釜石SW今季ホーム初勝利 大阪に35-24 観客歓喜 リーグ後半戦の巻き返しに弾み
リーグワン2部第7節 日本製鉄釜石シーウェイブス(赤)-レッドハリケーンズ大阪=8日、釜石鵜住居復興スタジアム
NTTジャパンラグビーリーグワン2部の日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)は8日、釜石鵜住居復興スタジアムで行われた第7節の試合でレッドハリケーンズ大阪を35-24(前半14-12)で下し、今季ホーム戦初勝利を挙げた。東日本大震災復興祈念の無料招待試合で選手らはあきらめずに立ち上がる姿を体現し、4426人の観客を魅了。釜石は2勝5敗、勝ち点10で最下位を脱し、7位に浮上した。次節は15日、盛岡市のいわぎんスタジアムで2度目の日野レッドドルフィンズ戦に臨む。
前節まで2位の大阪に挑んだ釜石。前半は2選手がイエローカードで一時退場となる苦しい展開ながら、“3.11”を前にした特別な試合に選手たちの気迫がみなぎった。大阪に先制されるも、13分にナンバー8サム・ヘンウッドが同点のトライ(ゴール成功)。一時13人となった時間帯も我慢のディフェンスで乗り越えた。25分には、けがから復帰し第3節以来の出場となった本県紫波町出身のWTB阿部竜二が今季初トライ。SOミッチェル・ハントはきつい角度のゴールキックを決め14-12と逆転した。残り10分は自陣ゴールラインぎりぎりまで攻め込まれるが、守り切り折り返した。
前半13分、ナンバー8サム・ヘンウッドがハーフウェイライン付近から抜け出し、この日初トライ
前半25分、第3節以来の出場となったWTB阿部竜二が今季初トライ。ゴールも決まって14-12と逆転
後半の立ち上がりも上々。WTB阿部は持ち前のスピードで2分、7分と連続トライ。11分には宮城県気仙沼市出身の主将SH村上陽平がきっちり決め、35-12と突き放した。30分以降、大阪に2トライを返されたが35-24、11点差で今季2勝目。阿部、村上2人の東北人が「必ず勝つ」との強い気持ちでチームを引っ張り、4試合ぶりの勝利をおさめた。
後半7分、相手の意表をつき抜け出たCTB村田オスカロイドからボールを受け、阿部が3本目のトライ
後半11分、SH村上陽平は村田のオフロードパスを受けトライに持ち込んだ
SOミッチェル・ハント(左)は5本のゴールキックを全て決め10得点
東京都から駆け付けたSWファン松元直樹さん(52)は「これまで気合いが空回りしちゃう部分もあったが、今日は意気込み通りの試合展開。この勝利で今季の戦いもまた変わってくるのではないか。2部は混戦状態。まだまだ挽回のチャンスはある」と期待。「力はある。自分を信じて頑張って」とチームの背中を押した。
試合後、須田康夫ヘッドコーチ(HC)は「首位争いのチームに勝てたことは自信につながる。ラインアウトは改善されてきたが、セットプレーの獲得率はまだ低い。重要な局面でボールを失うと勢いをなくす」とさらなる改善を見据えた。村上主将は「一人一人があきらめずにカバーに走ったり、ディフェンスし続けられたことが大きな勝因」と分析。ブレイクダウンでのターンオーバーなど、相手に終始プレッシャーを与えたことも評価に挙げた。何度も沸き起こった“釜石”コールの大声援が「力になり、ありがたかった」。3月は4連戦。「この試合のハードワークをスタンダードに」と後半戦に挑む。
須田HCが「テンポを上げるという部分でも非常によくできていた」と話すラインアウト
釜石SWの今季ホーム戦初勝利に沸くスタンド。ファンらが喜びを爆発させた
試合会場では、隣町の大船渡市で発生した大規模山林火災の義援金を募る募金活動が行われた。釜石SWの選手らが募金箱を手に入場ゲートに立ち、来場者に協力を呼び掛けた。会場近くの市民体育館は2月27日から新潟、茨城、栃木3県の緊急消防援助隊の拠点となり、周辺には多数の消防車両が待機。来場者は一刻も早い鎮火と被災者の生活再建を願い、気持ちを寄せた。
釜石SWの選手らが協力を呼び掛けた大船渡市山林火災義援金の募金活動
スタジアム近くには消防車両も(写真左)。会場を訪れた多くの人たちが善意を寄せた
試合を盛り上げる企画も多彩に トーク、記念写真、応援フラッグ、震災伝承 釜石に思い寄せ
車いすラグビー日本代表、橋本勝也さん(福島県出身)のトークショー
試合前には、昨年のパリパラリンピック車いすラグビーで金メダルを獲得した日本代表選手、橋本勝也さん(22、福島県出身)のトークショーが行われた。来場者に同競技のタックルなどを体感してもらう体験会も開かれ、幅広い年代が楽しんだ。
