デザインに魅せられ 貫く“イズム” 小田島凌一展 83歳、現役看板職人【釜石】


2023/05/03
釜石新聞NewS #文化・教育

釜石市民ホールで作品展を開く小田島凌一さん=只越町のアトリエで

釜石市民ホールで作品展を開く小田島凌一さん=只越町のアトリエで

  
 あくまで手描き、手作業で―。デザイン一本で美術活動を貫き通す釜石市のグラフィックデザイナー小田島凌一さん(83)の個展が、大町の市民ホールTETTOギャラリーで開かれている。ポスターデザインに魅せられて60年余り、今なお看板業を営む現役職人。東日本大震災での被災、健康面で不安を抱える出来事があっても生み出し続けた、「小田島イズム」がにじむ作品約40点を展示する。同ホール自主事業「アートアットテット」の一環。7日まで。
  
 ソンタクロース、福紙…言葉遊びを楽しむタイトルがついた作品、地球温暖化や海洋汚染などをテーマに問題提起するデザイン画が並ぶ。米露中、北朝鮮の緊張を表現した「取扱注意」、パネル全体を真っ黒に塗りつぶし、その中に壊れゆく子どもの顔を描き「戦争やめろ!」と訴える意欲作も。「ポスターで、すぐには平和の糸口は見いだせないかもしれない。しかし、戦争を終結させる手段の一つではないか」。そんな言葉が添えられている。小田島イズム、その1。「余計なものは入れない。説明しない。パッと見て分かるよう、視覚的に追及する。ポスターデザインのワザ」
  
TETTOで開催中の小田島凌一展。40点ほどが並ぶ 

TETTOで開催中の小田島凌一展。40点ほどが並ぶ

  
地球温暖化対策の必要性や反戦…簡潔なイラストと文言で訴える

地球温暖化対策の必要性や反戦…簡潔なイラストと文言で訴える

  
「上品ではない。泥くさい作品だから」と小田島さん。社会的な話題を取り上げ問題提起する

「上品ではない。泥くさい作品だから」と小田島さん。社会的な話題を取り上げ問題提起する

   
 びっしりと蛍光色のシールが貼られた「丸・三角・四角」と題した作品。タイトル通り、3つの形を重ね合わせ、ひたすら貼りまくった。使ったシールは約3200枚。デジタル時代の今、パソコン上でデザイン、画像処理してプリントすれば数分で仕上がるが、小田島さんは手作業にこだわる。「創作には面白い仕掛けがなきゃ。デジタルにはユーモアがないし、創造ができないでしょ」。いたずらっぽく笑いながら、小田島イズムをポロリ。楽しむ視点は他にもあり、展示品はほぼ全てが手描きで仕上げられ、「色むらがあったり、筆の毛が混じっていたり。そんなところを見るのが面白い」
   
3000枚超のシールを貼って作り上げた「丸・三角・四角」=只越町のアトリエで

3000枚超のシールを貼って作り上げた「丸・三角・四角」=只越町のアトリエで

   
 ゴーイング・マイウエー。自分なりの道を突き進んできた小田島さんは幼いころから絵を描くことが好きだった。通信教育で挿絵やレタリングデザインを学び、22歳になると、浜町にあった看板店で修業を開始。同じ頃、独自のスタイルで創作活動をしていた4人で美術集団サムディ45も立ち上げた。33歳で独立、只越町に「日美画房」の看板を掲げた。仕事の傍ら、創作活動にも励み、グループ展や美術展に出品し、入選・入賞経験も多数。そして2011年、東日本大震災の津波で店と近くにあった自宅が全壊、40数点の作品も失った。5カ月にわたる避難所生活で再建の道を探っていると、ぼちぼち仕事が入るように。「負けられん」
   
津波の難を逃れたデザイン画「泰然自若」。右上写真のように爪痕は残したまま

津波の難を逃れたデザイン画「泰然自若」。右上写真のように爪痕は残したまま

  
「泰然自若」をモチーフにした作品の一つ。こちらは、がれきの写真をコラージュ

「泰然自若」をモチーフにした作品の一つ。こちらは、がれきの写真をコラージュ

   
 この個展では、流失を免れ手元に戻った、たった1枚のデザイン画「泰然自若」も紹介する。20年ほど前の二科展入選作。これをもとに考えた新しい作品数点も掲示し、「震災は必ずくる」「明日かも!あなたは『地震』に『自信』が持てますか」と問いかける。目の当たりにした巨大津波への恐怖と復興を願う熱い思いを看板形式で表現した「海は黒かった。」もインパクト大。第35回東北6県公共キャンペーン作品展(12年)で最高位の国土交通大臣賞に輝いた作品だ。がれきを処理する重機の爪を復興の象徴としてシンプルにデザイン。「爪が挟んだ赤丸がポイント」と教えてくれた小田島さんは願う。「復興の魂を込めた。感じてもらえたら、いいなぁ」
  
重機の爪をデザインした、シンプルながら迫力ある看板「海は黒かった。」

重機の爪をデザインした、シンプルながら迫力ある看板「海は黒かった。」

  
 「ロールモデル(お手本になる人物)だ」。展示を見た同年代の人、創作活動をしている若年者らがつぶやいている。「只越から離れたくない」とその地で看板業を再開し、近くにある災害公営住宅に家族と暮らす小田島さん。数年前から体調を崩したり思い通りにいかないことも多くなったが、創作意欲は衰えていない。自身初となる個展は「周囲の協力のおかげ」と感謝する。そして、「あと何年描けるか分からないが、シンプル イズ ビューティフルライフ(単純は美しい)をモットーに作品創りをしていきたい」とも。小田島イズム、健在(けんざい)。
  
「日美画房」の看板を掲げるアトリエへの通勤は自転車で

「日美画房」の看板を掲げるアトリエへの通勤は自転車で

  
被災の痕を残すアトリエも小田島イズムそのもの

被災の痕を残すアトリエも小田島イズムそのもの

  
◇記者のちょい足しキーワード◇
段落の先頭文字をつなげてみて。続けて段落の最後の文字も結んでみると「小田島イズム」が見えてくる⁈

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