カメラ持ちて宝探し 釜石の写真家・菊池賢一さん つれづれなる作品展 何気ない風景、撮りつくせば
釜石市民ホールTETTOギャラリーで作品を展示する菊池賢一さん
釜石市大町の市民ホールTETTOで開催中のギャラリー展「art at TETTO(アート・アット・テット) Vol.9 随撮(ずいさつ)」。釜石・大槌地域で活動する作家を紹介する同ホール自主事業のこの企画で、9番目に登場したのは釜石・只越町で写真店「光陽写真」を経営するフォトグラファー菊池賢一さん(53)だ。本業もさることながら、趣味としてカメラを携え被写体という宝探しを楽しむ日々。普段の何気ない暮らしの中で目に留まった風景、人々の表情などを写した約60点を展示する。20日まで、入場無料。
並んだ作品の多くは釜石市内の風景。でも、どこにでもある暮らしの一コマ
賢一さんは家業が写真店だったが、「やりたいことを自由に」という環境があり、大学卒業後は臨時教諭として岩手県内で働いた。2001年、父の故・宗親さんから相談を受けて古里へ。当時はカメラ撮影がフィルムからデジタルへの移行期で、店内の機材をデジタル化に対応させ、賢一さんの担当とした。同じ時期、店が拠点となっていた愛好者グループ「釜石写光クラブ」にも入会。本格的にカメラを手にした。
初めに渡されたのはコンパクトデジタルカメラだったが、クラブ会員の多くはフィルム撮影で、賢一さんも「憧れが出てきた」。まねをしながら撮影していると、「飽き足りなくなった」。工作が好きだったこともあり、レンズの代わりに針で開けた小さな穴から光を取り込んで印画紙に焼き付けるピンホールカメラの自作・撮影を開始。フィルムもだが、「どんな画が写っているか、現像してみなければ分からない不便さ、面白さ」に夢中になった。
そんなアナログ・白黒の世界、ピンホールカメラの楽しさを体感できるワークショップが12日にあった。元教員・賢一さんの自由性を尊重する教えのもと、参加者は手作りカメラで遊び、特設された暗室での現像体験では画が浮かび上がってくる魔法の時間を堪能した。千葉市の本行多恵子さん(47)も「構図を決めるのが難しいけど、楽しかった。現像液につける時間のさじ加減にドキドキ、ワクワクした」と満足げだった。
ピンホールカメラを作って、撮って、楽しむワークショップの風景
ワークショップ中もカメラを手に参加者の活動を記録する賢一さん
ホール内の特設暗室。参加者が写した世界も展示に加えられた
最先端技術を持つデジタルカメラは撮るとすぐに画を確認できる「速さ」がメリット。アナログは「思うように撮れないところが魅力。失敗して、気づかなかったことに気づく。偶然性が楽しい」と賢一さん。それぞれの特徴、良さを使い分けており、ギャラリー展ではそうした手段を使った作品を並べる。
ところどころに付け加えられた説明文。そこには賢一さんの撮影スタイルが記されている。これがキャラリー展のタイトル「随撮」につながる。写真にはキャプションという短い説明文を添えることがあり、これを「随筆」として捉え、もじった。「筆をカメラに持ち替えてみた…みたいな」といたずらっぽく笑う。ただ、写真は「それだけで対話ができる」とも。言葉が分からずとも、画を見ただけで共感できたり、「一つの言語なのかも」とうなずく。
フィルム、デジタルを使い分け商用、趣味的な作品を紹介する
作品に添えられた説明文。賢一さんの写真の楽しみ方が見えてくる
グループ展などで作品を紹介することが多く、個展は“ほぼ”初めて。「せっかくの機会、少し違った雰囲気に」と作品の見せ方にひと工夫。写真は平面だが、厚さ2センチほどのパネルを貼りつけて立体感を演出したり、サイズをA3、B2、全紙、全倍、2Lとバラバラにして動きを出した。
ワークショップに参加した、賢一さんをよく知る同級生、工藤理宏さん(53)は「小さい頃から人と違う見方をする。堅そうだけど柔らかくもあり、ユーモアがあるけどふざけ過ぎていない、絶妙なバランスを持っている人。その視点、人柄が写真にも出ている」と明かした。
「撮っている時の楽しさが伝われば」と破顔する賢一さん
家業を引き継いだのは08年。そして今年、写光クラブの会長になった。宗親さんは写真や仕事に関して厳しかったというが、そんな父の姿に賢一さんは「憧れ」を抱く。何でも言い合える仲間の存在とその信頼関係もしかり。「当時は人も時代も活気にあふれていた。好きなことを楽しむ、熱量を共感する感じだった」と記憶をたどり、現在の仲間と「そんな力強さを感じる関係にたどりつく」のが目標だ。
ただ、撮影スタイルは「のんびりと」。外に出る時はいつもカメラを持ち、面白いものとの出合いを楽しむ。「何気ないもの、ふと目に留まったものにレンズを向け、シャッターを切る。その感覚に酔いしれたい」。共感する趣味仲間を求めている。
釜石新聞NewS
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