釜石の実践知を手がかりに、東大社研が報告会〜危機対応と希望との関係考える
釜石での調査研究について話すプロジェクトの参加者
国立大学法人東京大学社会科学研究所が行った「危機対応学」釜石調査の成果報告会は15日、釜石市大町の釜石PITと市民ホールTETTOで開かれた。同研究所のプロジェクトに参加した各大学の教授らがポスターセッションで成果を発表。県内外からの来場者約110人が耳を傾け、地域の未来を創造するためのヒントを学んだ。
東大社研が2016年度から取り組んできた危機対応学の成果は、全4冊の書籍として刊行。うち1冊が釜石市の研究で、「地域の危機・釜石の対応~多層化する構造」というタイトルで今春発売される。
同著の編集を担当した玄田有史、中村尚史両教授は報告会で、釜石調査の狙いや研究活動の経過、本の内容などを説明。震災前の「希望学」釜石調査も踏まえた地域再生の多面的考察、震災をめぐる危機対応の検証を柱にした研究について紹介した。
調査研究には東大社研のほか、首都圏や関西、岩手県の各大学から、法、政治、経済、歴史など社会科学諸分野の研究者総勢30人が参加。11の調査班が3回の大規模現地調査や、釜石から東京にゲストを招いての調査研究会(11回)などを実施。釜石ではシンポジウムや公開セミナー、トークイベントも開催した。
調査の過程で注目したのは「危機の多層化」。▽突発的な危機(自然災害、戦災など)▽段階的に進む危機(産業構造の変化など)▽慢性的な危機(人口減少、高齢化など)―という複数の危機が、折り重なるように出現してきた釜石の歴史に着目。「時間軸の異なる危機に同時に対応するのはとても難しい。さまざまな危機をトータルに考える必要がある」とし、多くの危機に直面してきた釜石ならでは危機対応の研究意義を強調した。
ポスターセッションでは8つの調査班が研究成果を公開。来場者との意見交換も行われた。総括討論では同著に論文を寄せた11人が登壇し、研究の視点や論文内容、今後必要な議論について語った。
ポスターセッションでは来場者が興味深い研究に聞き入った
地方政治班の佐々木雄一氏(明治学院大)は震災前後の市の予算規模の変化に注目。平時に戻る中での予算縮小による影響などを考察し、「人口減少を考慮しつつも地域が縮小しないように行政はどうすべきか、研究者の立場から議論の必要性を書いた」と説明。
地域防災班の佐藤慶一氏(専修大)は消防関係者らに話を聞き、「印象に残ったのは気持ちの問題。災害発生時に後悔しないよう、今できることをする。備えへの心構えが大事」と実感。
地域漁業班の高橋五月氏(法政大)は「魚のまち釜石」を切り口に、自ら漁業体験しながら地元漁業者の思いを聞き取り。「(水産業の危機に向き合い)海と一緒に生きていく人々が今後、どのような魚のまちを作っていくのか、さらに研究を深めたい」と話した。
玄田、中村両教授は同著のあとがきで「津波、艦砲射撃、鉄鋼不況―など多様な危機に直面してきた釜石には、危機への向き合い方とでもいうべきものが脈々と受け継がれている。危機が多層ならば、対応を総合化させていく。それが同時進行の危機への、いかにも釜石らしいダイナミックな実践知としての対応なのだ。釜石の実例から、危機対応のヒントを見出していただければ」と結んでいる。
(復興釜石新聞 2020年2月19日発行 第868号より)
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