「世界の持続可能な観光地トップ100選」6年連続選出の釜石でフォーラム 視察者も先進事例学ぶ


2024/02/06
釜石新聞NewS #観光

釜石持続可能な観光フォーラム=1月29日、釜石PIT

釜石持続可能な観光フォーラム=1月29日、釜石PIT

 
 釜石持続可能な観光フォーラム2024(かまいしDMC、釜石市主催)は1月29日、同市大町の釜石PITで開かれた。観光地域づくり法人(DMO)の先進事例を学ぶため、全国各地から同社の視察に訪れた18人を含む42人が参加。基調講演や、同市の観光振興ビジョン「オープン・フィールド・ミュージアム構想」に基づくこれまでの取り組み成果を聞いた。
 
 同市は観光を通じた東日本大震災からの復興、持続可能な観光の実現を目指し、2017年に同構想を宣言。観光地域づくり法人として設立された、かまいしDMC(河東英宜代表取締役)を中心に体験プログラムの開発、観光マーケティング分析などを行いながら、地域に貢献し、国際社会に認められる観光地づくりに取り組んでいる。持続可能な観光の国際基準(GSTC)の導入を進め、認証を行う第三者機関グリーン・デスティネーションズ(オランダ)が発表する「世界の持続可能な観光地トップ100選」に18年から6年連続で選出され、国内関係者から注目を集める。
 
 フォーラムではGSTC公認トレーナーで、NPO法人大雪山自然学校(北海道)代表理事の荒井一洋さんが基調講演。サステナブルツーリズム(持続可能な観光)と観光を 活用した地域づくりについて話した。国連世界観光機関(UNWTO)が示すサステナブルツーリズムとは「来訪者、産業、環境、受け入れ地域のニーズに適合しつつ、現在と将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮した観光」のこと。荒井さんは「観光の悪影響を減らし、良い部分を伸ばすことがポイント。サステナブルな旅は旅行者にも求められている」とした。
 
講師の荒井一洋さん(左)はNPO法人エコツーリズムセンター理事、北海道アドベンチャートラベル協議会会長なども務める

講師の荒井一洋さん(左)はNPO法人エコツーリズムセンター理事、北海道アドベンチャートラベル協議会会長なども務める

 
 観光を活用した地域づくりを考える場合、重要なのは「観光で何を得たいのかを明確にすること」。客が来ることで収益増、環境や文化の保全、地域維持につながるなど、貢献度を高めることが“持続可能”実現には不可欠だという。荒井さんが勧めるのは、地元住民もやっている体験。「価値をつくるには“本物”のおすそ分けが最適」とし、漁業、林業、防災教育など釜石市民の日常に価値を見いだす。同市ではすでに「ミートアップ釜石」と題した20以上の観光プログラムが提供されており、売り上げも伸びてきている。
 
 この日は、観光人材育成への取り組み発表もあった。本年度、観光庁「地域活性化のための観光教育推進事業」モデル地域に選ばれた同市では、釜石商工高と連携。総合情報科の2年生5人が同市の観光戦略を学び、かまいしDMCが提供する観光プログラムを体験した。釜石湾漁船クルーズ、根浜海岸漂着物調査、ウニむき体験、釜石地方森林組合による講話など全7回の学習を行った。生徒らは地元の自然の豊かさを実感する一方で、地球温暖化を防止するための森林環境整備の大切さ、磯焼け対策として唐丹町漁協が取り組むウニの蓄養についても理解を深めた。
 
地域の観光を学ぶフィールドワークの成果を発表した釜石商工高総合情報科の2年生

地域の観光を学ぶフィールドワークの成果を発表した釜石商工高総合情報科の2年生

 
 生徒らは釜石の観光の課題を考察。発表では「体験プログラムはやり方や見せ方を工夫することで、もっと観光客を呼び込める」「釜石ならではの文化を体験できるような仕掛けをもっと考えるべき」「世界遺産などをうまく活用できていない。イベント開催やSNS発信で知られざる魅力をPRしていくことが必要」といった意見が出された。
 
 小笠原のゑさんは本学習で、環境に関する持続可能な活動の多さ、海と山に囲まれた豊かな自然を武器にした観光に強みを感じたよう。「17年間、釜石で生きてきた中で初めて知ることが多かった。こんなに魅力があるのに何で広まらないのだろう」と疑問が生じ、「自分たちも積極的に行動し、広めていき方をもっと考えたい」と今後の活動に意欲を見せた。
 
 同校では来年度、3年生の選択科目(週2時間)に「観光ビジネス」を導入予定で、今回発表した5人も履修するという。総合情報科科長の正木博之教諭は「本学習で生徒たちは、釜石の取り組みが外部から評価されていることを知り、自分たちの住む地域の可能性をあらためて認識した。地域に貢献したいという思いも芽生え、観光分野の仕事へ興味を持った生徒もいるようだ」と話す。
 
視察に訪れた全国のDMO関係者らも参加し、講演や発表に耳を傾けた

視察に訪れた全国のDMO関係者らも参加し、講演や発表に耳を傾けた

 
 同市の「オープン・フィールド・ミュージアム構想」は市内全域を博物館に見立て、地域に眠る宝(自然、歴史、文化、人、産業など)を発掘しながら、住民と来訪者をさまざまな形でつなぐ観光地域づくりの手法。持続可能な観光の国際基準を採用し、継続的な収益を生むと同時に住民の郷土愛醸成、地域活性化につなげる。
 
 かまいしDMCの河東代表取締役は、常設の体験ブログラムで観光への関わり人口が増え、内容の充実や複数の体験が宿泊にもつながっている状況を説明。体験プログラムの入場料は19年度の約250万円から増加が続き、本年度は3000万円に届く勢いだという。来年度は主に大学生を対象とした「オープン・フィールド・カレッジ」の創設を予定。好調なワーケーションへの対応として、参加企業の寄付で新たな研修施設を建設する計画で、25年3月の完成を目指す。
 
参加者は釜石オープン・フィールド・ミュージアムの取り組みに理解を深めた

参加者は釜石オープン・フィールド・ミュージアムの取り組みに理解を深めた

 
 釜石市の観光客入り込み数はラグビーワールドカップ(W杯)があった2019年度は91万人を超えたが、その後は新型コロナ感染症の影響で減少。21年度は約49万人、22年度は59万8000人とコロナ禍前の6割程度にとどまっている。

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