SL銀河、ラストラン 活気・元気・楽しみ…「ありがとう」 沿線には大漁旗の花道 岩手・JR釜石線


2023/06/16
釜石新聞NewS #地域

釜石駅を発つSL銀河の最終列車。線路脇ではファンらが手を振り、大漁旗が揺らめいた=11日

釜石駅を発つSL銀河の最終列車。線路脇ではファンらが手を振り、大漁旗が揺らめいた=11日

 
 観光列車「SL銀河」がJR釜石線(花巻―釜石駅間)を駆け抜けた―。東日本大震災後の沿岸被災地を活気づけようと、10年間走行。4日に定期運行を終え、11日の団体客向け臨時列車としての運行を最後に引退した。ラストシーズン、4両編成の客車176席は、毎便ほぼ満席。始発の釜石駅や沿線では雄姿を目に焼き付けようと大勢の住民や鉄道ファンらでにぎわった。そこで聞こえたのは、「ありがとう」「さみしい」「また…いつか」と別れを惜しみ、再会を望む声。さまざまな思いを胸に、ラストランを見つめていた。
 
 SL銀河は、2014年4月から土日を中心に運行。蒸気機関車「C58形239号機」と宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をイメージした客車が人気を呼び、約7万4000人が乗車した。被災地の観光客増に一役買っていたが、客車の老朽化などから引退することに。ラストとなる今シーズンの定期運行は6月4日まで上下計24本で、すべての切符が即日完売した。
 
釜石行きの定期列車の最終便を出迎える大漁旗=3日

釜石行きの定期列車の最終便を出迎える大漁旗=3日

 
乗客や見物客らでごった返す釜石駅ホーム=3日

乗客や見物客らでごった返す釜石駅ホーム=3日

  
 3日は、花巻発釜石行きの定期列車の最終便。にこにこ顔でホームに降り立ったのは埼玉県羽生市の南柊羽(しゅう)さん(井泉小3年)と杜和君(5)兄弟。「客車の内装がすごい。煙もいい匂い。かっこよかった。乗れて、めっちゃうれしい」と大興奮だった。父博宣さん(43)によると、諦めかけていたところでやっと手にした乗車の機会。「(杜和君の)誕生日プレゼントにもなった」と破顔した。
 
「やっと!」。大好きなSLに乗れて大喜びの南さん一家=3日

「やっと!」。大好きなSLに乗れて大喜びの南さん一家=3日

 
記念品配布や手旗、虎舞、横断幕などラストシーズンのおもてなし

記念品配布や手旗、虎舞、横断幕などラストシーズンのおもてなし

 
 最終シーズンは沿線でのもてなしにも力が入った。釜石駅ホームでは市内の虎舞伝承団体が交代制で演舞を披露し、10日は「只越虎舞」の出番。副会長の榊原航さん、佐藤隆汰さん(いずれも28)は「釜石ならではのお出迎えを」と威勢よく、にぎやかな踊りを見せた。郷土芸能を発信する機会になっていたことから運行終了は「残念」と感じているが、「虎舞はまちを活気づけ、人をつなぐ」と確信していて、活動を継承し地域を盛り上げる思いを強めていた。
 
釜石駅近くの甲子川橋梁を走るSL銀河=10日

釜石駅近くの甲子川橋梁を走るSL銀河=10日

 
 これが本当のラストラン―。11日の最終便は釜石発花巻行きの臨時列車。多くの人でごった返すホームで、「今までありがとう」と手書きのメッセージを掲げたのは、釜石駅がある鈴子町の町内会員たち。町内会長の松本眞弓さん(72)、高橋光子さん(75)夕向有子さん(77)は線路脇にも立ってSLに手を振り続けてきた。観光客や「撮り鉄」との触れ合いが思い出深く、日課が無くなるような「さみしさ」もありながら、「いろんな楽しみ、元気をもらった」と感謝した。
 
「思い出の中で走り続ける」と感謝を伝える鈴子町内会員=11日

「思い出の中で走り続ける」と感謝を伝える鈴子町内会員=11日

 
最終列車の出発の合図をする(左から)達増拓也岩手県知事、野田武則釜石市長、高橋恒平釜石駅長=11日

最終列車の出発の合図をする(左から)達増拓也岩手県知事、野田武則釜石市長、高橋恒平釜石駅長=11日

 
見送りに応える機関士。「また会いましょう」と釜石駅構内にメッセージを残す=11日

見送りに応える機関士。「また会いましょう」と釜石駅構内にメッセージを残す=11日

 
「ありがとう」。多くの人が見守る中、高らかに汽笛を鳴らし、煙を上げて走るSL銀河=11日

「ありがとう」。多くの人が見守る中、高らかに汽笛を鳴らし、煙を上げて走るSL銀河=11日

 
 釜石駅近くの甲子川橋梁は人気の撮影スポットだが、東京都立川市の大嶋朋子さん(47)は「撮り鉄」「乗り鉄」を控えて見送りに徹した。「SL銀河お見送り大作戦」と銘打ち、呼びかけに応えた20人ほどの仲間と河川敷から大漁旗を振り、最終便の花道を鮮やかに染めた。「甲子川は復興の象徴。震災を忘れさせる場所であり、思い出させる場所だ」。ここで最終便を見届けることにしたのは、ある機関士が話したそんな言葉が心に残ったから。汽笛が山にこだまし、きれいに響くことも理由の一つ。「また帰って来いよ」と聞こえてくるのだとか。SLをきっかけに岩手県内で多彩な縁ができたといい、再訪を望んだ。
 
甲子川橋梁付近の河川敷で最終列車を待ち構える「SL銀河お見送り大作戦」

甲子川橋梁付近の河川敷で最終列車を待ち構える「SL銀河お見送り大作戦」

 
 この活動には、SLに69回も乗った盛岡市の川村瑠成さん(上田中3年)の姿も。「夢は機関士。いつか、また釜石線を走ってほしい。その時に運転したい」とうなずき、前を向いた。
 

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