青空に「釜石の夢」かなう、ラグビーワールドカップ第1戦〜世界レベルの白熱戦 ウルグアイ、フィジー破る
激闘を繰り広げるフィジーとウルグアイ=25日、釜石鵜住居復興スタジアム
「釜石の夢」が実現した――。ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の釜石第1戦は25日、釜石鵜住居復興スタジアムで行われ、フィジーとウルグアイが世界レベルの熱戦を展開した。逆転、また逆転の白熱した激闘を繰り広げ、最後はウルグアイが格上のフィジーを破る番狂わせを演じた。新設のスタジアムを埋めた1万4025人の観客は、歴史に残る一戦のドラマチックなストーリーに興奮。さわやかな青空に、大きな歓声が響き渡った。
世界ランキング19位のウルグアイが30―27(前半24―12)の僅差で同10位のフィジーを撃破する波乱の展開。優位とみられていたフィジーは「フィジアンマジック」と称される奔放なパスプレーが思うようにつながらず苦杯をのんだ。
8トライを取り合う白熱の接戦が繰り広げられた。前半7分にフィジーが先制したが、ウルグアイがすかさず逆転。さらに2トライを加え、12点差で折り返す。後半はフィジーが3トライを挙げて猛追したが、ウルグアイが2PGを決め、辛うじて逃げ切った。
後半はフィジーが3トライを挙げ、猛烈に追撃
スタジアムが建設されたのは、東日本大震災の津波で全壊した釜石東中、鵜住居小があった場所。震災で世界中から寄せられた物心両面の支援へ感謝の思いを発信する舞台として校舎の跡地が選ばれた。
スタジアムが新設されたのは、試合が行われる国内12会場でただ一つ。「ラグビーW杯を釜石で」。かつて日本一7連覇の偉業を達成した新日鉄釜石ラグビー部のOBら多くの関係者が思い描く夢が重なり、震災から復興へと向かうシンボリックな場所で花を開かせた。
子どもたちの声援を背に繰り広げられた世界レベルの熱戦
試合開始前のセレモニーでは、市内の小中学生の代表が白地に「Thank you for your support ……」と記した感謝の旗を携えて入場。招待された小中学生約2200人がスタンドで立ち上がり、この日のために練習した「ありがとうの手紙」の合唱をスタジアムに響かせた。
上空に航空自衛隊の曲技飛行チーム「ブルーインパルス」の6機が飛来し、W杯釜石初戦に花を添えた。
復興スタジアムの上空を飛行する航空自衛隊の「ブルーインパルス」
激闘に「勇気もらった」、スタジアムに弾む「ありがとう」の歌声
スタンドは約1万4千人の観客で埋まる
福島県相馬市の荒耕陽さん(72)は「同じ被災地でW杯をやると聞き、釜石を応援したくて来た。試合は接戦で最高に面白かった」と大満足。妻美知子さん(70)は「世界中からこれだけの人が集まってくれて感謝。みんなで両チームを応援するラグビーならではの精神が素晴らしい」と興奮冷めやらぬ様子で会場を後にした。
花巻市の中村憲さん(52)は10年ほど前、仕事の関係で家族と共に5年間フィジーに暮らした。一家5人で観戦。「フィジーが負けて残念だけど、見応えのある試合で楽しめた」と子どもらと感動を共有。長男耕太朗君(12)は両チームの激しい攻防に「ドキドキした。倒されてもすぐ起き上がり、次のプレーに入るのがすごい」と勇気をもらった様子。長女綾乃さん(14)は「選手は迫力があったし、応援の人に(フィジーにいたころの)知人に似た人がいて、当時のことが思い出された」と懐かしんだ。
「ありがとう」の歌声を響かせた小中学生
全校児童で大声援を送った地元鵜住居小の柏﨑優さん(6年)は「復興スタジアムで世界大会が見られてうれしい。タグラグビーにも生かしたい」と貴重な経験を心に刻んだ。現在、自宅再建を待ちながら仮設住宅で暮らす。W杯を機に「鵜住居がもっと復興して、いい町になってほしい」と願いを込めた。
鵜住居地区復興まちづくり協議会の佐々木憲一郎会長は、インフラ整備など地域の早期復興への効果を見通し、W杯開催を後押ししてきた一人。試合前、市内の小・中学生が高らかに歌声を響かせる姿に「胸がいっぱいになった」。
感謝の旗を携え入場する小中学生の代表
会場入りの前には、震災犠牲者の芳名が刻まれる「祈りのパーク」で手を合わせた。「亡くなった人たちも『これで良かった』と一緒に楽しんでくれていた気がする。最高の天気は天国からのプレゼント」と青空を仰ぐ佐々木会長。「鵜住居の真の復興はこれからが勝負。広域連携によるスタジアム活用など、次の10年、20年後を見据えた取り組みが不可欠」と声に力がこもった。
(復興釜石新聞 2019年9月28日発行 第828号より)
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