黒森神楽(宮古市)3年ぶり巡行で釜石の神楽宿・宝来館へ 震災高台移転の根浜集落にも門打ち


2023/03/13
釜石新聞NewS #地域

「黒森神楽」の釜石巡行。役舞「松迎」を披露する神楽衆=5日、宝来館

「黒森神楽」の釜石巡行。役舞「松迎」を披露する神楽衆=5日、宝来館

 
 国指定重要無形民俗文化財、宮古市の「黒森神楽」が5日、釜石市鵜住居町根浜の神楽宿・宝来館で舞を披露した。新型コロナウイルス感染症の影響で休止していた新春恒例の巡行を再開。来訪を心待ちにしていた約100人が、役舞や劇仕立ての演目を楽しみ、心豊かな時間を過ごした。神楽衆は東日本大震災の津波被災で高台移転した根浜集落も訪問。犠牲者を供養する神楽念仏、家々を回って家内安全などを祈願する門打ちを行った。
 
 黒森神楽保存会(松本文雄代表、15人)の10人が来演。宿での演舞を前に、高台住宅地の入り口にある津波記念碑と地蔵の前で「神楽念仏」を行った。黒森神社(宮古市山口)の神霊を移した「権現様(獅子頭)」の舞で震災犠牲者を供養。集まった住民らは権現様に頭や肩をかんでもらう“身固め”の儀式で、無病息災などの御加護を受けた。一行は3軒の門打ちもした。
 
海に向かい、津波犠牲者を供養する「神楽念仏」=根浜復興団地

海に向かい、津波犠牲者を供養する「神楽念仏」=根浜復興団地

 
「権現様」を携えて家々を回り1年の無事を祈願

「権現様」を携えて家々を回り1年の無事を祈願

 
 同地区には35世帯約90人が暮らす。根浜親交会の佐々木三男会長(61)は「神楽は縁起物。来てくれるのは大変うれしい」と笑顔。震災から12年となる地域について、「子どもから高齢者まで誰もが住みやすいまちを掲げる。大事に育てていきたい」と思いを込めた。
 
 宝来館では宿に入る前に、権現舞による「舞い込み」で悪魔払いや火伏せの祈祷(きとう)を行った。昼休憩をはさみ、大広間で幕神楽が開演。太鼓やかねの「打ち鳴らし」後、祈祷を司る役舞、天照大御神をテーマにした岩戸系演目など全8演目を披露した。役舞は天下泰平を祈願する二人舞「松迎」、農林漁業者の信仰対象である「山の神」舞など。大漁と海上安全を願う「恵比寿舞」では、鯛(たい)を釣り上げる場面に観客も参加し会場を沸かせた。狂言の一種「鍛冶屋」は、演者のやりとりが笑いを誘った。
 
役舞「山の神」の演舞では米をまいて五穀豊穣を祈願。山の神は安産の神としてもあがめられる

役舞「山の神」の演舞では米をまいて五穀豊穣を祈願。山の神は安産の神としてもあがめられる

 
観客を巻き込み、活きのいい鯛を釣り上げる様子を演じる「恵比寿舞」

観客を巻き込み、活きのいい鯛を釣り上げる様子を演じる「恵比寿舞」

 
ユーモアたっぷりの演技で楽しませた狂言「鍛冶屋」

ユーモアたっぷりの演技で楽しませた狂言「鍛冶屋」

 
 日本の伝統舞を子どもたちの教材とする「民俗舞踊教育研究会」(東京都)の山本良江さん(60)、古矢比佐子さん(69)は長年、同神楽巡行に足を運ぶ。「歴史の重みと大衆的な面の双方が相まってすごく魅力的」と山本さん。若いメンバーの成長を目の当たりにした古矢さんは「高校生だった子たちも磨かれてきて、次世代へ継承されているのを感じる」。震災を乗り越え、地域で神楽を楽しめる空間ができてきたことにも深い感慨を覚えた。
 
後継者として今後の活躍が期待される若手メンバー。技量を高めるべく精進を重ねる

後継者として今後の活躍が期待される若手メンバー。技量を高めるべく精進を重ねる

 
見応え十分の各演目に拍手を送る観客。最後は権現様に「身固め」をしてもらった(左下写真)

見応え十分の各演目に拍手を送る観客。最後は権現様に「身固め」をしてもらった(左下写真)

 
 黒森神楽は500年以上の歴史を誇る。毎年正月3日に同神社で「舞立ち」。久慈市までの「北回り」、釜石市までの「南回り」の巡行を交互に行っている。コロナ禍で北、南の巡行をそれぞれ1年休止し、今年3年ぶりに再開させた。松本代表(74)は「お客さんも楽しんでくれた。自分たちも相手の反響によって腕以上のものを出したりできるので、こういう場はやっぱり必要」と巡行のありがたみを実感。今は20~80代のメンバーが伝承活動に励む。「先人から引き継いだものを次の人たちに渡すのが自分たちの役目。年が離れていても、目標が同じだから一緒に頑張れる」と話した。

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