楕円球タイムトラベル「PNC直前企画・フィジーマジックは再び起きるか」 BACK TO 2007」

地域情報2019/07/23

楕円球タイムトラベル「PNC直前企画・フィジーマジックは再び起きるか」 BACK TO 2007」

 

いよいよ、今週末27日(土)、「リポビタンDチャレンジカップ パシフィックネーションズ2019日本ラウンド 日本代表 v フィジー代表」が釜石復興鵜住居スタジアムで開催されます。また、9月25日(水)には、「ラグビーワールドカップ2019™日本大会 フィジー v ウルグアイ」が、同スタジアムで開催されます。

 

「釜石にやってくるフィジーとはどんなチームなのか。釜石のみなさんにその横顔を知っていただきたい。」今回、スポーツライター大友信彦さんのご好意により、2007年にスポーツ雑誌ナンバーPLUSに掲載され、今月よりラグビー専門WEBマガジン「RUGBYJapan365」で有料会員向けに公開されている記事を、縁とらんすでも掲載させて頂けることになりました。

 

提供:大友信彦&RUGBYJapan365

 

 

日本代表のワールドカップイヤーの戦いがいよいよ迫ってきた。

 

ワールドカップシーズンの初戦は、開幕まで2ヵ月を切った7月27日、釜石鵜住居復興スタジアムで行われるフィジー戦だ。
フィジーと言えば、セブンズ王国であり、展開ラグビーの王国であり「世界で最も見る者を楽しませるラグビー」という称号も得てきた。

 

ワールドカップイヤーのジャパンの腕試しの相手として、釜石で行われる初めてのテストマッチにやってくるチーム、フィジーだが、15人制のフィジー代表が来日するのは2012年以来7年ぶりだ。

 

フィジーとはどんな国で、どんな歴史のあるチームなのか。

 

ワールドカップ本番でも注目チームになるに違いない魔術師軍団。日本代表と死闘を繰り広げることになる2007年ワールドカップの前に書かれた紹介記事をアーカイブスとしてお届けする。

 

楕円球タイムトラベル「PNC直前企画・フィジーマジックは再び起きるか」 BACK TO 2007」

 

 22歳のジョン・カーワンが衝撃の90m独走トライで世界に衝撃を与えた1987年の第1回ラグビーW杯。個人としてのMIP(モスト・インプレッシブ・プレイヤー)がオールブラックスの身長192㎝の巨漢WTBジョン・カーワンなら、チームとして世界を最も驚かせたMIT(モスト・インプレッシブ・チーム)は、南太平洋の島国からやってきた一団だった。

 

 IRB(現ワールドラグビー)のオリジナルメンバー以外から唯一ベスト8に進出したフィジーは、この年の5カ国対抗に全勝優勝(グランドスラム)を飾ったフランスと準々決勝で対戦。日本でも深夜の録画ながらNHK総合でオンエアされたこの戦いで、ほとんどのラグビーファンは初めて「フィジアン・マジック」を目撃する。

 

 ボールが出れば迷わず展開。強靱なバネと長い腕を持つ15人は、黒い肌を純白のジャージーに包み、セルジュ・ブランコ、フィリップ・セラ……世界ラグビーに名を轟かせたフランスの英雄たちが霞んでしまうような大活劇を演じた。とても取れそうにないパスも、掌に吸盤がついていそうな腕がグイーンと伸びて難なく捕球。魔法のパスが縦横無尽に飛び交い、次から次へとサポートプレイヤーが湧き出て芝の上を走り回る。ラグビーとはこんなにワクワクするものなのか。それまで見て楽しいラグビーの代名詞といえばフランスの「シャンパン・ラグビー」だったファンの辞書は、この日の華麗で愉快で冒険心に溢れた80分間の目撃により「フィジアン・マジック」と書き換えられ、SHパウロ・ナワル、SOセベロ・コロンデュアデュア、LOイライティア・サバイなどの名が、ワールドラグビーのスター名鑑に新たに加えられた。

 

 世界のどこにもない、フィジーだけのスリリングな展開ラグビー。それはいかにして生まれたのか。

 

楕円球タイムトラベル「PNC直前企画・フィジーマジックは再び起きるか」 BACK TO 2007」

 

「フィジーでは午後4時頃になると、毎日、どこでも、タッチラグビーが始まる。公園でも、家の前の道路でも、砂浜でも。ボールがなければ空のボトルでも、ココナツの実でも何でもいいんです」

 

 そう話してくれたのはアルフレッド・ウルイナヤウだ。1996年からサントリーでCTBとして活躍し、フィジー代表としては1999、2003年のW杯に出場。2006年までNZのオークランドでデベロップメント・マネージャーを務め、2007年からサントリーのBKコーチとして再来日したアルフは、フィジーの首都スヴァで生まれ、8歳のときにNZへ移住した。本格的に競技を始めたのはNZ移住後だが、幼少期には「いつでも・どこでも」タッチ大会を始めてしまうフィジアン・マジックの土壌で育った。

 

