震災の教訓 後世につなぐ、グリーンベルトに桜植樹〜避難路 防災と緑地機能を併せ持つ、グリーンベルトに桜植樹
市内外から集まった植樹会の参加者。「未来の釜石を桜の里に」と協力し合って作業に励んだ
東日本大震災の津波で被災した釜石港周辺に築造される盛り土避難路「グリーンベルト」のうち、造成が完了した港町エリアに22日、桜の木が植えられた。釜石市と「釜石に桜を植える会」(中川淳会長、17人)が植樹会を開き、市内外から約100人が参加。震災犠牲者の鎮魂とまちの復興を願い全国から寄付された、さまざまな種類の桜の木74本を芝生の斜面などに植えた。防災と緑地機能を併せ持つ避難路が、震災の教訓を後世につなぐ。
野田武則市長は「この場所を津波避難や日常的な散策に活用し、津波の恐ろしさも忘れない場にしてほしい」とあいさつ。代表が、国の天然記念物に指定されている福島県三春町の「三春の滝桜」(ベニシダレザクラ)、岐阜県本巣市の「根尾谷淡墨(うすずみ)桜」(エドヒガンザクラ)、盛岡市の「石割桜」(同)の子孫木を記念植樹した。
セレモニーの後、参加者は手分けして植樹。記念植樹した3種のほか、オオシマザクラやヤエザクラなど合わせて約7種類を植えた。鈴子町の高橋光子さん(69)は「桜の木が四季折々の風情を見せる姿を思い描きながら植えた。子どものように成長を見守っていけたら。毎年、見に訪れる楽しみが増えた」と、新たに市民の憩いの場ができることを喜んだ。
「石割桜」の子孫木を記念植樹する野田武則市長ら
グリーンベルトは、港湾労働者や港周辺に居る人が津波発生時に、いち早く高台の避難場所まで安全に避難できるようにする盛り土緑地。港町から浜町まで延長750メートル、最大幅約60メートル、高さ8~12メートルの整備を計画し、沖の湾口防波堤、港の防潮堤と合わせ3重の防御壁で市東部地区への津波の浸入を低減する効果も期待する。2018年10月の事業完了を目指し、今後、工事が進められるエリアにも桜を植樹する予定。
13年に発足した「釜石に桜を植える会」は復興のシンボルとして桜を植え、未来への遺産とすることを目的に活動してきた。全国から多くの苗木や支援金が寄せられ、これまでに市内の津波被災地区や老人福祉施設、公園などに約140本を植えた。市にも桜を含む樹木が多数寄付されており、復興工事の進展に合わせ、両者の連携による植樹が本格的に始まった。この日は、桜の提供に協力した北海道や青森、栃木県など遠隔地の支援者も駆け付け、作業に加わった。
千葉県市原市の光福寺住職、山本隆真さん(59)と同長南町の長久寺住職、月﨑了浄さん(55)は、日蓮宗千葉県西部宗務所による東北被災地の慰霊巡行で釜石を訪れた際、同会の活動を知った。その後、同宗務所が中心となり地元で桜を寄付するための募金活動を展開。茂原市の大型ショッピングセンターも活動に協力し、各地の市民から寄せられた善意は、750本分もの桜購入費用に生かされた。2人は「みんなが笑顔で集えるような場所になれば」と作業に汗を流し、「千葉に戻ったら協力者に報告し、今後の植樹作業への支援なども検討したい」と話した。
同会の芝崎惠應事務局長は支援の広がりに感謝し、「桜を植えた場所が悲しみを減らす安らぎの場所になってくれれば」と願った。
植樹は23日も行われ、大町の薬師公園斜面と宅地造成が進む鵜住居町根浜地区の山側高台にも桜が植えられた。市は先ごろ、植樹場所や本数などを検討する委員会「桜プロジェクト」も立ち上げており、植える会と協働で植樹を進めていくことにしている。
(復興釜石新聞 2016年10月26日発行 第532号より)
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