山内舟征選手(左)、嶋津柚杏選手も踊りの輪に…

 
 祭りの華「よいさ小町」として参加したのは女性9人。地元出身で社会人1年目の佐々木優奈さん(23)は「今の形でのよいさは最後ということもあり、地域を盛り上げる一員になれれば」と応募した。前囃子や震災を機に生まれたスタコラ音頭など新しい踊りにも挑戦し、「若い世代が覚えていかないと後に残らない」と継承の必要性を実感。中学生の時に学校参加した時とは違う特別な思いを抱き、「市民がこれだけ集まる祭りは貴重。どんな形でも残していければ」と願った。
 
よいさスタートを告げる「前囃子」でしなやかな踊りを披露する「よいさ小町」

よいさスタートを告げる「前囃子」でしなやかな踊りを披露する「よいさ小町」

 
佐野よりこさんが歌う「釜石小唄」に踊りで華を添えるよいさ小町(上)。ステージ前では「ちあ釜」のフラッグパフォーマンスも(左下)

佐野よりこさんが歌う「釜石小唄」に踊りで華を添えるよいさ小町(上)。ステージ前では「ちあ釜」のフラッグパフォーマンスも(左下)

 
 この日は、過去最多50店舗が出店したフードコーナー、子どもが遊べるおまつり広場などもにぎわいの一助に。郷土芸能披露、地元出身の民謡歌手佐野よりこさんのライブ、ギネス記録を持つプロけん玉師伊藤佑介さんのショー&参加者のけん玉対決など、ステージイベントも盛りだくさん。約3500人が来場し、海風が心地良い秋晴れのもと、“みんなで楽しむよいさ”を満喫した。
 
各地のグルメが大集結! 50店舗が並んだフードコーナー

各地のグルメが大集結! 50店舗が並んだフードコーナー

 
子どもたちを楽しませたおまつり広場。さまざまな遊びに興じた。釜石商工高生は課題研究で取り組む「大槌刺し子」の作品を販売(右上)

子どもたちを楽しませたおまつり広場。さまざまな遊びに興じた。釜石商工高生は課題研究で取り組む「大槌刺し子」の作品を販売(右上)

 
プロけん玉師の伊藤佑介さんのパフォーマンスは圧巻(左)。よいさのリズムに合わせ、参加者がけん玉対決(右)

プロけん玉師の伊藤佑介さんのパフォーマンスは圧巻(左)。よいさのリズムに合わせ、参加者がけん玉対決(右)

 
 鵜住居町の田中美貴子さん(45)は子ども2人と来場。「津波で大きな被害を受けた場所にスタジアムができ、イベントで盛り上がるまでに復興したことを思うと感慨深い」と話す。震災前は市中心市街地に暮らし、“街なかよいさ”も参加、見物ともに経験。「街なかもスタジアムもそれぞれの良さ、魅力がある。多くの市民が集まり盛り上がれる場があることが、市全体の活力にもつながっていくのではないか。ずっと続いていってほしい」と期待した。
 
3年目となった“うのスタよいさ”。幅広い世代の交流の場にもなっている

3年目となった“うのスタよいさ”。幅広い世代の交流の場にもなっている

 
 釜石よいさは1987年、釜石製鉄所の高炉休止で活気を失ったまちに元気を取り戻そうと、地元の若者たちによって始められた。長年、8月夜に市中心部の目抜き通りで開催してきたが、2011年の東日本大震災の被災で2年間中断。13年に新たな実行委が復活させ、19年まで続けられたが、新型コロナ禍で再び中止を余儀なくされた。23年の再復活にあたっては、人口減少などに伴う社会経済情勢の変化や夏の猛暑を考慮し、経費や開催時期、運営体制を見直し。同スタジアムでの開催を2年間続けてきたが、以前のような街なか開催を望む声も根強いことから、今回をもって現体制での実施を一区切りとし、実行委の解散を決めた。
 
 下村達志実行委員長(50)は「改めてよいさを一から考えるための決断。新たに市街地でやる組織ができれば可能な限り応援するし、できない場合でも今のような『にぎわい創出の場』は維持していきたい」と話す。今後は新組織の発足次第だが、動きがない場合や新組織の計画が遅れる場合は、スタジアムでの「よいさを踊れる」別イベントの開催を検討したい考え。
 
市民の宝「釜石よいさ」を後世へ… 踊り継ぐための模索が続く

市民の宝「釜石よいさ」を後世へ… 踊り継ぐための模索が続く

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