明治日本の産業革命遺産8エリアのガイド 釜石で初研修 世界遺産登録10周年機に価値発信へ意欲


2025/11/03
釜石新聞NewS #地域 #観光

世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」のガイドによる研修会=10月23日、橋野鉄鉱山

世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」のガイドによる研修会=10月23日、橋野鉄鉱山

 
 世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」のガイド研修会が10月22、23の両日、釜石市で開かれた。8県11市にある23の資産で構成される同遺産は今年、世界遺産登録から10周年を迎えた。各地で遺産の価値、保全の重要性を伝える活動を担うガイドらが一堂に会する研修は、登録(2015年)の翌年にスタート。構成資産「橋野鉄鉱山」がある釜石市が会場となるのは今回が初めてで、座学や遺産の現地視察を行った。
 
 関係自治体で組織する世界遺産協議会が、ガイドの情報交換や資質向上、価値の共有を目的に開催。8エリアからガイドと自治体職員計66人が参加した。初日は大町の釜石PITで事例発表などが行われた。始めに協議会事務局の鹿児島県世界文化遺産室の加世田尊主査が、遺産価値やガイドに求めることを説明。同遺産は23構成資産全体で一つの価値を有する遺産であり、「全エリアで共通の説明を行うことが大事」と話した。伝えるべきポイントとして▽全体の遺産価値▽構成資産としての位置付け▽地域としての価値-を挙げた。
 
全国8エリアのガイドが集まり学びを深めた=10月22日、釜石PIT

全国8エリアのガイドが集まり学びを深めた=10月22日、釜石PIT

 
釜石の鉄の歴史について話す釜石市教委文化財課世界遺産室の森一欽室長

釜石の鉄の歴史について話す釜石市教委文化財課世界遺産室の森一欽室長

 
 事例発表では地元釜石市から2人が登壇した。同市教委世界遺産室の森一欽室長は磁鉄鉱を生んだ三陸の大地の成り立ち・地質、たたらから近代化に至る釜石の製鉄の歴史、他エリアとの関わりについて説明。参加者の質問にも答えた。
 
 橋野鉄鉱山をはじめ、同市のさまざまな分野のガイド活動を行う「釜石観光ガイド会」の菅原真子さんは、2002年の会発足からの活動経過を紹介した。東日本大震災(11年)以降、三陸海岸の日本ジオパーク認定(13年)、明治日本の産業革命遺産の世界遺産登録(15年)、ラグビーワールドカップ釜石開催(19年)と、ガイド活動に新たな要素が次々に加わった。釜石のジオサイトには橋野鉄鉱山や釜石鉱山も含まれる。「ジオの側面から鉄鉱石を解明していくのも魅力的」と菅原さん。活動の課題として人口減少や高齢化による人材不足を挙げた。鉄への共感の難しさはあるが、「橋野鉄鉱山の本当の歴史的価値を伝え続けることが私たちの大きな役割。『来て良かった。また来たい』と言ってもらえるようなガイドをしていきたい」と意欲を示した。
 
事例発表でこれまでの活動について話す釜石観光ガイド会の菅原真子さん

事例発表でこれまでの活動について話す釜石観光ガイド会の菅原真子さん

 
「明治日本の産業革命遺産」の他エリアのガイド活動などに理解を深める参加者

「明治日本の産業革命遺産」の他エリアのガイド活動などに理解を深める参加者

 
 この日夜には、走行する三陸鉄道車内を貸し切って交流会も開かれた。2日目はいよいよ、橋野鉄鉱山(橋野町青ノ木)の現地視察。釜石観光ガイド会の会員10人がアテンドした。市中心部から運行した送迎用大型バス2台にも会員が乗り込み、約30キロの道中ガイドも行った。現地では4グループに分かれ、会員の案内で一般公開されている高炉場跡の見学を行った。
 
構成資産の一つとなっている釜石市の「橋野鉄鉱山」。高炉場跡には3基の高炉の石組み、水路跡などが残る

構成資産の一つとなっている釜石市の「橋野鉄鉱山」。高炉場跡には3基の高炉の石組み、水路跡などが残る

 
種焼場跡にある石に磁石を近づけてみる参加者。鉄鉱石が今も残る

種焼場跡にある石に磁石を近づけてみる参加者。鉄鉱石が今も残る

 
 官営八幡製鉄所拡張に伴い、工業用水確保のために設置された「遠賀川水源地ポンプ室」が構成資産となっている長崎県中間市でガイド活動を行う下山要さん(84)は八幡製鉄所のOB。1901(明治34)年に記念すべき火入れが行われた東田第一高炉の第10次改修高炉(1962年から10年間稼働)で働いた経験を持つ。橋野鉄鉱山を初めて訪れ、「(八幡につながる)近代製鉄の基礎を作った大島高任さんの実績に触れることができ、感激です」と大喜び。各地のガイドとの意見交換も有意義だったようで、「皆さんの活動に刺激を受けた。ガイドを始めて12年になるが、若い人に語り継ぐ大切さを日々、感じている。できるだけ続けていければ」と思いを新たにした。
 
釜石観光ガイド会の会員らが橋野鉄鉱山について解説。ここで行われていた作業などを聞き、参加者も興味をそそられた

釜石観光ガイド会の会員らが橋野鉄鉱山について解説。ここで行われていた作業などを聞き、参加者も興味をそそられた

 
 長崎市の構成資産「端島炭鉱」(軍艦島)のデジタルミュージアム専属ガイド、政次斗志郎さん(71)は、端島の石炭が深く関わる製鉄の歴史に興味津々。田中製鉄所時代の釜石での“48回の失敗、49回目の成功”に触れ、「まさに失敗は成功のもと。最初はうまくいかなかった八幡製鉄所を釜石から招いた技術者が成功に導いたことも印象的」と話す。橋野鉄鉱山の高炉場跡を実際に歩いたことで、「鉄をつくるための天然の条件がすべてそろっていたのだと感じられた」。登録10周年にあたり、「多くの先人の失敗や犠牲に導かれ、今、私たちは文化的生活を送れている。歴史を知るとその大事さが分かる。これからもその伝道師として頑張っていきたい」と政次さん。
 
エリア内には山神社跡も。山の斜面には石碑が残る(右上)。案内したガイドは春に“石割桜”が花を咲かせる写真も見せた(右下)

エリア内には山神社跡も。山の斜面には石碑が残る(右上)。案内したガイドは春に“石割桜”が花を咲かせる写真も見せた(右下)

 
「また会いましょう!」世界遺産でつながるガイド仲間を見送る釜石観光ガイド会員ら

「また会いましょう!」世界遺産でつながるガイド仲間を見送る釜石観光ガイド会員ら

 
 釜石観光ガイド会の藤原信孝副会長は「登録10周年の年に全国のガイドの皆さんを釜石にお迎えできてうれしい。8エリアの一体感を感じた」と感慨深げ。一つの世界遺産ということを実感できると、「発信力も高まっていく。この世界遺産登録のおかげで、多くの人とのつながりもできた」と喜ぶ。この10年の間には、橋野鉄鉱山の台風被害、コロナ禍などガイド活動に影響を及ぼす事案も多々あった。「これからは蓄えてきたガイド力を存分に発揮する時期。若いガイドも育ってきているので、より活動を発展させていければ」と次の10年を見据える。

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