駆け抜けろ!ラストシーズン SL銀河、10年目の運行スタート 釜石駅でも歓迎
最終シーズンの運行が始まったSL銀河。釜石駅周辺でも多くの人が出迎えた=25日
東日本大震災後の沿岸被災地を活気づけようと、JR釜石線(花巻―釜石駅間、90.2キロ)を走る観光列車「SL銀河」のラストシーズンが始まった。25日の釜石駅ホーム。「おかえり。今年もありがとう」とたくさんの笑顔が出迎えた。見送りの26日はあいにくの雨模様にもかかわらず、駅ホームはもちろん沿線にも多くの鉄道ファンらの姿。2日とも全区間で176席がほぼ満席で、「全区間乗りたい」「残りわずかなシャッターチャンスを逃すまい」と、さまざまな熱気が運行を終える6月上旬まで続く。
SL銀河は、JR東日本盛岡支社が観光面からの復興支援、地域活性化を目的に、2014年4月12日に運行を開始。盛岡市の岩手県営運動公園内の交通公園に展示保存・復元した蒸気機関車「C58形239号機」と、花巻市の童話作家・宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を題材にした客車が人気を呼ぶ。春から初冬の土日を中心に約480本を運行し、約7万人が乗車。被災地の観光客増に一役買っていたが、客車の老朽化などから定期運行を終える。
客席はほぼ満席で、釜石駅ホームは家族連れらであふれた=25日
25日は花巻発釜石行きの運行。終点の釜石駅(釜石市鈴子町)では大漁旗が揺れる中、列車がホームに滑り込んだ。郷土芸能・虎舞の出迎えに感激したのは陸前高田市の岸浩子さん(66)。物語の世界観が広がるプラネタリウム、「ガタゴト」という揺れなど独特の鉄道旅に「テンション上がりまくり。病みつきになる」と目を輝かせた。初乗車の藤田幸子さん(56)も一緒に祭り気分を満喫。3回目で全区間通して乗車する機会を得た菅野光江さん(70)は「駅関係者の熱意を感じ、ジーンとくる。手を振ってくれる住民、カメラマンの姿を見るのも楽しい。夏の風景を見ることができないのが心残り」としみじみ語る。それでも3人は最終列車への乗車を計画中。「また会いましょう」と笑顔を残した。
毎週末、釜石に観光客を連れてきたSL銀河。沿線では歓迎、見送りといったおもてなしに励んできた。運行開始に合わせ、釜石観光物産協会はホタテ稚貝汁をお振る舞い。虎舞のお出迎え、住民による小旗振りは毎週末に継続し、5月の大型連休には駅前で春まつりを予定する。佐々木一伸事務局次長(52)は「ありがとう―を込めて最後まで応援したい」と思いを込める。
転車台での回転作業も多くの人が見つめた=25日
やっぱり煙だな、SLは―。そう話すのは、只越町の鈴木哲さん(74)。津波での被災、続く避難生活で「何かやることを」と考え手にしたのが、カメラだった。SLの運行が始まると、力強く走る姿に励まされた。頑張る姿に自身を重ね、運行日に合わせてシャッターを押した。「外に出るきっかけを作ってくれた。引退に寂しさを感じるが、最後まで目に焼き付けたい。そして、記録として残したい」。追っかけ生活を続ける。
駅長や機関士らと触れ合ったりSL旅を満喫する親子=25、26日
26日の釜石駅も花巻行きの列車を見送ろうと多くの人でにぎわった。盛岡市の川村瑠成(りゅうせい)さん(上田中2年)は48回目の乗車。前日もSLで釜石入りし、一度自宅に戻って再来した、つわものだ。「人との出会いが楽しい」と飽きはなく、今季も乗車回数を重ねるつもり。「なくなってほしくないけど…安全で楽しくラストを迎えてほしい」と見守る。
SLをバックに記念写真(写真左)。SL乗車48回目の川村さん(同右)=26日
雨模様にもかかわらず多くの人が見送り(写真左)、それに応える機関士(同右)=26日
10年目となる今季の運行は土日を中心に上下計24本を予定する。最終定期運行は6月3日(釜石行き)と4日(花巻行き)。10、11日の旅行商品専用の団体臨時列車が最後の運行となる。
同支社ではラストを盛り上げるためプロジェクトを立ち上げ、多彩なイベントを展開している。もてなしに協力してもらおうと、沿線5市町の新小学1年生にオリジナル手旗をプレゼント。釜石市内では約190人に配られる予定で、釜石駅の髙橋恒平駅長は「いつでもどこでもSLを見かけたら笑顔で小旗を振って、応援してもらえたらうれしい」と期待する。また、同駅では運行日に合わせ改札内通路に夜空をイメージしたイルミネーションを点灯している。
SL銀河オリジナル手旗(写真左)と釜石駅改札内通路のイルミネーション(同右)=26日
釜石新聞NewS
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