震災伝承は私たちの手で〜第1期応募者が研修、風化防止の最前線に
「伝承者」として身につけておきたい震災の知識を学ぶ研修参加者
東日本大震災の出来事や教訓を次代に語り継ぐため釜石市が募集した「大震災かまいしの伝承者」の基礎研修が6月29日、市役所第4庁舎で行われた。伝承者の自己啓発、共通認識、伝承手法の習得を目的とし、応募者51人中27人が参加。講義とグループワークで基礎知識を得た参加者に野田武則市長から「伝承者証」が交付された。今後、家族ら身近な人や市外から訪れる人たちへの震災伝承を進め、記憶の風化を防ぐ。
同伝承者は5月15日から1カ月間募集。市内外の高校生から80代まで、伝承活動に意欲を持つ人たちが申し込んだ。6月、8月と2回に分けた基礎研修は両回とも、岩手大の教授らによる講義と参加者のグループワークで構成。講義では「釜石市防災市民憲章」に込められた教訓、三陸沿岸における地震発生のメカニズムと津波被害の特質を学ぶ。
同市の防災・危機管理アドバイザーを務める齋藤徳美名誉教授は「三陸を繰り返し襲ってきた津波は今後も確実に起こる。適切な場所に適切に避難する災害文化の醸成が不可欠」との認識から3月に制定に至った同憲章を説明。多くの犠牲者を出した鵜住居地区防災センターの反省も示し、憲章に掲げた理念「備える、逃げる、戻らない、語り継ぐ」の意味を伝えた。津波避難の鉄則「各自で迅速に、より高台へ―」を確認。伝承者の役割について齋藤教授は「次の時代(の命)を守るのは、われわれの責任。ぜひご尽力を」と参加者の活躍を期待した。
「伝承者証」を手に今後の活動に意欲
6班に分かれたグループワークでは、参加者同士が震災体験などを語り合い、伝承者として将来に伝えるべき教訓は何か、どのような取り組みをすべきか考えた。
釜石高3年の佐々木千芽(ゆきめ)さんは震災時、鵜住居小の3年生。釜石東中の生徒らと学校から高台に避難し、避難所生活を送った経験から、「自分で判断してより高台に逃げる。避難所では思いやりの気持ちでお互い接する」ことを教訓として挙げた。防災教育の観点から「震災後に生まれた子どもたちが実際に経験した人から話を聞く機会を設けたほうがいい」との意見も。
各班からのまとめ発表では、▽居住状況や避難場所など普段から地域を知っておく▽地震が来たらすぐ逃げられるよう高台確認など危機管理意識を持つ▽伝承者が伝えるべきは教訓。「九死に一生」は失敗談として語り、早期避難を訴える―といった声が聞かれた。
研修には釜石観光ガイド会所属の14人も参加。甲子町の駒込日呂子さん(73)は「こういう研修は正しい知識を得るのに必要。会には震災の話を聞きたくて申し込む人も多い。今後の活動にプラスになる」とし、特にも子どもたちへの伝承活動に意欲を見せた。嬉石町の横山幸雄さん(82)は震災の津波にのまれ、死と隣り合わせの経験をした。「助かったから良かったではなく、この経験をいかに次の世代につないでいけるかが重要。被害を最小限に抑えるため、教訓を確実に伝えていきたい」と意気込んだ。
市は今後、基礎研修修了者を対象にステップアップ研修も予定。伝承者としての資質向上を支援するとともに、既存の伝承活動団体を紹介するなど活動の場を広げてもらうことにしている。
(復興釜石新聞 2019年7月3日発行 第804号より)
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