鵜住神社の「夫婦くろべ」復興見つめた神木伐採〜樹齢300年余 地域住民に惜しまれ、枯れて倒れる恐れ
鵜住居地域の原風景だった「夫婦クロベ」
釜石市鵜住居町、鵜住神社(花輪宗嗣宮司)の境内にある、樹齢300年以上と推定される市指定文化財(天然記念物)「夫婦(めおと)クロベ」は、枯れて倒れる恐れがあることから、9日までに伐採された。鵜住居の原風景の一つだった巨木は、地域住民に惜しまれながら御神木の役目を終えた。
クロベはヒノキ科クロベ属。本州から四国に分布する常緑高木で寒さによく耐えるとされるが、標高の高い場所では樹高が低くなる。別名のネズコ(鼠子)は、加工した後の材木呼称とされる。
寄り添うように立ち、震災後は地域の復興を高台から見守ってきた「夫婦クロベ」。市教育委員会の調べでは、本殿に向かって右側の樹高は28メートル、幹回り472センチ、根元回り550センチ。二股になった左側は樹高30メートル、幹回り407センチ、根元回り460センチ。
伝承によると、江戸時代中期の元禄3(1690)年、鵜住神社の勧請の際に植え、樹齢は300年余と伝えられる。本殿を守るように立つ2本の巨木はいつしか、「御神木」としてあがめられるようになった。
しかし、東日本大震災以降、樹勢の衰えが加速。強風で太い枝が落下するなど倒木の心配もあり、参拝する人たちの安全を考える必要があった。昨年暮れの神社総代会(二本松富太郎総代長)で協議、早期の伐採を決めた。
慎重に進められた伐採作業
伐採作業は釜石地方森林組合が請け負った。年明け4日、感謝と哀惜の思いを込め、神事で作業の安全を祈願。高所作業車で木の状況を確かめた上、一部の枝を切り取った。6日午前、「男木」を伐採。作業は順調に進んだ。頂上の部分から数回に分けて切り取り、大きなクレーンにつるして下ろした。昼過ぎには根元から約3メートルの切り株を残し、伐採は終了した。
住民、氏子総代らが作業の様子を見守った。総代長の二本松さん(80)は「300年を超える木は、東日本大震災で住民が避難する際の目印にもなった。切るのはしのびがたく、残念だが、人にけがをさせては大変だ」と惜しんだ。総代の大里利男さん(78)は「こんな(大きな)木があってこその神社。枯れにくい木だが、いつかは来ること。しょうがない」と声を落とした。
伐採作業を最後まで見守った氏子らは御神木への感謝を語った
花輪宮司(33)は「伐採は決まっていたことだが、作業を見ていると涙が出そうになった。300年も住民を見守ってきた。ありがとう、ご苦労さんでした―というしかない」。2本とも切り株を残して年輪を調査、その威容を後世に語り継ぐ。
夫婦クロベには、幹にキツツキが開けた穴が連なり、その中にムササビがすみついているのも目撃されていた。伐採作業中、中段の空洞(うろ)に3匹のムササビを確認。2匹は隣のスギの大木に移り、残る1匹は裏山に姿を消した。
巨木の「うろ」に住むムササビたちは慌ただしく新居に移った
「夫婦クロベ」は1978年11月28日、市文化財(天然記念物)に指定された。昨年12月に指定を解除され、市内に残る同記念物は7件となった。
(復興釜石新聞 2017年1月14日発行 第554号より)
復興釜石新聞(合同会社 釜石新聞社)
復興釜石新聞と連携し、各号紙面より数日の期間を設け記者のピックアップ記事を2〜3点掲載しています。問い合わせ:0193-55-4713 〒026-0044 岩手県釜石市住吉町3-3