教訓胸に 備え、命守る 釜石で地震・津波避難訓練 位置情報の活用で行動確認も


2024/03/11
釜石新聞NewS #防災・安全

高台の避難場所に向かって階段を上る鵜住居地区の住民ら

高台の避難場所に向かって階段を上る鵜住居地区の住民ら

 
 「あの日も寒かった」。3月の第1日曜日、釜石市全域で行われた地震・津波避難訓練で参加者がつぶやいた言葉。13年前の東日本大震災で難を逃れた行動を思い起した様子のその人は続けた。「心配でも、戻ったらいけない」と。訓練のあった3日は、昭和三陸地震津波(1933年)から91年となった日でもある。度重なる災害の教訓をつなぎ、備えるべく、約1500人(速報値)が命を守る行動を積み重ねた。市は、デジタル技術を活用した避難行動分析の実証実験も試行。発災時の迅速な安否把握や情報収集に向け有効性を確かめた。
 
 訓練は、午前8時半に東北地方太平洋沖を震源とするマグニチュード(M)9.0の地震が発生して市内で震度6弱の揺れを観測、3分後に大津波警報が出されたとの想定。震災の津波で大きな被害を受けた鵜住居地区では、町内会ごとに市が指定する緊急避難場所などに向かった。
 
三陸鉄道鵜住居駅周辺から高台を目指して長い階段を駆け上がる

三陸鉄道鵜住居駅周辺から高台を目指して長い階段を駆け上がる

 
 三陸鉄道鵜住居駅周辺で暮らす住民ら約100人は高台の鵜住居小・釜石東中の校庭に避難した。そばの復興住宅で生活する70代男性は震災時、避難が遅れ、がれきの上で一夜を過ごした。津波で兄夫婦は帰らぬ人に。兄嫁はいったん高台に避難したものの、夫の姿が見えないと戻ってしまった。遠くを見つめてポツリ、「絶対、戻ってはいけない」。多くの支えで今があると感謝し、「助かった命、楽しく生きなければ」と前を向く。だからこそ、「やっておくことが大事」と訓練は欠かさない。この日は、数日前に降った雪がとけずに凍っていて、途中で滑って転んだという。「こういうこともある」とうなずき、ふと空を見上げた。「そういえば、あの時も寒かった。雪もちらついていたな」
 
震災の津波の高さを示すオレンジのラインより高い場所を目指して避難

震災の津波の高さを示すオレンジのラインより高い場所を目指して避難

 
より高く。緊急避難場所の校庭から拠点避難所の体育館へ移動

より高く。緊急避難場所の校庭から拠点避難所の体育館へ移動

 
 釜石東中(佃拓生校長)はこの日に合わせ部活動を行い、1、2年生の約30人が参加。体育館が拠点避難所になっていることから、鵜住居町内会(古川愛明会長、約120世帯)が実施した避難所開設訓練に協力した。千葉心菜さん(1年)は「想定にとらわれないで逃げる」のは身についているが、避難所運営は初めてで「みんなについていくのがやっと」だった。けど、段ボールベッドの作り方を覚えたのが収穫。「次は、知らない人に教えたり、率先して行動したい」と背筋をピンとした。
 
避難所設営訓練で段ボールベッドを組み立てる参加者

避難所設営訓練で段ボールベッドを組み立てる参加者

 
 近くの新川原地区内には緊急避難場所が2カ所あり、国道45号以西の住民は「本行寺奥三陸道」(三陸沿岸道路)に向かうルートを確認。支援が必要な高齢者をリヤカーに乗せて避難する訓練も行った。震災の津波で自宅が被災した八幡亘さん(47)は「1月に能登半島地震もあり、改めて人ごとではないと実感する。訓練を重ね、震災の教訓を忘れないよう意識していきたい」と気を引き締めた。この日は「かまいしワーク・ステーション広場」への避難者と合わせ、約90人が訓練に参加した。
 
新川原地区の津波緊急避難場所「本行寺奥三陸道」に向かう住民ら

新川原地区の津波緊急避難場所「本行寺奥三陸道」に向かう住民ら

 
リヤカーでの避難訓練も実施(写真上段)。この日は積雪による道路凍結(同左下)で転倒の危険があるため、三陸道上り口までの避難とした。防災備蓄倉庫は今後、三陸道脇に移転させる予定

リヤカーでの避難訓練も実施(写真上段)。この日は積雪による道路凍結(同左下)で転倒の危険があるため、三陸道上り口までの避難とした。防災備蓄倉庫は今後、三陸道脇に移転させる予定

 
 同地区は震災の津波で全世帯の約7割が被災。住民28人が犠牲になった。2022年に県が公表した最大クラスの津波浸水想定では、さらなる浸水域の拡大が予想される。新川原町内会(147世帯)の古川幹敏会長は「高齢者ら避難弱者をどう助けるかが課題。徒歩避難が原則だが、屋外で1~2晩過ごさなければならない場合も考えると、駐車スペースを確保できる場所への車避難も検討の余地があるのではないか。鵜住居全体で課題を共有し、対策を講じる必要がある」と述べた。
 
 市は今回、スマートフォンの位置情報アプリを利用して市民の避難行動を分析する実証実験を初めて行った。半島部など発災直後に人員の配置が難しい地域の安否把握や情報収集手段の構築、浸水域を避けて移動するといった安全な行動の検証などが目的。大津波警報発表時に災害対策本部となる小佐野町の市立図書館にモニターを設置し、参加者の移動状況を確認した。
 
災害対策本部に設置されたモニターには市民の避難行動が映し出された

災害対策本部に設置されたモニターには市民の避難行動が映し出された

 
 ソフトバンク子会社Agoop(アグープ、東京都)と連携し、同社が提供する歩数計測アプリをインストールした約200人の位置情報を画面に表示。県が示した津波浸水想定のシミュレーションを重ね合わせ、動きを見守った。市の佐々木道弘危機管理監はリアルタイムな動きを可視化、分析するツールとして可能性、有効性に手応え。「全市民を守るためいろんな手法を積み重ね、事前防災につなげたい」と強調した。
  
 このほか、緊急避難場所(84カ所)や拠点避難場所(18カ所)に配置した職員から避難者数をオンラインで連絡する情報伝達訓練も実施。要支援者の避難方法を検討するため箱崎町白浜地区で車両を使った避難訓練や、浸水域外の中小川町内会は後方支援としての炊き出し訓練を行った。

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