 南太平洋のラグビー強国といえば、フィジーのほかにサモア、トンガがある。サモアは激しいコンタクトプレーを看板に91、95年のW杯でベスト8に進出。87年W杯で世界の頂点に立ち後にサモア代表監督を務めたマイケル・ジョーンズ、05年までオールブラックスの主将を務めたタナ・ウマンガなどサモア系のNZ代表選手も多い。

 

 『ガリバー旅行記』に登場する巨人国のモデルとなったともいわれるトンガはW杯の決勝ラウンド進出こそないが、NZのジョナ・ロムー、豪州のトータイ・ケフら移住先で世界のトップに立った選手を数多く生んでいる。

 
 3つの国は、日付変更線を挟んで三つ子のように寄り添う。だが国民性は微妙に違う。アルフによれば「フィジアンはいつもリラックスしてハッピー。トンガはやっぱり王国だからなのかマジメな人が多くて、サモアはその中間という感じです」となる。3カ国はいずれも経済的には恵まれず、インフラの整備されたNZや豪州への移住者が後を絶たないが、「NZでも、友達のトンガ人には医者や弁護士になっている人が多い。フィジアンでは、まずないね」とアルフは笑う。

 

 地理学ではトンガ、サモアは、西はニュージーランドから北はハワイ、東はイースター島に至るまで太平洋の大半を占めるポリネシアに属する。人種的には日本人と同じモンゴロイドであり、NZの先住民でオールブラックスにも多くを送り込むマオリ人も遺伝的にはこのグループだ。対してフィジーは、パプアニューギニアやバヌアツなどと同じメラネシアに分類される。メラネシアとはギリシャ語で「黒い島」の意味。この島々の住民たちの黒褐色の肌からこう呼ばれるようになったという。

 

楕円球タイムトラベル「PNC直前企画・フィジーマジックは再び起きるか」 BACK TO 2007」

 

 ポリネシア系の有名人といえば、ハワイ人の曙、サモア系のKONISHIKI、プロ野球では米領サモア出身のトニー・ソレイタ(元日本ハム)などが思い浮かぶ。ラグビーではシナリ・ラトゥ、ルアタンギ・侍バツベイなど日本代表入りしたトンガ出身選手たちも、縦にも横にも雄大な体格の持ち主が多い(アルフ曰く「トンガ人はいつも際限なくモノを食べるんだよ」)。

 

それに比べると、フィジアンは意外と細身の人も多い。7人制ラグビーW杯でフィジーを2度の頂点に導いた英雄・ワイサレ・セレビ(身長169センチ)のような小柄な名選手もいる。

 

 だがフィジーの町を歩けば、道行く人の胸板、掌や足の甲の分厚さに驚かされる。それは若い男性に限らず、買い物袋を提げたおばちゃんもそうなのである。面白いのは、そういうおばちゃんたちの多くが普段着としてラグビージャージーを着ていることだ。記者がこれまで訪ねた国の中でも、ラグビーウエアの町中での着用率ではフィジーが世界一だった。

 

 そして、記者の個人的な経験で言うと、フィジーほどフレンドリーな国はない。人が優しい国、暖かい国はたくさんあるが、人々自身が底抜けに明るく、ハッピーな気分を分け与えてくれる点で、フィジーは際だっている。笑顔しか見せないと言っても過言じゃない。

 

 記者はこれをメラネシア人の特質なのかと思っていたのだが、あるとき訪れたニューカレドニア(フランス領)では、見た目はフィジアンそっくりながら「おはよう」とかけた声を無視する人に遭遇した(もしかしたら、フランス語の挨拶は無視する主義の人だったのかも知れない。フィジーへの訪問者はすぐに現地語の挨拶『ブラ!』を覚えるから、単純な比較はフェアでない気もする)。そのかわりと言ってはナンだが、ニューカレドニアは今まで行ったどの国よりもフランス人が陽気に暮らしているところだった……。

 

楕円球タイムトラベル「PNC直前企画・フィジーマジックは再び起きるか」 BACK TO 2007」

 

 ともあれ、かくも陽気なフィジアンの国民性は、フィジー代表が見せる魅力的なラグビーと、間違いなく繋がっている。

 

「フィジアンは、リラックスして毎日を送っています。お互いがどうハッピーなのかを感じ合いながら過ごしている。ラグビーでも、まずボールを持った人が、何か自分で思いついたことを始める。そこに周りが反応していく。そこにボールがあれば、何かが起こると皆が分かっている。皆が期待している。だから反応できるんです」(アルフ)

 

 背番号とポジショニングに制約はなく、体格や体型によるポジションの決めつけもない。試合が始まれば、大柄なFWがバックスラインに走り込み、片手で頭越しのロングパスを繰り出す。まったくノーサイン、アイコンタクトもない場面で苦し紛れに蹴ったキックにもどこからか味方が反応して走り込み、スリリングなトライが生まれる。フィールドでは選手たちの自由なイマジネーションが化学反応を起こし、相手の予想もラグビー理論も関係なく、誰もが初めて目にする極上のパフォーマンスが生まれるのだ。

 

