震災乗り越え 不屈の書作展〜津波で師を失うも奮起、沙舟書院釜石教室


2018/11/21
復興釜石新聞アーカイブ #文化・教育

震災後の活動を来場者に伝える伊藤さんと会員ら

震災後の活動を来場者に伝える伊藤さんと会員ら

 

 釜石市小川町の小川ふれあいセンターで活動する沙舟書院釜石教室(伊藤沙舟主宰)の書作展が11、12の両日、大町の市民ホールTETTOで開かれた。東日本大震災で師を失いながらも、新たな指導者のもとで書に打ち込んできた会員らが、7年の歩みの成果を披露。被災を乗り越え、全国展で評価を得るまでになった書人魂で、釜石人の“不撓(ふとう)不屈”の精神を体現した。

 

 同教室の会員は震災前、三陸書人社役員で、鵜住居、小川に2教室を開設していた故・木下溪泉(本名・長壽)さん(創玄書道会学生部審査会員、岩手日報書展理事)に師事。木下さんが津波の犠牲になり、鵜住居教室の会員もほとんどが自宅を失ったが、書へのゆるぎない情熱が被災から立ち上がる原動力となった。

 

 会員らは、木下さんと同門で、陸前高田市で教室を開く伊藤沙舟さん(沙舟書院理事長)に指導を懇願。月1回、釜石に来てもらえることになり、震災から半年後の2011年9月、2教室を集約し、同センターでの稽古を再開した。現在、会員は震災後に入会した2人を合わせ14人。50代から80代までが「近代詩文書」に親しむ。同書は現代詩などを漢字と仮名で表現するスタイルで、美しい日本語を書くことを目的に、昭和に入って生まれたものだという。

 

 展示会には、会員と伊藤さんが33点を出品。北原白秋、島崎藤村、宮澤賢治など著名詩人らの作品が味わいのある書体でよみがえり、来場者の目を楽しませた。

 

 書道歴約20年の前川美流(本名・美智子)さん(80)は津波で、鵜住居町新川原の自宅兼店舗を失った。被災後は夫婦で中妻町のアパートに暮らし、「(書道を)もうやめようかとも思った」が、仲間に誘われ奮起。その後、夫が病弱になり、3年ほど休んだ。苦楽を共にした夫は、地元に戻る願いかなわず一昨年逝去。鵜住居の復興住宅に入居した前川さんは今年4月、教室に復帰した。

 

 「夢中になって書いていると余計なことを考えなくて済む。生活の張り合い、気晴らしにも。できる限り長く続け、元気でいたい」と前川さん。小川での月2回の教室に加え、鵜住居の会員らと地元集会所で週2回の自主活動にも励む。

 

 故・木下さんの下で腕を磨いた会員らは、伊藤さんの指導で、さらに実力を開花。岩手日報展のほか、毎日書道展、国内最大組織「創玄書道会」の書展で入選、入賞するまでに成長した。

 

 自身も震災で夫を亡くした伊藤さんは「被災直後は、私も続けられるかどうか悩んだ。みんな同じような気持ちで前に進んできたのでは。よくここまでやってきた」と万感の7年を代弁。各種書展での会員の躍進に「個々の中で、自分に対する可能性が芽生えてきた。若い会員も先輩たちの背中を見て育っている。これからも地道に精進を重ねていければ」と願った。

 

 会場には2日間で、約300人が訪れ、会員らに称賛の声を寄せた。

 

(復興釜石新聞 2018年11月17日発行 第741号より)

 

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