「また聞けてうれしい」 釜石の“第九” 合唱協会 継承模索の一歩を市民ら歓迎 歌の力再び
釜石市合唱協会が開いた演奏会でベートーベンの「第九」を歌い上げる参加者
釜石に「歓喜の歌」再び…。昨年、45年の歴史に終止符を打った年末恒例の演奏会「かまいしの第九」を合唱メインで歌い継ぐ初の試みが行われた。「釜石の合唱文化を絶やすまい―」と、釜石市合唱協会(柿崎昌源会長、3団体)が企画した合同演奏会「つなコン」。訪れた観客からは「形は変わっても第九を聞けるのはうれしい」と歓迎の声が聞かれ、同市に根付く“第九愛”を改めて感じさせた。継承への一歩を踏み出した協会は、本演奏会を基に未来につなぐ形を模索する。
「つながろう・つなげよう・絆のコンサート」(つなコン)と銘打った同演奏会は15日、市民ホールTETTOで開かれた。4部構成のステージ。1~3部では協会員が混声合唱による聖歌や賛歌、女声合唱による組曲など全9曲を歌い上げた。賛助出演として釜石高音楽部も歌声を披露。部員7人がアカペラを交え、3曲を聞かせた。
合唱協会初の合同演奏会には約230人が来場。開場前から長蛇の列ができた
賛助出演した釜石高音楽部。若さあふれる美しいハーモニーで観客を魅了した
市内の合唱団体会員による混声合唱「ケヤキ」。釜石出身で、盛岡などで合唱指導を行う小濱和子さんが指揮した
4部が、つなごう「かまいしの第九」と題したステージ。ベートーベンの交響曲第9番(1~4楽章)のうち、合唱が入る第4楽章を抜粋した形で演奏した。合唱メンバーは協会員を中心に地元在住、ゆかりの48人。メンバーの中から男女6人がソリストを務めた。オーケストラは釜石市民吹奏楽団の団員ら有志20人が担当。管楽器主体の編成で演奏した。合唱、楽器演奏ともに、これまでの半分以下の規模となったが、メンバーが心を一つに奏でる第九は変わらず顕在。長年の演奏会で培われた堂々の歌声、新たな編成で魅力を放つオケの音色が相まって感動のフィナーレを迎えた。
「かまいしの第九」に参加してきたバス小澤一郎さん(右)、テノール大和田宏明さんはソリストの大役を務めた
第九を歌える喜びを胸に仲間と声を重ねる参加者(前列男女6人がソリスト)
市民吹奏楽団団員と釜石ゆかりの弦楽器奏者で編成したオーケストラ。ピアノは釜石の合唱団体の活動を支える高橋伊緒さん
毎年、かまいしの第九を聞いてきたという市内の65歳女性は「(規模は縮小されたが)想像していた以上に素晴らしい演奏で感動した。第九はみんなで喜びを分かち合い、『これからまた頑張るぞ』という気持ちにさせてくれる。年末に聞けるのはやっぱりうれしい」と笑顔。大槌町の鈴木英彦さん(67)も「昨年、終了と聞いて寂しく思っていたが、こういう形で復帰というか、聞けたのは大きな喜び。楽器も小編成ながら聞き応えがあった。いろいろ苦労もあるだろうが、高校生の合唱応援などもいただいて何とか続いてくれるといい」と願った。
「かまいしの第九」は地元の合唱愛好者のほか、市外から招くプロのオーケストラや声楽家の出演を得て発展を遂げ、長年にわたり釜石の音楽文化をけん引してきた。しかし、人口減少や少子高齢化、市内経済の低迷など時代変化を背景に、資金確保や運営体制の維持が困難となり、実行委は昨年の演奏会をもって終了を決断した。
今年に入り、「釜石の合唱活動の原点となった第九をこのまま絶やしたくない。形を変えて継続できないか」と、同合唱協会が歌い継ぐ方法を模索。協会の合同演奏会という新たな枠組みでの第九演奏を発案した。地元の市民吹奏楽団にも協力を呼び掛けたところ、賛同する仲間が集結。7月から本格練習を重ね、例年通りの年末の第九演奏が実現した。
最後は観客と第6コーラス(歓喜の歌)を大合唱。釜石の第九演奏会恒例のフィナーレ。指揮者の小原一穂さん(写真右上)は釜石の演奏会で長年ソリストを務めてきた
釜石での第九演奏継続への一歩となった演奏会。今後、合唱仲間が増えることを願う
テノールのソリストを務めた大船渡市の大和田宏明さん(53)は、釜石の第九演奏会に10数年参加。昨年まで練習で担当していたソロパートを初めて観客の前で歌った。「一生に一度と思って頑張った。喉が痛いです」と照れ笑い。再び第九を歌える機会が得られたことに喜びを感じ、「この曲はどこまでも挑戦し続けられる面白さがある。形は何であれ、みんなで歌っていければ…釜石の第九は不滅です」と継続への思いを込めた。
昨年まで第九合唱のメンバーとして参加してきた釜石高音楽部。今回は自分たちの発表後、客席最前列で聞く側として演奏を堪能した。前見琉綺亜部長(2年)は「祖母も第九を歌っていた。これまで演奏会が続いてきたのは需要があってのことだと思うし、やはりなくすべきではない」と実感。「私たち世代が受け継ぎ、次の代につないでいければ」と願い、若年層の合唱参加の広がりに期待した。
演奏会実現へ奔走した合唱協会の小澤一郎事務局長(47)は「初の試みで心配なところはあったが、最終的にこれだけの歌い手、演奏者、観客に集まっていただき、何とか成功することができた」と安堵(あんど)の表情。「形式は変われど、釜石の第九をつなげられたのは大きい。やって良かった」と手応えを感じ、今後の形をさらに検討しながら継続の道を探っていく考えを示した。
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