英国の産業革命 日本との違いは? 小野寺鉄歴名誉館長が講演/館内で18日まで「餅鐵の刃展」
「イギリスの産業革命-日本との差異」と題し講演した鉄の歴史館の小野寺英輝名誉館長(右)
釜石市大平町の鉄の歴史館で2日、小野寺英輝名誉館長(岩手大理工学部准教授)の講演会「イギリスの産業革命-日本との差異」が開かれた。鉄の記念日(12月1日)にちなんだ鉄の週間行事の一環。世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産・橋野鉄鉱山を有する同市の市民らが、日本より100年も前に大量生産のための技術開発、機械化が進んだ英国の歴史を学んだ。
英国の産業革命は18世紀半ばから後半。インドの植民地経営を背景に発達した綿工業が起点とされる。1733年に機織り機が導入されると糸の供給が不足するようになり、「ローラー紡績機」が登場。人の指でやっていた糸をつむぐ作業が機械化される。後に全自動の「シャトル式力織機」が発明され、紡績と織布の不均衡が解消。英国の繊維工業が急速に発展していく。
機械の動力も変化。水車を回して得る水力から蒸気動力になると、工場立地も川の上流域から下流域へ移動。蒸気動力が主流になると川沿いの必要がなくなり、街なかの立地が可能になった。英国には産業革命に関わる繊維工業の世界遺産が3つあり、工場の近代化だけでなく、社員住宅や病院、工場の利益を労働者に還元する生活協同組合の基礎構築など労働環境の改善も評価されている。
英国の産業革命の核となった繊維工業発展の歴史を説明した
もう一つの革命は、機械の材質が木材から金属に転換されていったこと。世界初の高炉は1707年、英国のエイブラハム・ダービーが築いたコークス炉で、そこで造られた鉄で79年、世界最初の鉄橋「アイアンブリッジ」が建設された。ダービーによって鉄の大量生産技術が確立すると、輸送手段が必要になった。そこで開発されたのが鉄道。1802年、リチャード・トレビシックが世界初の蒸気機関車を発明。25年には英国内で炭坑から石炭を運ぶための産業用鉄道が開通する。
小野寺名誉館長は英国の産業革命について「繊維産業で人間の能力を超える生産力をつくった。民間の利潤追求から始まったもので、下からの近代化といえる。一般向け商品の大量生産、大量消費を可能にした」と説明。これに対し、日本の産業革命は「製鉄産業から始まった。江戸期に植民地化抑止(列強への対抗)のために始まり、上からの近代化といえる。日本の鉄は非西欧社会で唯一の自力近代化成功の原動力になった」とし、両国の違いを示した。
鉄の週間にちなんだ講演会。市民が学びを深める貴重な機会
鉄の週間企画展 若い世代も注目の「刀剣」にスポット当て18日まで開催
鉄の歴史館で18日まで開催される企画展「餅鐵の刃展」
鉄の歴史館2階の特別展示室では今、鉄の週間の企画展示として「餅鐵の刃展」を開催している。1850年代後半から80年代前半までの「餅鉄」「岩鉄」銘のある刀剣やつばを展示。盛岡藩お抱え刀工の銘がある刀剣は、刻まれた年代が釜石の大橋、橋野両鉄鉱山で高炉が稼働していた時期とほぼ重なるため、釜石の銑鉄を素材に作られたものと考えられる。
県立博物館、花巻市博物館、個人の収集家などが収蔵する刀剣13振り、つば4点を展示。盛岡藩の刀工のほか、徳川家御用鍛冶で多くの門人を育成した石堂是一、大阪で長く作刀を続け明治天皇の目にも留まった月山貞一の作もある。釜石市指定文化財となっている、栗林の刀工・神清照の脇差し(鉄の歴史館蔵)も。
江戸の刀工として名高い石堂是一の作品は多くの人を魅了
釜石・栗林の神清照が作った脇差し(市指定文化財)
通常、刀剣に「餅鉄」「岩鉄」などの素材銘が刻まれることはないが、展示品にはなぜ刻まれているのか?森一欽館長補佐は「これらの刀剣は盛岡藩が作らせたもの。那珂湊(現茨城県ひたちなか市)反射炉の閉鎖で岩鉄の供給先が閉ざされたため、藩が刀剣作りを奨励した。素材銘を入れたのは良質な鉄を世に知らしめる方策の一つだったのではないか」と推測する。
会場では釜石の鉱山で見られるさまざまな鉱石や、磁鉄鉱が河川下流に流されていくうちに丸みを帯びた形になる餅鉄(鉄分約70%)も公開。磁石が引き寄せられる体験や、持ち上げることで見た目以上の重さを体感できる。
鉄含有率が70%の円礫「餅鉄」。橋野鉄鉱山では住民が持ち込んだ餅鉄を買い取っていた
甲子中1年の林野黎さんはゲームやアニメで刀剣に興味を持ち、企画展に足を運んだ。「実物はとてもきれい。刃文もしっかり出ていて感動。見られてうれしい」と大喜び。「刀鍛冶になりたい」と憧れを抱いた。
森館長補佐によると、今回の企画展開催にあたり、高炉銑鉄を素材とする刀剣類を確認するため、幕末から明治の「餅鉄」「岩鉄」及び、それに近い添え銘のある刀剣を集成したところ、24刀工、115振りを確認できたという。
同企画展は18日まで開催。同館の開館時間は午前9時から午後5時まで(最終入館午後4時)。火曜日休館。
「餅鉄」の銘が刻まれた月山貞一作の刀
約1億2千万年前、白亜紀のマグマの活動で生成されたさまざまな鉱石も展示
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