 ……と、良い面ばかりを書き並べると、世界の頂点を掴んでもおかしくないように思えるフィジーだが、実は重大な問題がある。スクラムやモールなど集団によるFW戦にはからきし弱いのだ。先の87年準々決勝でも、フランスFWが塊となって攻めると無抵抗状態でゴールラインを明け渡した。その後は世界ラグビーのプロ化、パワー重視の潮流が強まり、91年W杯ではプール戦全敗、95年W杯には出場さえ逃してしまった。

 

 フィジーのラグビーは、ここから方針を転換する。NZからコーチを招き、タイトなFWプレー、あらかじめ計画されたゲームプランの遂行などNZ流のラグビー理論注入を試みた。並行して、NZなど海外でプレーするフィジアンの代表召集を積極的に始めた。

 

楕円球タイムトラベル「PNC直前企画・フィジーマジックは再び起きるか」 BACK TO 2007」

 

 その転換期のさなか、94年にフィジーは来日。日本代表と2テストを戦い、2敗という結果で帰国した。そのツアーの際、記者は象徴的な場面を目撃した。NZ人コーチの課すモールやハイパントの練習を嫌そうに、ダルそうにこなしていたフィジアンたちは、練習が終わり、クールダウンを命じられるや突如、ボールを持ち全員で走り始めたのだ。日本の呼び方なら『ランパス』。シゴキの代名詞となっている練習メニューだが、フィジアンたちは2時間の練習後というのに全力疾走を繰り返し、誇張ではなく本当に「ヒャッホウ!」という声まで飛び交っていた。それは、エリス少年がボールを抱えて走り出したラグビー誕生の伝説を連想させるほど楽しげな光景だった……。

 

 しかし、伝統的なフィジアン・マジックは年を追うごとに影をひそめている。それは世界ラグビーのプロ化とも密接に関係している。

 

 後に長く日本で活躍し、セブンズ日本代表監督も務めたパウロ・ナワルが教員だったように、87年W杯で世界に衝撃を与えたフィジー代表は全員がフィジー国内でプレーするアマチュア選手だった。しかしW杯によってフィジー選手のポテンシャルが世界的に認知されると同時に世界ラグビーにプロ化の波が押し寄せ、フィジーの有能な選手はNZや豪州、英国やフランス、そして日本のクラブへと流出を続けた。99年W杯では代表30人のうち国内クラブ所属の選手は13人と減り、03年は僅か7人に。多くの国に散らばる代表選手が一緒に練習できる機会は減り、かつて華麗なマジックを育んだ濃密なコミュニケーションは影を潜めていった(世界サーキットで長く活動をともにする7人制では英雄セレヴィの後継者にウィリアム・ライダーが育つなど人材のリサイクルが上手くいき、2016年のリオデジャネイロオリンピックでは五輪初採用の7人制ラグビーでみごと金メダルを獲得した。それを祝って7フィジードルの記念紙幣も刷られた)。

 

楕円球タイムトラベル「PNC直前企画・フィジーマジックは再び起きるか」 BACK TO 2007」

 

 一方で、マジックを担うはずの人材が他国で代表になる現象も後を絶たない。2003年、2007年W杯でNZ代表のエースWTBとして活躍したジョー・ロコゾコは5歳のとき両親と共にNZへ移住した生粋のフィジアンだ。ロコゾコの従弟でもあるシティヴェニ・シヴィバトゥは、高校時代に奨学金を得てNZへ留学し、後にオールブラックスに選ばれた。このようにフィジーの有望な若手を『青田買い』し、自国の代表候補として育成する動きは近年盛んになった。2003年W杯で活躍し「世界最高のWTBの一人」と評されるルペニ・ザウザウニンブサを生んだブザレヴ島(人口百数十人という小島)のような地方の村々をスカウト陣が訪ね回っているという。

 

「小さな島や村では遊ぶ道具もないから、ココナツを投げたり砂浜を走ったり、海で泳いだりして身体がナチュラルに強くなるんだな」(アルフ)。
 人材流出の面だけを見れば深刻な事態に思えるが、結果的にNZ代表入りを逃した選手が、FWの密集プレーなどフィジーでは学べない理論と経験を持ち帰り、フィジー代表の強化に技術を環流している一面もある。

 

楕円球タイムトラベル「PNC直前企画・フィジーマジックは再び起きるか」 BACK TO 2007」

 

 今のフィジー代表のイリ・タンブア監督は95年W杯に豪州代表で、99年W杯にフィジー代表で出場した経歴の持ち主だ。

 

「彼は昔のフィジアン・スタイルを復活させたいようです。ゲームを構築(ストラクチュア)することと、個人の閃き(フレア)のバランスを取ることはフィジーにとって永遠の課題ですが、今回の代表には経験豊富なSOのニッキー・リトル(31歳、英国サラセンズ)を2年ぶりで呼び戻した。彼はゲームを作りながら他の選手のフレアを引き出す能力があるので心強いです」(アルフ)

 

 フィジーにとって日本戦はこのW杯の初戦になる。どうか、魔術を炸裂させるのは、チームが熟成する2戦目以降にしてくれないか……。切にお願いする次第である。

 

(初出『ナンバーPLUS』2007年9月)

 

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