釜石市民劇場 26日公演 戦時下を生きた女学生、子どもの姿描く 艦砲射撃体験者の証言朗読も
本番まで1週間。釜石市民劇場キャストの稽古=18日、TETTO
第36回釜石市民劇場(同実行委主催)は26日、釜石市大町の市民ホールTETTOで公演する。郷土の先人や歴史にスポットを当てた舞台公演を続ける同劇。本年度は太平洋戦争末期、2度の艦砲射撃により壊滅的な被害を受けた同市で、たくましく生き抜いた高等女学生や子どもたちの姿を描く。戦後77年が経過し、戦争体験者が減少していく今、罪なき人々の命を奪う戦争のむごさを確実に後世に伝え、二度と悲劇を繰り返してはならないという強い思いを発信する。当日は、ロシアによる侵攻で苦しい環境下に置かれるウクライナへの支援募金も呼び掛ける。
「七十七年前の出来事」乙女たちの戦い―と題した劇は、戦況が悪化した1945(昭和20)年春から夏の釜石が舞台。国民学校(現小学校)の子どもたちは親元を離れて集団疎開。高等女学校(現中学校)の生徒らは勤労動員や軍事訓練を命ぜられ、敵の標的となった製鉄所では工員が危険と隣り合わせで働いていた。物語は高等女学生を主人公に展開。終戦間際に受けた艦砲射撃のすさまじさ、防空壕で恐怖におびえる市民の様子なども描く。
劇中では当時、釜石高等女学校生徒だった4人の手記の朗読もある。元教諭の箱石邦夫さん(盛岡市在住)が釜石南高勤務時代、生徒たちと一緒に当事者から集めた証言書簡集「八月のあの日・乙女たちの仙人越え」(編者=箱石さん)から抜粋して聞かせる。同書は脚本にも生かされた。
小学生キャストは遠野へ疎開した釜石国民学校学童を演じる
釜石高等女学校生徒役の釜石商工高なぎなた部員らは劇中で技も披露する
主人公の両親役(左2人)は経験豊富なキャストが務める
キャストは若手を中心とした18人。10人が初参加で、新しい風を吹き込む。公演まで約1週間となった18日は、会場となるホールAでの初稽古。動きながらのセリフ回し、広いステージの使い方などを確認しながら練習に励んだ。
劇中でなぎなたを振るう高等女学生役で出演する高橋ことさん(17)は釜石商工高なぎなた部所属。小学校以来の演劇に挑む。曽祖母から戦時中の話を聞いて育ち、「曽祖母が経験したであろうことを自分が演じるのは不思議な巡り合わせ」と特別な思いを抱く。「公演当日までに完成度を高め、戦時中でも仲間と懸命に生きていた姿を見せられたら」と意を強くする。
警備兵役の八幡祐哉さん(37)は職場の先輩に誘われ初参加。「当時の軍人の振る舞いなど想像がつかない部分があるが、やるからにはしっかり演じ切りたい」と役作りに励む。祖父は特攻訓練を経験、祖母は製鉄所のトンネルに避難し砲撃から逃れた。「今回の出演を亡き祖父母にも報告したい。劇を通して戦争を知らない世代にも伝わるものがあれば」と願う。
主人公の女学生「みよ」を演じる矢浦望羽さん(中央)。初の大役に奮闘中
主人公の女学生「みよ」を演じるのは、同劇8回目の出演となる矢浦望羽さん(17)。初の大役、戦争というテーマに難しさを感じ、「初めての壁にぶち当たっている」と頭を悩ます。みよは「思ったことをはっきり言うタイプ。感情表現もストレート」。場面ごとに異なる感情の表し方を模索し、努力を重ねる。ロシアとウクライナの戦闘は今なお続き、大勢の一般市民が犠牲になっている。「戦争はだめなもの。一生懸命演じることで、何らかのメッセージを受け取ってもらえたら」と矢浦さん。
釜石市民劇場が戦争を題材にするのは、戦後60年で公演した2005年の作品以来。今回脚本を手がけた同実行委の久保秀俊会長(74)は「戦時下で抑圧されながらも、子どもたちは不平不満を言わずに過ごしていたのだろう。劇中では心の底で思っていたであろう本音も会話に盛り込んだ」と話す。当時、高等女学生だった人たちは多くが90歳以上。記憶のある世代の生の声を聞ける機会は今後さらに減っていく。「今だから伝えねば」と久保会長。
キャストの稽古を見守る久保秀俊会長(右側写真手前)
公演本番へ向け、役作りに集中。熱のこもった稽古が続く
26日は午前10時半、午後2時半の2回公演。前売り券は1000円(中学生以下500円)、当日券は1300円(同700円)。チケットは市民ホールTETTOなどで販売中。
釜石新聞NewS
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