津波防災の意識向上へ 釜石市・中妻地区 浸水想定拡大踏まえ避難訓練


2022/10/08
釜石新聞NewS #防災・安全

八雲神社の階段を駆け上がる小学生

八雲神社の階段を駆け上がる小学生

 
 釜石市中妻地区で9月29日、巨大地震に伴う津波を想定した住民らによる避難訓練が行われた。中妻地区地域会議(佐藤力議長)が主催。構成する町内会や学校などから住民、児童生徒ら約830人が参加した。同地区は東日本大震災の津波では浸水しなかったが、国や岩手県が公表した最大クラスの津波想定では防潮堤が壊れた場合に浸水すると示されたため、昨年に続いて実施。今回は、高台など危険を回避できる避難先を複数設けて各自の判断で避難する形にし、住民一人一人の防災意識の向上を図った。 
 
 同地区は、2020年に内閣府が公表した日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震による津波想定で浸水域となった。今年3月に県が発表した新想定ではより浸水域が拡大。昨年は緊急避難場所の八雲神社への避難を呼びかけたが、今回は災害公営住宅(復興住宅)や商業施設の上層階、高台にある変電所そばの空き地など、地区ごとに浸水域をなるべく通らないような避難場所を設定して実施した。
 
中妻地区周辺の浸水区域図面(県公表の津波想定)

中妻地区周辺の浸水区域図面(県公表の津波想定)

 
 29日午後2時40分ごろ。中妻地区の防災行政無線が地震と大津波を知らせる警報を発した。日本海溝沿いを震源とするマグニチュード(M)9・1の地震が発生して釜石で震度6弱の揺れを観測、3分後に気象庁が大津波警報を発令したとの想定。住民らは防災無線の呼びかけに応じて地震から身を守る行動をとった後、自宅や職場、学校などから近い高台や危険を回避できる場所に向かった。
 
このうち、中妻町内の多くの人は高台の八雲神社境内を目指した。児童らは参道の階段を急ぎ足で上り、中学生はさらに高台の大天場公園に避難。高齢者やカートに乗った幼児などは経路を変え、緩やかな坂道を進んだ先にある運動公園に逃げた。中妻子供の家保育園の園児は「本当の津波が来たらどうしよう」とドキドキした様子。手押し車を使う女性(88)は初参加で、「津波は大丈夫だと思っていたので驚いた。平らなようで緩やかな坂道が続いて、避難が大変だった。参加しないと分からなかった」と受け止めた。
 
高台を目指し職場から駆け出す従業員(写真左)、階段を上る子どもたち(写真右)

高台を目指し職場から駆け出す従業員(写真左)、階段を上る子どもたち(写真右)

 
中学生はさらに高台を目指し避難を急いだ

中学生はさらに高台を目指し避難を急いだ

 
 同会議事務局の中妻地区生活応援センターによると、海側に近い千鳥町の住民ら20人余りは変電所そばに避難。県想定で浸水域に含まれた上中島町では同センターが入る復興住宅などに住民や下校途中の小学生ら約90人が垂直避難したほか、商業施設の2階にも25人ほどが駆け込んだ。
 
 佐藤議長(73)は「自発的な行動を目指し、実践してもらった。訓練を重ね、住民の防災意識は徐々に高まっている」と実感する。一方で、八雲神社は階段が多く、高齢者は上るのを諦めたり、避難経路の歩道に障害物があって車いす利用者らは移動しにくいといった課題がある。働く若い世代の参加が少ないのも気になり、「休日に訓練するなど工夫も必要。さまざまなケースを考えながら取り組みを続け、一人も津波で犠牲にならないようにしたい」と話した。
 
県公表の新想定で浸水域となった上中島地区の一部

県公表の新想定で浸水域となった上中島地区の一部

津波防災対策の特別強化地域に指定

 
 政府の中央防災会議は9月30日、日本・千島海溝沿いで巨大地震が発生した場合、津波の危険が特に大きいとして、釜石市を含む本県沿岸12市町村を防災対策の特別強化地域に指定した。指定自治体は避難タワーや避難路の整備、高台移転などを盛り込んだ「津波避難対策緊急事業計画」をまとめる。計画が認められると、避難施設などの整備費の国庫負担割合が2分の1から3分の2に引き上げられる。
 
 これを受け、市は自主防災組織や町内会などと協議しながら地域の避難計画の作成、見直しを進める方針。浸水区域の拡大に対応するハード整備、避難訓練などソフト事業を組み合わせた緊急事業計画の策定も進める。野田武則市長は「財政的には厳しい状況にあり、市町村負担のさらなる軽減を求める。国、県と連携しながら、誰一人として犠牲にならない津波防災対策を講じていく」とコメントしている。
 
 同日、市は県の新想定を受け変更したWeb版ハザードマップを公開した。緊急避難場所や避難所を見直し、変更・新設したものを反映。県指定の「土砂災害警戒区域」も更新した。

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