作家 柚月裕子さん(釜石出身)講演、三陸道・釜石道開通記念〜新しい道路が古里後押し


2019/04/24
復興釜石新聞アーカイブ #地域

サイン会で来場者と交流する柚月裕子さん

サイン会で来場者と交流する柚月裕子さん

 

 三陸沿岸道路と東北横断自動車道釜石秋田線の釜石市内区間同時開通を記念した講演会(同事業実行委主催)が13日、大町の市民ホールTETTOで開かれた。釜石出身で釜石応援ふるさと大使を務める小説家・推理作家の柚月裕子さん(山形県在住)を招き、対談やパネルディスカッションを開催。来場した市民ら約350人が待望の高速交通網完成を祝い、道路を生かした地域振興へ決意を新たにした。

 

 対談形式で行われた1部は、柚月さんから作家人生の原点、執筆の信条、古里釜石への思いなどが語られた。読書好きの両親の元に育った柚月さん。小説にのめり込んだきっかけは“シャーロック・ホームズ”本との出会いで、自身の作品にも影響を与えているという。物語を書く上で気を付けるのは、登場人物の筋を通すこと。「自分と違う価値観でも、確固たる理由が分かれば、その相手を理解することにつながる」と、小説が豊かな人間関係や人生の一助にもなることを示した。また、「小説には意図しなくても作者の本心が出る。言い換えれば、自分の内面をさらけ出さないと小説は書けない」とも。

 

 デビュー10年となる柚月さんは、各賞を受賞した「検事の本懐」「孤狼の血」「盤上の向日葵」で注目を集め、映画やテレビドラマ化された作品も。来場者は柚月さんの素顔や釜石愛を直に感じながら、話に聞き入った。

 

 2部は柚月さんと市民3人を迎え、「命の道からかまいしの未来へ」と題しパネルディスカッション。東日本大震災復興のリーディングプロジェクトとして進められてきた両道路について、それぞれの立場から思いを述べ合った。

 

3月9日に開通した2道路について語るパネリスト

3月9日に開通した2道路について語るパネリストら

 

 青紀土木の青木健一社長は、がれき撤去や根浜への道路新設に携わった経験から、命をつなぐ道の重要性を実感。高速道路を動脈、地域内の道路を毛細血管に例え、「今後さらに血流も強くなる。物流や人的交流が促進する中で地域の魅力をどう高めていけるかが課題」と提言した。

 

 震災当日、来客を案内中に大地震に見舞われ、1週間前に開通したばかりの同沿岸道路(片岸―水海間)の通行で津波の難を逃れた福成菜穂子さんは「瞬時の判断が生死を分けた。私にとってはまさに命の道路。新町のインター建設で住み慣れた土地を離れたこともあり、今回の開通には特別な思いがある」と心境を明かした。

 

 鵜住居駅前の2施設、魚河岸テラスの管理運営を担うかまいしDMCの河東英宜事業部長は観光面の視点から「高速道で利便性が高まれば、日帰り客が増える可能性もある。宿泊してもらえるような仕掛けづくりが必要」と消費拡大に向けた関係者の連携強化を望んだ。

 

 柚月さんは、病を患った生母の最期をみとることができなかった。「当時、母が住む宮古市までは山形から(車で)7時間ぐらいかかった。新たな道路は、道に対するもどかしさを覚えていた方々にとって力強く、温かい道になると思う」と実感を込めた。

 

 アドバイザーとして登壇した国交省東北地方整備局南三陸国道事務所の折笠徹所長は、用地提供者、工事関係者、県・市の多大な協力に感謝。「道路は地域を良くするための道具。地元住民が誇りを持てるまちになるよう、道路を使ってほしい。隠れた情報をどんどん発信し、継続して人を呼び込めるようになれば」と期待した。

 

 講演会終了後は柚月さんの書籍販売やサイン会もあり、長蛇の列ができた。柚月さんは復興に役立ててほしいと、釜石市に寄付も行った。

 

(復興釜石新聞 2019年4月17日発行 第783号より)

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