震災復興と歩み10年― 釜石の「劇団もしょこむ」 軌跡刻む集大成公演 観客210人が楽しむ

コメディー劇で楽しませた「劇団もしょこむ」の10周年集大成公演=21日、TETTO
釜石市の劇団もしょこむ(小笠原景子代表)は21、22の両日、団結成10周年を記念した集大成公演を市民ホールTETTOで開いた。震災復興のさなかの2015年、「被災地でも芝居がしたい」「演劇をもっと身近に感じられる環境を」と、愛好者らが立ち上げた同劇団。これまでオリジナルの8作品を市内外で公演し、未来につながる新たな文化を芽吹かせてきた。過去作品の軌跡を散りばめた本作のタイトルは、「もし夜が来なくても、夢を見る。」 大槌町在住のライターたておきちはるさんが書き下ろした。コメディー劇ながら、要所に人が生きる上で大切にしたい思いを盛り込み、観客を物語の世界に引き込んだ。
物語の舞台は“いわくつき”のシェアハウス「神木須館(ジンギスカン)」。住民は何げない日常を送るが、実はそれぞれに事情を抱えてこの場所に集まっていた。そんなある日、一人のオカルトライターが現れ、ハウスの隠された秘密が暴かれていく。実はこの場所は100年先を生きるための「コールドスリープ」研究施設。さまざまな悩みから人生を生き直したいと願う人たちが被験を待っていた。しかし、何も知らない役者くずれのダメ男“コースケ”が舞い戻ってきたことで、被験は一時中止に。ライターの暴露で真実を知ったコースケは思わぬきっかけで、コールドスリープ装置の起動に巻き込まれる。果たしてコースケの運命は…?

シェアハウスを訪ねてきたオカルトライターを名乗る女“八木”(右)の正体は?

役者くずれのダメ男“コースケ”(中央)は髪を切って改心。ハウスに併設するカフェバーで働き始める

八木の言葉に心を乱される大学生“沙也加”(右)。沙也加もまたコールドスリープを待つ被験者だった
登場人物8人を演じたのは釜石在住、ゆかりの社会人と高校生。個性際立つキャラクターを見事に演じ切った。劇中のセリフや演出はクスッと笑える場面が多いが、同時にコースケの成長、大切な仲間と自分らしさを取り戻していく住民の姿は、生きづらさに悩む人へのメッセージ性も秘める。

ある絵本がきっかけでコールドスリープ装置が起動。羊の椅子に座るコースケは100年の眠りに入ってしまうのか!?

あの手この手を使い、コースケを眠りから覚まそうとするハウスの住人

仲間たちの祈りが通じ装置が停止。普段と変わらない目覚めを迎えたコースケに住人が駆け寄る
同劇団公演の魅力は舞台と客席の近さ。高さのあるステージ上ではなく、最前列の客席と同じ高さに舞台セットを組むことで、会場の一体感を高めている。今回は特にも細部にまでこだわったセットが目を引き、公演後、舞台に招き入れられた観客は、さまざまな仕掛けに驚きながら見入った。2日間で3公演があり、子どもから大人まで計210人が楽しんだ。観客は市内のほか沿岸各地、内陸部からも訪れ、初めて同劇団公演を見るという人も多かった。

最前列の客席と同じ高さに組まれた舞台セット。シェアハウス内で物語が進む

21日夜の公演には約70人が来場。終演後はセットに入り劇の世界観を満喫した
釜石市の村上舞子さん(30)は「知り合いが2人出ている。身近な人たちの演技力にびっくり」と目を丸くした。大槌町の浪板拓朗さん(31)は「明るく始まったが、途中からシリアスな場面もあって面白かった」と初観劇。若い力で地域を盛り上げている活動に感心し、「これからも応援したい」と口をそろえた。
宮古市で演劇活動を行う吉田真理さん(65)は「少ない人数であれだけの完成度はすごい。まだまだこれからの人たちで今後が楽しみ」と期待。沿岸部は震災以降、人口減少が顕著だが、「自ら立ち上がり、まちを元気にしようという気持ちでも、互いにつながっていければ」と願った。

このポーズは!? 3作目に登場したご当地ヒーロー“釜んライダー”。当時演じたメンバーが再びの決めポーズ

シェアハウスに平穏な日常が戻る。コースケはハウスの管理人に…
今回の出演者の中で劇団創設時からのメンバーは3人。その一人、建築士の宮崎達也さん(54)は当初、裏方だったが、後に役者に転身。最初の頃、「舞台袖で出番を待っていた時の緊張感は決して忘れられない」と懐かしむ。同劇団には震災復興支援を機に釜石に移住した人たちも多く関わってきた。自身は仕事の関係で三重と釜石の2拠点生活を送りながら、演劇活動も継続。「“外”の人が入ることで化学反応が生まれたり、面白さが増したりする」と、メンバーの入れ替わりも自然の流れとして楽しむ。10年活動する中で、「要求されるレベルが上がってきて大変ではあるが、観客に喜んでいただけていることを聞くと、やってきて良かった」と素直に思う。

コーヒー好きのサラリーマン“犬山”を演じた宮崎達也さん(中央)。犬山という役は過去作品にも登場
「立ち上げ当初はがむしゃらで、先のことは全く考えていなかった。10年たち、メンバーも増え、活動が続いているのは夢のよう」と話すのは菅野結花さん(35)。小笠原代表と意気投合、仲間を集め、同劇団創設にこぎ着けたメンバーだ。現在は東京を拠点にプロの俳優として活動するが、古巣にも深い愛着をにじませる。今回もZoom(ズーム)などを活用し、東京から稽古に参加。「本業で忙しい中でも、みんな本気で面白いものを作ろうとする。そういう仲間がいることはこの上ない幸せ」と実感する。陸前高田市出身。元々、演劇に触れる機会が少なかった沿岸部に確かな足跡を残せていることに喜びを感じ、「将来、岩手沿岸が『文化のまち』と言われるようになっていけば」と希望を抱く。

左上写真:劇団立ち上げメンバーの小笠原景子さん(左)と菅野結花さん。10周年を迎え喜びもひとしお。次の10年に新たな夢を描く
震災被災者の心情をリアルに描いた、仮設団地での旗上げ公演から10年―。この間、復興の進展、コロナ禍による活動休止などを経験し、「劇団に求められるものも変わってきた」と小笠原代表(41)。観客にさらに喜んでもらうためには「個々のレベルアップが必要」と考えていて、舞台公演という演劇のベースは守りつつ、新たな挑戦を模索する。「ラジオドラマや朗読など人前での表現の場を増やしたい。現団員はもちろん、これから演劇をやってみたいという子どもたちの受け皿としても小さな取り組みを重ね、次の10年につなげられたら」と意気込む。

釜石新聞NewS
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