世代超え盤上で深める交流 将棋・釜石市長杯争奪大会 小山怜央四段の直筆色紙 初登場で白熱


2024/04/18
釜石新聞NewS #文化・教育

世代を超え勝負!盤上での交流を楽しむ将棋大会の参加者

世代を超え勝負!盤上での交流を楽しむ将棋大会の参加者

 
 日本将棋連盟釜石支部(土橋吉孝支部長)主催の世代間交流将棋大会は14日、釜石市上中島町の中妻公民館で開かれた。市長杯をかけ熱い戦いを繰り広げて6回目となる今回、地元出身のプロ棋士・小山怜央四段(30)の名を冠した大会に進化。2つの栄冠を狙って小学4年生~86歳まで、県内外の愛好者48人が盤上で真剣勝負を展開した。
 
 団体戦に16チーム(各3人)が出場。世代を超えて臨む対局はスイス式トーナメント戦4局を行って、勝ち点を競う。棋力に応じて駒落ちハンディ(最高6枚落ち)をつけたり、対局時計の使用に不慣れな人に配慮(数回、大目に見るなど)したり、大会独自のルールを用意する。
 
市長杯のトロフィー、小山怜央四段の色紙を狙って将棋愛好者が集う

市長杯のトロフィー、小山怜央四段の色紙を狙って将棋愛好者が集う

 
 準備を整え、「お願いします」とあいさつして対局開始。真剣な表情で盤面に向かい、パチ、パチ…と駒を打つ音を重ねた。それぞれ持ち時間は15分で、切れたら一手30秒で指す決まり。「う~ん」と頭を悩ませながら、「そうか!」「…失敗したぞ」と思わず声を出してしまったり、戦いは白熱した。勝敗に関わらず「ありがとう」で締めくくり。対局を振り返り、「こんな手、考え方もあるのか」などと棋力を磨き合った。
 
集中力がキラリ!真剣な表情で盤面を見つめる小学生

集中力がキラリ!真剣な表情で盤面を見つめる小学生

 
静かなる熱戦を展開!ベテランたちも負けずに指す

静かなる熱戦を展開!ベテランたちも負けずに指す

 
 柔道に打ち込む仲間とチームを組んで初めて参加した釜石の中学生、山﨑一心さん(14)は「将棋は遊びでやっていた。いい勉強になって楽しかった」と笑った。第1局は2枚落ちのハンディをもらい、地元のベテラン澤田秀人さん(82)に挑んだが敗戦。「ちょっと悔しい。対戦する機会があれば、今度は勝ちたい」と再戦を心待ちにした。
 
 対する澤田さんは「駒落ちはゆるくない(容易ではない、大変だといった意味の方言)。押され気味で、何とか勝たせてもらった感じだな。あと一年もすれば、もっと強くなる」と激励を込めた。この大会には小山四段も過去に出場し、その時に指した経験は思い出として残る。「諦めがつく気持ちになるほど、すごかった」と肌で感じた強さを思い浮かべ、ニヤリと笑う。若手の成長を見るのは喜びで、大会での交流を楽しみにする。対局は体力勝負でもあり、終わった後はどっと疲れもくるが、「一つでも多くいろんな人と対戦したい」とやる気は若者にも負けない。
 
小山四段の対局を横目に自身の戦いに挑む出場者

小山四段の対局を横目に自身の戦いに挑む出場者

 
 この日は、第74回NHK杯テレビ将棋トーナメントに挑んでいる小山四段の1回戦(第2局)の放送日。交流大会の参加者は第1局を終えると、会場に用意されたテレビやスクリーンに映し出された対局の様子を見守った。「私は岩手出身で初の棋士。予選を通過して本戦に臨む際、作戦を練ってきました」とコメントを残していた後手番の小山四段は、大石直嗣七段(34)に110手で勝利。「よし!」と、会場から拍手が沸き起こった。その流れを受け、参加者たちは気合を入れて午後の対局に臨んだ。
 
対局の合間には大人も子どももテレビ画面にくぎ付け

対局の合間には大人も子どももテレビ画面にくぎ付け

 
 年配者と子どもが向かい合って将棋を指す。そんな光景を「原風景」と表現していたのは仙台市から初参戦した菅原歩さん(52)=東北大学大学院経済学研究科准教授。年齢、段や級の棋力差に関わらず勝負の面白さを感じながら多くの人と交流できる環境をつくるこの交流大会は「幸福感をもたらしてくれる。この素晴らしい光景が小山四段という存在を生む背景になったのだろう」と感慨にふけった。
 
 陸前高田市出身の菅原さんは、中学時代に「全国選抜将棋選手権大会で優勝」との経歴を持つ。高校卒業後は学業や仕事に専念し、5年ほど前から「観る将」(将棋を観て楽しむファン)として楽しんできた。大会参加は35年ぶり。以前から親交がある土橋支部長(68)から声がかかり、夢中で盤面に向かっていた頃の“師匠”栗林長悦さん、小林秀雄さん(いずれも奥州市)とともに戦いに臨んだ。「勝ち負けより楽しむ。ミスせず、悔いのないよう戦いたい」と話していたが、チームは見事に優勝。個人では全勝賞も手にした。「心地よい緊張感、集中できる時間」を楽しんだ様子。この原風景が続くことを望み、「また参加したい」と笑顔を残した。
 
優勝した「歩君とその師匠たち」チーム。中央が菅原歩さん(写真・土橋支部長提供)

優勝した「歩君とその師匠たち」チーム。中央が菅原歩さん(写真・土橋支部長提供)

 
 今回、敢闘賞を用意。勝ち越したり、懸命に取り組んだ若手を中心に選出し、小山四段が揮ごうした力強い筆致の色紙を贈った。参加者の戦いぶりに見入っていた小野共市長は「苦難を乗り越え、当初の目的を達した小山さんの努力、生き方に心を動かされる」と話し、活躍が岩手の将棋界にもたらす影響を改めて感じたようだった。
 
 将棋人口の底辺拡大や普及を目的に交流大会を続ける土橋支部長は「昔なじみの顔ぶれ、若手、初心者が集まる場」をうれしそうに見つめる。この日、小山四段は天童市で指導対局の仕事があり大会には顔を出せなかったが、テレビ放送で雄姿を披露。「怜央効果だな。頑張っている姿を見れば、みんな応援したいし、自分もやるぞと意欲も高まる。励まし、励まされる、そんな交流の輪を広げていきたい」とさらに目尻を下げた。
 
「来年もまた」。釜石市長と小山四段の名を冠した大会は続く

「来年もまた」。釜石市長と小山四段の名を冠した大会は続く

 
◇団体戦順位①歩君とその師匠たち(小林秀雄さん、菅原歩さん、栗林長悦さん)②遠野支部(新沼光幸さん、松田吉輝さん、萩野良三さん)③久慈支部B(笹原賢二さん、中川原将洋さん、中川原達哉さん)
 
◇個人全勝賞/菅原さん(歩君とその師匠たち)、新沼さん(遠野支部)、畠山和人さん(稜平と小田代兄弟)、刈谷瑞明さん(正棋会C)、小笠原拓宏さん(将棋教室)

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