橋本さんは中学2年から競技を始め、わずか2年で日本代表入り。チーム最年少16歳で、世界選手権優勝を経験した。相手を一気に抜き去るスピードを生かした得点力が持ち味。昨年のパリパラ大会では中心メンバーとして活躍し、日本優勝に大きく貢献した。トークでは丸形のボールや専用車いすを見せながら、競技の特徴を紹介。銅メダルで悔しい思いをした東京大会からパリ大会までの道のりを明かした。パリ準決勝で世界ランク1位のオーストラリアを延長戦の末に破ったことを最大の成果に挙げ、「チーム、個人でも東京大会からの成長を見せることができ、大きな自信になった」と振り返った。
来場者は車いすラグビーに興味を示しながら耳を傾けた。トークの前には橋本選手のタックルを受けられる体験会も(写真下)
橋本さんは地元福島を拠点とするクラブチームに所属。「東北にパラスポーツの文化を根付かせたい」と体験会やSNSを通じた発信に積極的に取り組む。震災復興への思いも強く、「復興の意味合いは人それぞれ。コミュニケーションを取りながら、僕たちにしかできない活動で勇気を与えられたら」と願った。
昨季まで釜石SWでプレーした束田涼太さん(左)が写真撮影した来場記念フォトスポット
「お世話になった釜石に恩返しを―」。昨シーズンで釜石SWを退団、現役を引退した束田涼太さん(28、東京都出身)は、釜石鵜住居復興スタジアム(うのスタ)来場記念のフォトスポットを開き、自ら撮影した写真を来場者にプレゼントした。
束田さんは2020年にSWに入団。釜石市役所に勤務しながら、プロップとして4年間プレーした。退団後、第2の人生に選んだ職業はカメラマン。学校の卒業記念アルバムや教育支援事業を手掛ける、学校写真(本社・東京都)に勤務する。「写真に興味はあったが、本格的に始めたのは会社に入ってから」。大好きな釜石を盛り上げたいと、職場の協力を得て今回の企画を実現させた。
釜石ではうのスタの運営管理やラグビー教室で、子どもたちとの交流も多かった。「今、カメラという別の視点で子どもたちと触れ合うことができ、毎日が充実している」と束田さん。フォトスポットには約200組が訪れ、束田さん撮影の写真のプレゼントに笑顔を広げた。束田さんはSWの勝利にも大喜び。「これだけの観客の中でいい勝ち方ができ、選手たちがうらやましい。ラグビーが恋しくなりました」と笑った。
釜石SWとコラボした応援ミニフラッグを来場者に手渡す文京学院大の学生ら
文京学院大(東京都)は産学連携プロジェクトで、釜石SWとのコラボレーション応援ミニフラッグを6千本製作。来場者に無料配布した。「ブレーメンズ」という東日本大震災復興支援プロジェクトを立ち上げ、学生が被災地での活動を続ける同学。釜石では津波で被災した根浜地区での活動を機に、逆境に負けず立ち上がり続ける姿を重ねたキャラクター「ねば~だるま」を制作。うのスタが会場になった2019年のラグビーワールドカップ(W杯)で同キャラのうちわを配布した。
応援フラッグはSWのチームカラー赤を基調とし、チームロゴとラグビーボールを手にしたねば~だるまなど3体を配置。釜石ラグビーの象徴、フライキ(大漁旗)をイメージして作り上げた。会場で直接手渡した4年の三宅快道さん、荒賀弓絃さん(ともに22)は「チームと来場者の心がつながり、士気も高められるような一体感にこだわった。客席でみんなが振ってくれているのを見て感動した」と口をそろえ、「SWは釜石復興のシンボル。スポーツの力を感じる」と実感を込めた。
釜石高「夢団」メンバーによる震災伝承、防災啓発の語り部活動。生徒それぞれが伝えたいことを自分の言葉で…
スタジアム内に建つ震災祈念碑「あなたも逃げて」の前では、釜石高の生徒有志で結成する「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」が、震災の経験や教訓を伝える語り部活動を行った。夢団の震災伝承、防災活動は19年のラグビーW杯を機に始まり、語り部はSWのホーム戦恒例となっている。
この日が語り部デビューとなった1年の森真心(こころ)さんは震災当時2歳。鮮明な記憶はない。中学生のころ、母方の祖父が津波で亡くなったことを知り、衝撃を受けた。想像しづらい出来事ながら、リアルな現実に触れ、当事者意識を持つようになった。「年月が経過した今だからこそ、震災と向き合い、自分の言葉で少しでも多くの人に伝えていかねば」。自身の気持ちの変化と語り継ぐ大切さを示した森さん。「自然は時に人間があらがえないほどの力を持つ。防災意識を高め、震災の教訓を決して忘れてはいけない―」。亡くなった祖父が住んでいた鵜住居の地で言葉に力を込める。
震災から14年。森さんは「事実をきちんと受け止め、これ以上、犠牲者を増やさないことが大事。自然にはあらがえない。私たちの意識を変えていくしかない」と話し、語り部の話を聞くことが意識変化のきっかけになるよう願う。

釜石新聞NewS
復興釜石新聞を前身とするWeb版釜石新聞です。専属記者2名が地域の出来事や暮らしに関する様々なNEWSをお届けします。取材に関する情報提供など: 担当直通電話 090-5233-1373/FAX 0193-27-8331/問い合わせフォーム